125羽:聖なる教えの国
抜けるような青空の元、盆地を越え山や森の中を切り裂くように街道が突き抜ける
街道の両側には森林や小川が点々とし、それを抜けると秋に向けて穀物や野菜を植えた畑も見えてきた
農作業をする農民たちは何事かとこちらを見てくるが、害がないものと分かるとまた作業に戻る
先ほど丘の上に見えた砦が国境線を表す境目という話だから、ここはもう異国の領土内なのだろう
盗賊団や獣に襲われないように周囲を警戒しながら街道を進んでいるが、やはり初めて来た異国の様子を見てオレは興奮していた
「イワノフ、見てみろよ。凄く大きい人の像があるぞ!あれは何だ・・・?」
『魔獣喰い』マジウスことオレは、そんな街道を暇そうに並歩する『岩の矛』イワノフに声を掛ける
「ありゃ・・・女の像か何かじゃいか」
異国の風景に興奮しているオレに比べて、『岩の矛』のヤツは詰まらなそうに返事をする
「女性か・・・確かに女性の像だな・・・この国の女王様の像かな?」
この国を訪れた旅人を祝福するかの様に小高い丘に両手を広げて立っていたその白い像は、よく見ると柔らかい曲線を体に描いた女性の石像であった
「マジウス様、イワノフ様、あれはこのイスラマ神聖皇国で広く信仰されています“聖教”の神“聖太母様”の像でございます」
そんなオレたちのやり取りを聞いていたのか、『聖女』エレナが乗っていた豪華な馬車の小窓から顔を出し教えてくれる
「“聖太母様”か・・・それにしても大きいな・・・・」
近付くにつれてその大きさが実感できる
かなりの大きさの石像だ
これがこの皇国領の各地に建造されているというのだから、これだけでもこの国の国力の高さと国民の信仰心の深さが感じられる物だった
(イスラマ神聖皇国・・・恐るべしだな・・・)
・・・・そう、オレたちはフランケン村を出発して、ここイスラマ神聖皇国に入国していたのであった
遡ること二週間前、フランケン村の酒場にいきなり現れた森の研究軍師セリーナ
上官である彼女の指令によりオレも旅の出発した
今回の旅の目的は皇国の首都である皇都に行き、大陸でも有数の蔵書量を誇る大聖堂図書館での“魔”の資料調査だ
調査するのはセリーナが主体となるので、彼女の皇都までの警護が主な任務になる
オレはフランケン村に領主補佐官のクリステルとイケメン副官たちを残し、数日間の準備の後にこの皇国行きの旅に出発したのだ
村の方も心配だったが、オレの部隊も以前の小隊の数倍の規模を誇る“中隊”に昇格していたので、残す戦力や村復興人員にも余裕がある
(でも領主が村を留守にして大丈夫かな・・・)
「もともと班長はそんなに領主の仕事をしていなかったから、気にせずゆっくり行ってこい」
イケメン副官もクリステルちゃんもオレには厳しい
そんな優秀な部下のサポートもありオレはのんびり旅をしていた
皇国とベール王国は停戦協定を結んだ後に友好条約も締結していたので、そこまでの危険はないだろう
フランケンの村から皇都までは街道が伸びており、高低差も少なく馬車による移動も快適だ
例によって自分たちを鍛える為に戦士たちは徒歩だが、この国は治安もそこそこ良さそうなので観光気分でオレは道中を楽しむ
(あっ、でもあの“聖太母様”の像って少し面白い顔してるな・・・)
「マジウス様、この皇国では聖教の教えは絶対でございますわ。くれぐれも粗相ない様にお気を付けあそばせください」
そんな浮かれ気分のオレの心の中を読んだのか、セリーナと同じく馬車に乗っていたレイアお嬢様がチクリと釘を刺してくる
「ハッハッハ・・・気を付けます」
(・・・そうだ、このお嬢様の事を忘れていた)
今回の研究軍師セリーナの皇都行きの旅には、この大陸最大の大商会“ケルガー商会”のレイアお嬢様も同行している
彼女には二週間前の“敵”の襲来を迎撃する時に、罠に掛ける為の“エサ”になってもらった見返りとして、撃退した魔獣の素材を引き渡す約束をしていた
だが無事に召喚された魔獣は撃退したものの、その群れの残りと死骸は撤退時に全部消えて行った
「『魔獣喰い』よ、召喚された魔獣の群れと死骸は前回も全部消えていたのだ。もしかして、それを分かっていてケルガー商会を騙したとは、お前も大人になって悪賢くなったものなのだ」
