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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 フランケンの村】の章

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124羽:獅子王子と青年剣士

暗闇の森の中を駆け抜け、その影は目的の場所へ辿り着く



気配を消した見張りが定期的に外壁の見回りをしており、その一人一人の練度の高さを感じながらついつい笑みがこぼれる



だがここまで来て見張りに見付かる訳にはいかない



巡回兵の隙を突き城壁を超えて城内に侵入する



増築や改修が行われていた様だが、基本的な構造は以前ここを訪れた時とあまり変わってはいない



記憶を頼りに自分のカンを信じ、城内警備に見つからない様に姿を闇に紛らわせ気配を消して進む




城内に入り目的の部屋の前に着いたが、どうも部屋の中は無人で気配が無い



あの男なら気配を消す位は当たり前に行いそうだが、ワシには分かる



“ここには居ない”



何かに引き寄せられるように、再び城を抜けて併設する村の中を進む



確か“大村”という名の村だ



この大森林の中で最大規模を誇る集落で“街”といって過言ではない大きさだが、彼らは“大村”と呼んでいた



この村も以前来た時に比べて大分建物は増えその領域を拡大していた



何でもベール王国から穀物を輸入し、森の中で流通を起こし人口増加に革命が起きているという



あの男も昔からこの閉鎖的な部族内で色々と試していたが、その血を引いているだけあって娘も大分飛んでいた



一年間しか一緒にいなかった女戦士だが、今では自分の孫の様に可愛く思えるから歳は取りたくないものだ



そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか村外れの訓練所に辿り着く



かなり辺鄙へんぴな場所で周りには民家もなく、訓練所というようりは自作の弓矢の的場だ



だがこれ程長い距離の的場は、王都の弓兵の訓練所でも見たことがない程の長さ



確かにこの森の狩人たちは弓矢の技術に優れているが、ここを最大限に活用できる者はそう多くはないだろう



そんな事を考えて眺めていると、その的場の中央に人影がある事に気付く



こんな真夜中に、しかもこんな場所に怪しい影だ



それを言うのなら自分もそうなのだが、自分は明らかにこの村にとっては招かねざる客だ



だがそんな怪しい人物を見てもワシは警戒はしない



何故ならワシが探していた人物その人なのだから





「こんな夜中に城を抜け出して散歩とは、随分と感傷深くなったものじゃの」



ワシは少し皮肉を込めながらそう呟き影に近づく



「今宵は月が綺麗でな。こんな夜はあと何回見られるか分からないで、惜しくもなる」



その影は最初からこちらに気付いていたのだろう



こちらに驚きもせずにそんな言葉を返してくる



声の質は以前に相対した時と同じだが、その時に比べて覇気はなく声量も心細い



だがそれに相反し、その夜空を眺める背中に一切の隙は無く、むしろ斬り掛かった瞬間に返り討ちに合う感もある



(腕を上げでいたな・・・それも恐ろしく)



その事を嬉しくも思いつつ、そして惜しくも感じる



「それにしても随分とまあ、やせ細り弱々しくなったものじゃの・・・そんなのではワシとの約束も守れまい」



ワシは惜しさと悲しさを隠す様に、そんな軽口をついつい言ってしまう



「確かに“運命のしょく”にむしばまれたこの身の筋力は削げ落ち、あの時の素早さも見る影も無い・・・だが、不思議と怖くはないのだ・・・以前ならそなたの姿を遠目で見ただけでも心震えていたものを・・・」



そんな言葉を吐きながら、彼は自分が若かりし頃を思いだしているのだろう



この目の前の戦士がまだ成人したばかりのヒヨっ子で、とうも年上のワシが剣士として成熟していた頃であろう



その生意気なヒヨッ子を当時は何度もぶちのめしたのを思い出す



ついワシも当時を思い出し懐かしく感傷に浸る



だが、この隙の無さなら・・・どうやらあの時の約束は果たせそうだ



「すまんな・・・もう少し早くここに来られたらよかったんじゃが」



感傷に浸ったせいでワシもついつい言葉が弱くなる



「なに、気にするな。そなたも我も、お互い呪を受けて行き来が出来なくなった身・・・封印と役目が解け、こうして相対せただけでも奇跡であろう」



そう言いながらいつの間に、目の前の戦士“獅子王ししおう”はその両手に剣を構えていた



(いつの間に・・・ふっ、これだから歳を取ってもコレは止められないのじゃ・・・)



口元に笑みを浮かべつつ“剣匠” ヴァルター・クロンベルクも腰から愛刀を抜く



それはいつもの木剣ではない



刀身に怪しい波紋を光らせた湾曲した刀だ



「懐かしい“刀”だな・・・まだその刀を使っていたのか」



“獅子王”は懐かしそうにその刀を見つめる



「あの時にお前さんの母親から頂いた名刀だ・・・勿体なくて普段は神棚に上げているが今日は特別だ」



剣匠はその刀を下段に構え獅子王に歩み寄る



獅子王もその左右に持つ二対の剣をぶらりと構えながら、剣匠の方へとゆっくり近付く



両者の距離はお互いの剣と刀の間合い、制空圏内へと入る



人気の無い村の外れの訓練所に沈黙と闇が広がる



騒がしい羽根虫さえもその演奏を止めていた



例え今誰かがここに来たとしても、それに反応している余裕はない



ただ、ただ無心に目の前の偉大なる戦士の王に集中する



“無駄な手数はいらない一撃で決まる”



