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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 フランケンの村】の章

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153/204

120羽:そして 《覚醒》

真の槍王“蒼竜王そうりゅうおう”の鋭い槍先はその者の胸を確かに貫いた



この姿になる前から愛用していたこの槍は、“地の部族”の族長がその失われた技術を持って遥か古代に鍛えた“地槍”とも言われていた



細部の装飾を変え、持ち主を変えては長い年月の間、多くの血を吸ってきた業物中の業物だ



“地槍”は持ち主を選ぶとも言われており、その所有権を廻って血で血を洗う争いや戦争まで引き起こしてきた“伝説の武具”のひとつだ



その槍先は分厚い鉄の鎧を軽々と貫き、また同時にしなやかさも持ち合わせどんな剛剣をも受け流す事が出来る



また持ち主に不思議な力を与える付与力もあるとも言われ、その力は英雄譚の中でも多く語られていた



まさに最強の槍のひとつ



だが



だが今は、たった一人の皮膚を貫けないのであった



《・・・ぬぬ、どういう事だ》



突然の事に状況が把握できない槍使い“蒼竜王そうりゅおう”は、後方に一度下がり間合いを取る事にする



歴戦の槍使いである彼は自分に有利な間合いを取る達人でもある



だがそれよりも早く、凄まじい勢いで目の前の“モノ”より“右爪”が繰り出されてくる



決して避けられない恐るべき速さだ



槍のしなりを上手く使いそれを受け流そうとする



先ほども『狂聖女』と化した少女エレナの剛剣をも受け流したこの愛用の槍だ



絶大なる信頼をおく



《くっ・・・》



完璧に受け流したはずだったその右爪だが、距離を取り確認すると自分の“左腕”がズタズタに引きちぎられているのに気付く



“この身体”だ



痛みは殆ど感じない



だが完全に防御したと思った相手の攻撃を、致命傷として受けてしまった事の方が精神的なダメージが大きい



蒼竜王そうりゅうおう”はもう一度目の前にいるその“男”を観察する



いやもう“男”というくくりでは区別出来ない“モノ”であろう



再程まで仲間から『魔獣喰い』マジウスと呼ばれていた男のいた場所には、白銀の美しい毛並みの一匹の“けもの”がいたのだから





『ヴォオオオ!!』



眩しい黒い光、そして凄まじい雄叫び共にそこに現れたのは、大森林の獅子ししにもひょうにも似た白銀と黒の混じった獣であった



巨大化している森の魔獣に比べて、その体は決して大きくはない



だがその身体つきや身のこなし、何より全身から溢れだす只ならぬ殺気はその場にいた全員を凍り付かせる



その咆哮ほうこうを聞いただけで心の底が凍り、全てを捨てこの場から逃げ出したくなる願望に支配され、その鋭い眼光で睨まれたなら戦士としての勇気は軽々と砕け散る



槍使いにより召喚されていた魔獣の群れですら、その叫び声の驚き怯えていた



その姿を視界に入れていた森の戦士たちは本能的に悟る



“この獣は最大級に危険だ”と



幼い頃から大森林で危険な獣を狩り、“魔の森”で恐ろしい魔獣の群れと日々対峙してきた狩人たちなのだ



対峙した瞬間にその相手の力量を測れなければ生き残れない世界だ



「皆気を付けろ!これは幻獣の咆哮ほうこうだ!心を折るな!丹田たんでんに力を入れて気合を入れろ!!」



突然の状況に混乱する森の戦士と村の自警団



先ほどまで自分の世界に入って集中していた重戦士『岩の矛』は、地を揺るがす様な大声で怯える仲間にげきを入れる



“まだ戦える!”



それまで戦意を失っていた戦士たちは、その檄に応え再び武器を構え直す



劣勢に陥りで全滅の危機にあった状況の最中、自分たちの隊長である男が突然その姿を変えた



恐ろしい程に禍々(まがまが)しく、そして気高い獣に身を変えたのだから混乱するなと言う方が無理な注文だ



だが、直感的に感じる



“小隊長はまだ生きている”と





「・・・・はっ、凄え姿になったもんだな・・・意識があるかどうか分からないが、聞こえているなら聞いておけ!ここはオレたちに任せて、お前は神官の嬢ちゃんたちを助けに行くんだ、『魔獣喰い』!」