そんな感じで軍師セリーナちゃんに感心される
「マジウス様ひどいですわ・・・私の事をお騙しになったのですね・・・」
うっかり忘れとはいえレイアお嬢様にもそんな事を言われて泣かれる始末
「魔獣の素材は仕方がありませんが、その代わりにお願いがございますの」
焦るオレの弱みに付け込んだのか、レイアお嬢様は急に涙を止めてオレの目を見てくる
「新しく教皇になられたマリオ聖下に、ぜひ御目通りの橋渡し役をお願いしたく思いますわ」
・・・・流石は天下の大商人のご令嬢・・・転んでもただは起きない
もちろん断り切れないオレはセリーナちゃんにお願いして同行してもらう事になった
今回の旅の一行はケルガー商会の豪華な馬車と荷物を積んだ数台の荷馬車を中心に、オレたち森の戦士たちが徒歩によりその周囲を警護する集団だ
道中何度か荷馬車を狙った小規模の野盗に襲われたが、暇を持て余していた『岩の矛』をはじめとする森の戦士団に一方的に叩きのめされ、オレは彼らがお気の毒にさえ見えた
・・・
そんな感じでオレたちは無事に皇都に到着した
皇都に近づくにつれて街をぐるりと取り囲む強大な城壁が見える
街の規模でいったら伝統あるベール王都や多国籍なヴェルネア帝都にも引けをとらない大きさに感じる
だがその二都市と大きく違うのは、遠目からでも見える街の小高い丘に建つ巨大な大聖堂の存在だ
大陸最高長の建築物だという
(まさに“聖教”の威厳がそのまま形になったような荘厳な建築物だ・・・)
一行の中で一番目のいいオレはそんな事を思いながら皇都に近づく
(ん?)
いよいよ城壁の中央にある正門に近づき、オレは異変を感じた
城門の前が何か騒がしい
その城壁の前に横並びの“白と黄色の人影”が立ち並んでいるのが見える
よく見るとそれは白黄色の全身鎧を着込んだ集団であった
それは見覚えのある集団である
「イスラマ神聖皇国近衛騎士団・・・・」
数か月前にベール王国に侵攻し、王国中を震撼させた恐怖の騎士団
その騎士団が完全武装でこちらを迎え構えていたのであった
登場人物の主要キャラを簡単に説明します
《皇都行きご一行様》
『魔獣喰い』マジウス・ダンシャク
森の弓戦士。男爵位を習得しフランケンの村の領主となる。優秀な部下に恵まれ最近はやる事がない。研究軍師セリーナの護衛として部下と共に皇都に向かう
研究軍師セリーナ
”魔”と大森林の研究を行う才少女。最近はみんな知っているが実はイスラマ神聖皇国のお姫様。
精霊神官ちゃん
マジウス・ダンシャクと共に下界の村に赴く。医者兼“砂糖工房”監督。豪華な馬車に乗り悠悠自適な旅に便乗中。
イスラマ神聖皇国『聖女』エレナ
マジウス・ダンシャクと共に下界の村に赴く。フランケンの村の教会の司祭は皇国から派遣された者に任せてマジウスの旅に同行する。
重戦士『岩の矛』イワノフ
いつも通り『魔獣喰い』に付いて来た。凄まじい回復力で大怪我も全快。
“レイアお嬢様”レイア・ケルガー
大陸最大商会“ケルガー商会”の令嬢。大陸東部の最高責任者。趣味の悪いフリフリのドレスや扇を愛用する。見た目はアレだが商人としての能力は高い。巻き髪、カップ。
“居合のダテツ”ダテツ
レイアお嬢様の専属護衛の一人。故郷である“ニの国”は大陸の西北に浮かぶ小さな島国。長らく鎖国の政策をとってきた小国で独自の文化が花開いており、風光明媚な四季豊かな土地らしい。今は単身海を渡り、縁がって今はレイアお嬢様に仕えている。“大陸七剣王”の一人
《フランケン村 留守組》
クリステル・デリス “妹騎士ちゃん”
ベール王国の女騎士。 “女騎士ちゃん”スザンナの実妹。生真面目な性格で近寄りがたい雰囲気を持つ。着やせタイプの姉は逆でややスレンダーな体型で内政に優れた能力を持つ領主補佐官。
副小隊長イケメン剣士
ほぼ領主代行
無口な重戦士『荒き牛』
建設大臣
腹黒『坊ちゃん』
財務大臣
“山穴族”
数年前から金属鎧談義を通して魔獣喰いマジウスと親交を深めていた。珍しい素材、金属、酒に目がない。力は強いが争いは苦手。村の鍛冶指導者。