自分の剣の人生の全てを吐き出し、この男にぶつける



剣匠は呼吸を抑え、相手に飲まれる自分に喝を入れ直し集中する




・・・・




それは一瞬だった



お互いの剣と刀が神速で駆け抜ける



もし周りで見ていた者がいたのなら、何が起こったかすら気づかない程の一瞬だった



光が一瞬輝き、闇を切り裂いた



「ヴァルター・・・礼を言うぞ・・・」



地に倒れている獅子王は、自分の事を無言で見つめる下界の剣士に礼を言う



「この我が・・・大森林最強・・・大陸最凶とまで呼ばれた我が、“運命のしょく”によりとこで命尽き果てる事なく・・・こうして友の刃にて、この世に分かれを告げられるとは幸せな事だ・・・」



致命傷を受けたはずの獅子王は、むしろ笑顔を浮かべて清々しさえ感じる



例えこの森の精霊大神官であってもこの致命傷を治す事はもう出来ないだろう



それは必殺の剣を放った剣匠が一番分かっていた



ヴァルターは言葉が出て来ない・・・



「もし我のワガママを最後に聞いてくれるのなら・・・我が子たちの“壁”になってくれ・・・昔の我にそうしてくれた様に・・・」



「ああ、分かった・・・だが、ワシのやり方はキツイぞ・・・」



ようやく言葉を絞り出した剣匠はそう答える



「ああ・・・それは知っている・・・・それから“風”よ」



目の前の死に逝く王は、誰もいないはずの闇夜に突然声を掛ける



《ああ・・・ここにいる》



ワシは驚きのあまり声が出ない



先ほど急に闇に現れたその気配の持ち主の声が、自分に聞き覚えのある声だからである



姿は闇に紛れ見えない



だが確実にそこにいた



その声に“今は”敵意はない



二人のやり取りを見守る事にする



「“風”よ・・・お前もいつまでも・・・そんなに真面目に生きても面白くはないぞ・・・たまには“世界の運命や未来”の事なんて放り出し、我らの様に好きなように生きて死んでみるのもいいモノだぞ・・・」



《ああ・・・気が向いたならな・・・》



暗闇に潜む“風”と呼ばれた男はそれだけを答え、後は何も言わずに獅子王の最期の言葉を何か聞いている






剣匠ヴァルターはそんな二人から少し離れ、涙を見られない様に昔をまた思い出す



『我はこの大陸最強の戦士“獅子王子”なるぞ!』


『おお、ヴァルター!下界にはこんな美味い食い物があったのか!うらやましぞ!』


『ヴァルター!ここは我一人に任せて先に行け!王女の事は頼むぞ!』


『我は森に帰る事を決めた・・・今後はもうこの下界に出て来る事は出来まい・・・だが、ヴァルター、貴様との勝負は必ずもう一度つけるからな!』



・・・・・・



もう三十数年前の事だが、つい最近の出来事の様に思い出される



耳が痛くなるほど声と態度がデカく、それ以上に腕っぷしに自信があった森の少年が、いつの間にこうなるとは当時は夢にも思わなんだ



冒険を求めて仲間たちとひたすら大陸中の国や秘境を旅したものだ



当時の仲間の多くは既に他界しており、一番性格が悪いワシが生き残るとは何とも神様も不公平な話だ




「・・・では、ヴァルター・・さらばじゃ・・・」



獅子王はそう言い残し・・・静かになる



ワシは友の亡骸に近づき、その開いたままのまぶたを閉じてやる




「さて、ワシはこの男ほど優しくはないぞ・・・今度その姿を見せたなら容赦はせぬ・・・」



ワシは闇に名残惜しそうに立ち残るその“モノ”に威圧しながら宣言する



《ああ・・・分かった・・・》



その返事と共に気配はどこへともなく消えていく



「やれやれ・・・これを最後にもう剣の道は捨てようと思っていたのじゃが・・・どうしてこうも年寄ばかりをこき使うのじゃ・・・」



独り言の様にそう愚痴りながらも満更まんざらではない



大陸最強の戦士から死ぬ間際に渡された土産だ



この命と引き換えでも叶えてやろう



「さて・・・」



剣匠は自分の腰に差していた愛用の木剣の方を抜き取り、偉大なる戦士の亡骸の前の地面に突き刺す



それは墓標でもあり道しるべでもある



「さて、では帰るとするか・・・」



目的を果たしこの森を去る



だが新たなる目的ができ忙しい日々になりそうだ



「では、戦死者館ヴァルハラでまた刃を交える日までさらばじゃ」



そう友に言い残し剣匠は姿を闇に消して行った






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