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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 フランケンの村】の章

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156/204

123羽:戦いの後に訪れる

《まさか・・・これ程とはな・・・》



蒼竜王そうりゅうおう”は自分のわき腹に空いた風穴を確認し、目の前の若い戦士に視線を向ける



痛みはない“この身体”だが、この傷では帰還ししばらく再生が必要だろう



手負いのまま戦いを継続するのもいいが、召喚した魔獣の多くは打ち取られ、また別働隊である“紅鳳王べにほうおう”の気配も先ほど消えたところを見ると、今回の作戦は失敗に終わったかもしれない



無謀と勇気は別物だ



撤退を視野に入れる



《だが“特異点”の封印が第三層まで解かれ、こうして才能のある戦士の一皮剥けた瞬間に出会えただけでも、我個人にとっては大収穫とも言えるがな》



「・・・」



本人にそう語りかけたつもりだが、目の前の戦士『岩の矛』から返事はない



壮絶な一騎打ちで数十合刃を交えその戦いの最中、窮地きゅうちに陥ったこの男が突如この状態になったのだ



見るからに無防備で無力



だが近づき敵意を浴びせた者には容赦ない反撃が飛んで来る



それはこのわき腹の傷の身を持って体験していた



《未熟ながら“無我の境地”の入り口にでも立ったとでも言うのか・・・》



永らく武に身を置く者が厳しい修行の末に辿り着くという究極の極意



自分もかつてはその道を探り日々戦いに明け暮れていたが、今はこうして身を変え名を変えて大きな力を入れた



だがそれは武の極への近道であった様で、実は挫折の道であったのかしれない



《もう一度、この力に頼らずに我が身を鍛え直すとでもいうのか・・・》



そんな自分の独り言に気付き苦笑する



《“門”よ・・・》



その言葉と共に“蒼竜王そうりゅうおう”側に不思議な空間が現れる



《さらば『岩の盾』が息子・・・いや、森の戦士『岩の矛』よ。また会う日まで精進しとくのだ》



半無意識状態の『岩の矛』にその言葉が恐らく届いていないだろう



だが、敬意を払いそう言わずにはいられない



・・・・・・



その“門”が閉じると共に、その周囲に召喚されていた魔獣の群れも死骸ごと消えていく



その場に残されたのは激戦で傷付いた森の戦士と兵士たち、意識を失い仁王立ちしていた若き戦士、そして静寂な闇だった







『魔獣喰い』ことオレは目を覚ます



見覚えのある部屋の天井



・・・ここはフランケン村の領主の館の一室だ



自分の身を確認すると簡素なベッドの上に寝かせられており、掛けられた毛布の下は全裸であった



(何でオレはこんな所に・・・“槍の敵”を待ち伏せにして、逆に敵の作戦にはまり神官ちゃんが襲われて・・・それから・・・)



それから先は記憶が無かった



オレは枕元に畳み置いてあった自分の服を着込み、とりあえずその部屋を出る事にする



「あっ、班長、起きたのか。色々と仕事が溜まっているので早速頼むぞ」



隣の部屋では声を掛けてきたのは、書類に目を通し分別していたイケメン副隊長である



その指さす方にはあるのは積み重なった書類の山であった



(・・・・・・)



オレは山の様な書類にサインを無心に書きまくる



ある意味“無我の境地”だ



隣で確認をしながら手伝ってくれているイケメン副隊長に、サインをしながら事の顛末てんまつを聞く




オレはあの戦いから数日間意識を失っていたのだ



槍使い“蒼竜王そうりゅうおう”との戦いの最中に意識を失い、森の中で見つかったという



その後の戦いは、オレ以外の森の戦士や護衛戦士たちの奮闘もあり、二人の“敵”と魔獣を撃退し何とか今回のターゲットでもあったレイアお嬢様も無傷で守り切った



多くの戦士や兵士たちが傷付いたが、今は精霊神官たちがその特製の薬草と精霊術で傷を癒し、多くの者が回復に向かっているという



(あ、そういえば神官ちゃんたちは大丈夫だったのだろうか?)