初めて見るこの“白銀の獣”が、小隊長『魔獣喰い』マジウスが獣化したしたであろう事は見た者全てが推測できた



この恐ろしい“白銀の獣”が理性を持ち、尚且つ自分たちに襲いかかって来ないだろう保障はどこにも無い



警戒しながら全員距離を置く



だが、森の戦士『岩の矛』だけは何の迷いもなくその“白銀の獣”に近づき、そう一言告げると背を見せゆっくりとした足取りで槍使い“蒼竜王そうりゅうおう”の方へと向かう



その“白銀の獣”は果たして彼の言葉を理解しているのだろうか



一度は背を向けた『岩の矛』に飛び掛かろうとするも、何かでそれを思い止め、この戦場をゆっくりと見渡す



その瞳は先ほどの禍々しく輝きとは違いどこか優しさも感じられる



『ガオォォォ!!』



突然また咆哮ほうこうを上げる



だがその咆哮ほうこうは先ほどの心を凍らせる恐ろしい叫びではなく、この場で聞く者に勇気を与え様な力があった



そしてその咆哮ほうこうと共に、“白銀の獣”は森の暗闇の中へ飛ぶように駆けて行くのであった





「さて、聖女の嬢ちゃん。悪いがその槍使いをこの“木偶のオジサン”に譲ってくれ」



獣が精霊神官たちのいる方に駆けて行ったのを見送り、森の戦士『岩の矛』は槍使い“蒼竜王そうりゅうおう”を剣先で牽制けんせいしていた『狂聖女』エレナに声をかける



「・・・仕方がないなぁぁ。それならワタシはあっちの魔獣の群れで我慢しとくかぁぁ!」



『岩の矛』の真剣な眼差しから何か決意を感じたエレナはため息をつき、魔獣の群れに対する森の戦士と自警団の方に勢いよく駆けだす



初めて対峙する魔獣が相手だが、彼女ほどの狂剣士であればさして問題はないだろう





「さて・・・槍の旦那、待たせたな・・・ここから仕切り直しだ」



この場に残ったのは森の戦士『岩の矛』と、槍使い“蒼竜王そうりゅうおう”の二人だけだ




《・・・『岩の盾』が息子よ。先ほど我に全く敵わなかった事をもう忘れたのか?我が片腕だからといってお前の大矛が我に当たらない事には変わりない・・・先ほどの大剣の少女の方がまだ我に勝つ可能性は高いぞ》



先ほどの勝負では『魔獣喰い』マジウスの援護が弓矢の援護があったにも関わらず、『岩の矛』の攻撃は全くこの槍使いには届いてはいなかった



凄まじい身体能力と攻撃力を持つこの重戦士だが、幻術を使い相手を惑わすこの“敵”とは明らかに相性が悪い



「ああ、構わねえ。オレは親父を・・・そしてアイツを超える為に、あんたを倒さないと先には進めねんだ!」



そう叫び、『岩の矛』は愛用の甲羅盾を投げ捨て、右手一本で大矛を振りかざし上段から鋭く振り下ろす



《ふん、我の片腕に配慮をしたとでも言うのか》



槍使い“蒼竜王そうりゅうおう”は避けるまでもない



幻術にてかわし、無防備なこの森の戦士の心の臓に槍先をねじ込むだけでお終いだ・・・・



だが



《うぬ!》



だが、その大矛は幻術で回避する事が出来ず、“蒼竜王そうりゅうおう”は槍の腹にてその強烈な大矛の攻撃を受け流す



見ると自分の身体には大矛による傷跡がくっきり残っていた



『岩の矛』からこの身体に傷を付けられたのはこれが初めての事だった



傷自体は決して深くはないが、この短時間で自分の幻術を破り、なおかつ攻撃を当ててきた目の前の若い戦士の潜在能力に“蒼竜王そうりゅうおう”は驚愕きょうがくする



〈若さとはいいものだ・・・“男子三日会わずんば”というが、この短期間で目の前の戦士が成長する姿を見ていると昔の弟子を思い出す・・・ヘリヤ・・・アヤツだけはよく分からん弟子だったがな・・・〉



蒼竜王そうりゅうおう”はまだ“人”であった頃の、自分の弟子たちが日々成長していた事をふと思い出す



そして、この姿になってもなお、何故か昔を思い出せた事に少し驚く



〈もしや先ほどの“特異点”の爪を受けた影響か・・・〉



そう推測しつつも“蒼竜王そうりゅうおう”は槍を構え直し、目の前の猛き戦士に集中する



《我の術を少し破った程度でぬか喜びをしない事だ。貴様の技量など我の前では稚技ちぎに等しい》



そう言いながらも“蒼竜王そうりゅうおう”は決して油断などしていない



「ああ、そんな事は百も承知だ。さっきも言っただろう・・・“オレはここからがしぶといんだぜ”!!」




森の戦士『岩の矛』は再び雄叫びを上げ、槍使いに斬りかかる






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