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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 イスラマ神聖皇都】の章

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126羽:兄様と妹とオレ



遠目の利く『魔獣喰い』マジウスことオレは、右手を上げて後方の仲間に“危険止まれ”の合図を送る



女性陣を乗せた馬車を中心にした縦長の商隊がその合図と共に止まる



護衛の傭兵達や森の戦士は武器を構え、陣形を組み直し警戒態勢にはいる



「マジウス、どうしたのだ?」



突然の出来ごとに馬車に乗り込んでいた森の研究軍師セリーナが、オレの近くに来て状況を確認してくる



「セリーナちゃん・・・皇都の城門の前に完全武装の皇国近衛騎士団が待機しています・・・もしかしたら、皇都で何かがあったのかもしれない」



オレは遠目で分かる状況を軍師に報告する



皇都にオレたちやセリーナが行く事は、数日前に早馬を出し知らせていた



今回は正式な使節団ではないが、蛮族丸出しの森の戦士が突然大きな街に行くと毎回トラブルに巻き込まれて大変だ



特に今回は皇国のお姫様であったセリーナが、数年ぶりの帰国という事もあり念には念を入れてあった



(事前に連絡をしておけば頭の回る新教皇マリオの事だから、上手く入城させてもらえると思ったのだけども・・・)



周囲を警戒しつつオレは部下に指示を出し、最悪の状況に備えておく



(イザとなったらセリーナちゃんやレイアお嬢様たち女性陣だけでも、何とかここから逃がさないと・・・)



確認済みだがこの街道の後方には小さな森のあった



そこまで行き身を隠せば何とか逃げ切れるはずだが、知略に優れた司令官であるマリオならそこに伏兵を潜ませている可能性もある



「『魔獣喰い』、どうやら楽しくなりそうだな」



まだ暇を持て余していた重戦士『岩の矛』だけは、嬉しそうにこの状況を楽しむ



・・・・とりあえず、最悪の状況を想定しながらしばらく様子を見る




すると前方の城門から一騎の騎兵がこちらに向かって来る



遠目で分かりにくいが槍や鎧で武装はしていない・・・使者の様だ



手には豪華な家紋が描かれていた旗を持ち、こちらにゆっくり近づいてくる




「あれは教皇旗・・・・あの騎兵はにい様なのだ!」



セリーナの目でも見える距離に近づいて来たその騎兵の顔にオレは見覚えがあった



このイスラマ神聖皇国の最高権力者である新教皇マリオ・アリスタその人であった





「いや、驚かせてすまないね」



城壁内の小高い丘にある巨大な建築物“大聖堂”の廊下を歩きながら、新教皇マリオはこちらに謝罪してくる



「ハッハッハ、兄様は昔から人を驚かせるのが得意だったが、今回は悔しいが私も騙されたのだ」



そんなマリオの隣を歩くのは彼の実妹である森の研究軍師セリーナ



この国のお姫様でもある



この二人の周りには屈強な皇国近衛騎士が護衛に付いており、その身分の高さを今更ながら実感する



(人を驚かせるのが得意とか・・・あれは冗談だったのか・・・恐ろしい人・・・・)



そんな事を思いながら、森の戦士の中で唯一大聖堂に入る事を許されたオレはその集団の後ろを付いて行く



二人の会話を聞いていると、何でも小さい頃からこの兄妹は城の住人達に色々な悪戯いたずらをし、驚かせて楽しんでいたという



煙幕で城を大火災に見せかけたりとか、近くの小川の流れを操作して城内の井戸を逆流させて水没させたり・・・・



天才同士なのだろうか、その発想と規模は悪戯いたずらの枠を超え攻城戦の計略の域に達していた



(それにしてもこの兄妹は本当に仲がいいな・・・)