イケメン副官に聞いてみる



精霊神官たちは護衛戦士たちと共に女弓使い“紅鳳王べにほうおう”を撃退して神官ちゃんも無事だという



(よかった・・・)



オレは溜まりに溜まっていた領主のサインの仕事をしながら安堵あんどする



それ以外にも朗報があった



オレが意識を取り戻すちょっと前に大森林から援軍も到着していた



急連絡用の“鳥”の手紙で今回の襲撃を知った森の戦士団が来てくれていたのだ



応援戦士は前線復帰が出来ない重傷者と交代し、新たにこの村の住人として警護にあたり、それによりこの村の警護戦士は以前の数倍の中隊規模へと拡大しており、オレとしてもとりあえずは一安心だ



「はい、班長、これにもサインを」



そんな感じでさっき書いた書類は、どうやらオレが小隊長から中隊長に昇進する承諾書だったらしい



森の戦士団もいつの間にか書類社会になっていたんだね・・・



実感はないがどうやらオレは今日から森の戦士団の“中隊長”という事だ



地味に思えるかも知れないが結構な大ニュースだ





地獄のサイン攻めも終わり、解放されたオレはようやく自由時間を得て館の外に出る



シャバの空気は美味しい気分だ



村の中を散策して気付くが、フランケンの村はあの襲撃があってもこれまでと変わらない様子に見えた



襲撃自体を人気の無い離れた森の中に誘導していたし、厳しい訓練に耐えてきた自警団の兵達の口も固い




「よお、随分と遅い目覚めだったな」



村の端の訓練所で今日も自警団に厳しい訓練を課している、森の戦士『岩の矛』がオレを見つけて声を掛けてくる



全身包帯だらけだがその傷も大部塞がりピンピンしている



まさに不死身の男



「ああ、すまん。今回は役に立てなかった上に、心配かすぎたようだ・・・」



オレは頭をかいて申し訳なく謝る



「役にか・・・まあ、お前は大将なんでどっしりと構えていればそれでいいだろうよ」



そう言葉を濁しながら『岩の矛』はオレを励ましてくれる



自警団兵の訓練の様子を見ながら、オレは『岩の矛』からも彼らの戦いの戦果を聞く



兵士たちは今回密かに用意しておいた“試作の大型弩砲バリスタ”を扱い、予想以上に魔獣に対して成果を出していたという



これは先のイスラマ神聖皇国軍との戦いで、マリオさんのいしゆみ部隊の有効性を目のあたりにした研究軍師セリーナちゃんが、密かに設計し建造・配備していた物である



テコの原理で引き絞る作業がある為に連射性能には劣るが、矢じりを加工したその貫通性と素人兵でもある程度命中できる汎用性で、剛皮に覆われた魔獣用兵器として期待されていた試作品であった



結果は上々



今回は小型魔獣が中心という事もあり矢はその剛皮を貫通し、魔獣に対して素人兵でも対応出来るという事が立証された



この成果により今後はもっと改良され、対魔獣戦を有利に導いていく武器のひとつになるだろと推測された




「それより『岩の矛』・・・お前なんか変わったか?大きくなったというか・・・強くなったというか・・・」



オレは隣にいて語る男が、数日前に見た時と雰囲気が大分違う気がして聞いてみる



「変わったって・・・お前にだけは言われたくない言葉だな・・・そうだな、でもオレもあの槍使いとの戦いで、この矛の行先が少しだけ見えたのかもしれねえな・・・」



そう言いながら自分の大矛の切っ先を見つめる目は優しくもあり鋭い



あの強敵である“槍使い”を退け、彼の何かが一皮剥けたのかもしれない



(ああ・・・そういうの、いいな・・・)