特に兄であるマリオの妹セリーナに対する愛情は強化型シスコンだ



妹の為に近衛騎士団で出迎え、城門からここ大聖堂までの道を封鎖し沿道の市民にサクラを仕込み花吹雪のトンネル



本来なら申請受諾に数日間は待たされる“大聖堂の皇国蔵書の間での閲覧”という妹のお願いも難なく了承していた



確かにセリーナちゃんは可愛い女の子だが、この世界の兄たちは全員こうなのだろうか・・・




「ここだ」



そんな事を考えている内に、マリオの案内のもと厳重な警備の中を通り“皇国蔵書の間”に着く



中に入ると大きな部屋の壁一面に重厚な本棚が立ち並び、豪華に装飾された本や長い年月により表紙が色あせた物など訳ありの本が多く収められていた



「これは・・・予想以上に凄いのだ・・・」



その光景にこれまでにない位に目を輝かせる軍師セリーナ



この部屋は何でも“禁の間”らしく、例え皇族であったとしても時の教皇の許可がなければ入室が出来ないという



つまりそれだけ重要な情報や“魔”に対する蔵書がある可能性が大きい



「うっ・・・眩しい・・・」



その圧倒的な蔵書量に、活字アレルギーのオレは全身拒否反応が出る



古き良きこの異世界に来たにも関わらず、またこの天敵に出会ってしまうとは・・・



「可愛い我がセリーナよ。衣食住はこちらで全部準備しておくから、お前はゆっくりここで“魔”について調べて行くがいい。私も政務の合間をぬって毎日手伝いに来るからな安心しなさい」



ブラコン全快のお兄さんは満面の笑みで、妹の滞在期間中の指示を出す



むしろ彼女の為に豪華な屋敷まで用意して森に返さない思惑も見える



(前にも思ったけどセリーナちゃんはお姫様なんだから、このまま皇都に残り暮らした方が幸せかもしれない・・・)



そんな事をふと思い、また自分ひとりで寂しくなる



来訪者であるオレたちにも、皇都の御用達の宿を準備しておいてくれたという事だったが、ここまでの警護が今回の任務なので休日がてら数日滞在し観光でもしたら、またフランケンの村に戻ろうかと思う



何しろオレは責任ある領主だからね





「そういえばマジウス君・・・」



そんな事を考えていたオレに、マリオが近づき話しかけてきた



こうして二人だけで話すのは初めてな事で少し緊張する



「前々から君の生まれの事で聞きたい事があったんだ・・・生まれというか、それ以前の話なんだが・・・」



その表情は先ほどまでの妹に向ける無邪気な笑顔とは違い真剣そのものだ



(生まれる以前って・・・それって・・・)




「マリオ様、お話中に失礼致します!」



そんなオレたちのやり取りは、突然入室して来た女騎士の一声により中断される



その生真面目そうな顔の女騎士の顔にオレは見覚えがあった



(秘書騎士ちゃんだ・・・)



前回の皇国軍がグラニス領に侵攻して来た時、マリオや聖女エレナと一緒に当陣地に使者として来た秘書騎士エマであった



「エマ、どうした?」



オレの隣にいたマリオは自分の側近に話を中断された非礼を許し問いかける



いつもは冷静なエマだが余程の急用なのだろう、少し焦りが見える



「北の砦から緊急の伝令馬が来ましたが・・・・」



秘書騎士エマはオレの顔をチラリと見て言葉を濁す



この中でオレだけが部外者だ



「例の北の奴らか・・・彼なら大丈夫だ。僕の大事なお客様だ」



マリオは表情崩さずに伝令の内容を話すように言う



「ハッ、北の砦からの伝令馬の話では、“北馬族”が国境沿いの街を落としてこちらに南下しているという事です」



「そうか、また奴らか・・・それならこの皇都にいる誰か将軍に軍を率いて制圧してもらうしかないな」



マリオは慣れたものなのか冷静に指示を出す





(“北馬族”か・・・前にセリーナちゃんに聞いた事があるな・・・)



イスラマ神聖皇国とベール王国の北に国境を接し、東西に長い草原を領土とする“北馬族”



放牧と侵略略奪を生業なりわいとする彼らは、定期的にそれらの国に侵略を繰り返しては国土を荒らし領主たちを悩ませていた



文明度はそんなに高くはないが、幼い頃から馬に触れその巧みな綱さばきで全員が優れた軽弓騎兵である



放牧によって鍛えられたその騎馬団の連携は、押せば引き引くと攻めて来る、と手の付けられない部族だという



ただ、定住する習慣を持たず、ある程度の略奪を繰り返したらまた草原に戻るので、各国の中央都市にまではそこまで影響はないらしい・・・





「ハッ、ですが伝令の話では今回の侵攻を指揮する敵の司令官はあの“白猫鬼”という話です」



「なんと・・・・あの大斧使いの悪魔が再び・・・」


「斧女帝がまさか司令官に昇格していたとは・・・・」



その報告を聞きマリオの側に控えていた側近たちが騒ぎ始める



どうやらかなりの強者なのだろう



「マリオさん・・・その“白猫鬼”というのは、そんなに手強い奴なんですか?」



・・・何でだろう



なんとなく・・・・嫌な予感がする



聞いたら後には引けなさそうだ・・・



だが、オレはマリオさんに思い切って訪ねてみた



「ああかなり厄介な敵だ・・・ここ一年位前に突然“北馬族”に現れた女戦士の武将だ。身丈を超える恐怖の大戦斧を自在に操り、その戦闘力はとても人のものと思えない程だという・・・更に面倒な事にそのそばにはいつも“白狼”と呼ばれる凄腕の弓使いが控え、目に見える距離の者を全て一矢で射るという・・・・本当に厄介な事になったな・・・」



知略に優れるマリオですら眉をひそめる相手だ



よほど手強いのだろう



「マジウス・・・それはまさかなのだ・・・・」



話を聞いていた“大砦”研究軍師セリーナがオレの方を見て呟く



ああ、嫌な予感が当たりそうだ・・・その先は言わないで欲しい・・・



オレの休日は無くなる・・・



「その“白猫鬼”とは行方知らずの“白猫姫”様ではないか?」



天才セリーナはその情報を元に有力な仮説を導き出した



(ああ・・・やっぱりそうだよね・・・それしかないよね・・・)



皇都に来てのんびり観光でもしようと思っていたオレだったが、そうは問屋が卸さないのだろう・・・





こうしてオレはまた大きな波に巻き込まれようとしていたのだった






登場人物の主要キャラを簡単に説明します




《皇都行きご一行様》


『魔獣喰い』マジウス・ダンシャク

森の弓戦士。男爵位を習得しフランケンの村の領主となる。優秀な部下に恵まれ最近はやる事がない。研究軍師セリーナの護衛として部下と共に皇都に向かう。安全で簡単な任務(予定でした)




精霊神官ちゃん

マジウス・ダンシャクと共に下界の村に赴く。医者兼“砂糖工房”監督。豪華な馬車に乗り悠悠自適な旅に便乗中。皇都での買い物と買い食いを夢見ていた。




イスラマ神聖皇国『聖女』エレナ

マジウス・ダンシャクと共に下界の村に赴く。フランケンの村の教会の司祭は皇国から派遣された者に任せてマジウスの旅に同行する。皇国では偉い人になる




重戦士『岩の矛』イワノフ

いつも通り『魔獣喰い』に付いて来た。安全な道中の暇を持て余していた



“レイアお嬢様”レイア・ケルガー

大陸最大商会“ケルガー商会”の令嬢。大陸東部の最高責任者。趣味の悪いフリフリのドレスや扇を愛用する。見た目はアレだが商人としての能力は高い。巻き髪。皇都に着いてまずは自分の商館に行く。



“居合のダテツ”ダテツ

レイアお嬢様の専属護衛の一人。故郷である“ニの国”は大陸の西北に浮かぶ小さな島国。

長らく鎖国の政策をとってきた小国で独自の文化が花開いており、風光明媚な四季豊かな土地らしい。今は単身海を渡り、縁がって今はレイアお嬢様に仕えている。“大陸七剣王”の一人






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