オレは自分より先を見て成長している友を見て、少しうらやましく感じた



「そういえば、精霊神官や聖女の嬢ちゃん達も心配していたぞ。後で顔を出してやんな」



そう言われオレはその場を立ち去り村の中に戻って行く





村の教会に行くと『聖女』エレナがちょうどミサを終えていた



オレが先日の戦いの礼を言う



「いえいえ、礼には及びません、マジウス様」



彼女は不用意な殺生を控えていたはずなのに、オレが無理を言い助けに来てもらったのだ



お蔭でオレと『岩の矛』のヤツが“槍使い”に苦戦している時に助けてもらい、それが今回の勝負の分かれ目だと言ってもいいだろう



オレが気絶した後、彼女はどうしていたのか分からないが、何かストレスを発散しスッキリしていた聖女ちゃんの表情だけは印象的だった



あと後日談だが、自警団の荒くれ者の連中からは“姉御様”と呼ばれる様になったらしい





砂糖工房に向かう



そこには試作的に栽培し収穫した甘芋から“砂糖”を精製する作業を指示する精霊神官ちゃんがいた



「マジウス・・・様。元気になって本当によかったです」



工房にいる他の村人たちの皆の目を気にしているのか、神官ちゃんは少し控えめな態度でオレに挨拶をしてくる



あの戦いの後、彼女は生存者を救出し他の神官たちと怪我人の治療にあたっていたという



神官ちゃんの体はそれほど大ケガは負っていないという事で、オレは内心喜んだ



今は治療もひと段落し、村人に砂糖の精製方法を伝授していた



「マジウス・・・あの時は助けてもらい・・・・いや・・何でもないです」



そんな感じ別れ際に言葉を濁された



『岩の矛』のヤツといい、何かみんなオレに対する態度が変だ



数日間も裸で眠っていたのだから仕方がないだろう



オレは心を入れ替え真面目に働く事を再度誓う




そんな感じで村の中を巡回し挨拶とお礼回りをする




「ふう・・・」



村中を歩き回り腹が減った事に気付いたオレは、一息入れる為にバザール大広場の居酒屋兼食堂に入る



忘れていたが眠っていたオレは数日間何も食べていなかったのである



その事を先ほど思い出しその瞬間、これまで感じた事のない急激な空腹感に襲われた



背とは腹がくっ付くどころの苦しさではない



昼飯として今日の定食をひたすら食べまくる



本来なら断食直後は消化にいい物を食べなくてはいけないのだが、そんな事すら忘れでひたすら食べまくりお代わりする



・・・



気付くとオレの目の前には、積み重ねられた数食分の定食に空皿、そして数多くの単品の器が重なっていた



(あー、喰った食った・・・寝ていた日数分を取り返す為には少し足りない計算だけど、病み上がりだからこの位にしとかなきゃ)



途中で病み上がりだった事に気付いたオレは自制心を働かせる



オレのテーブルの周りにいた他の客たちが口を開け、パクパク驚いていたが何かあったのだろうか




「・・・相変わらず、底なしの胃袋なのだ」



そんなオレの背後から、聞きなれた少女の声が聞こえてくる



振り向くとそこには、フリフリの衣装に身にまとった呆れ顔の一人の少女がいた



「セリーナちゃん、何でここに!」



気の知れた仲間であり上官である研究軍師セリーナが、突然こんな辺境の村の酒場にいた事に驚く



「マジウス・・・久しぶりなのだ。何でと言われても数日前にお前宛に“私がここに来る”と手紙を送っておいたはずなのだが?」



そう言われてみれば、先ほど領主の政務室でそんな手紙を見てサインをしたような



なぜ手紙にサインを・・・・



しかも内容も覚えていない



「どうせそんな事だろうと思っていたのだ。準備が出来しだい出発するのだ」



オレの抜けっぷりも慣れたものという感じでセリーナは次の指令を伝える



「出発って・・・どこに?」



もはやお約束になってしまった質問をオレは投げかける



「皇都なのだ・・・イスラマ神聖皇国の首都“皇都”に行くのだ」



そう答えたセリーナの顔には、久方振りの帰郷に対する複雑な感情が浮かんでいた






いつも愛読ありがとうございます



次羽から新章になります



今後ともよろしくお願いします




【大森林の部族 下界領地 比較】



《ザクソンの宿場街》


場所:大森林から出て直ぐの場所にある


分類:独立都市


外観:周辺を石と木製の城壁に囲まれた城塞都市になってきた


領地規模:ザクソンの街を中心にそんなに広くはない領地。領地というよりは“街”がメイン。城壁内の規模はかなりゆったりで広め


主な産業:交易による収入


人口:辺境の割には結構多くなってきた(人口の殆どは商人職人など町人。森の民は身分を隠して要所にいる)


領主:下界人(統治自体は陰で森の民が行っている)


戦力:町民による自警団と傭兵(他国を侵略する必要がないので必最低限。他国に攻められた有事に関しては森の戦士団が直ちに急行して撃退出来る)


財政:大森林チート取引によりかなり裕福





《フランケンの村》


場所:大森林から結構離れている(ベール王国・ヴェルネア帝国・イスラマ神聖皇国の三か国の国境境目にある


分類:街道沿いの農村


外観:三個の街道が交わるバザールエリアとそこから少し歩いた所にある農村エリアに分かれている


領地規模:盆地や近隣の山地や森が含まれ結構広い。三ケ国の国境沿いの為にグレーゾーンの土地が多い


主な産業:農業と酪農 バザールでの小さな商売


人口:そんなに多くはないが段々と増えてきている(移民受け入れ)


領主:マジウス・ダンシャク男爵(一応ベール王国所属)


戦力:森の戦士が一個中隊&自警団(元山賊夜盗:更生中) 山賊団盗賊団程度なら迎撃可能。他国の侵略には対抗出来ない←今後課題


財政:かなり貧しい 今後の特産品に期待


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