119羽:全滅の危機 そして・・・
「神敵めぇ、死ねぇやぁ、どりゃぁぁぁあ!!」
凄まじい気合の掛け声と共に分厚い大剣が振り下ろされる
あまりの重剣に真正面から受け止める事は難しい
槍のしなりを上手く使い“蒼竜王”その激流の様な斬撃を受け流す
《むむ・・》
あまりの剣質の重さに手は痺れ、反撃するタイミングを逃す
槍先で相手をけん制し“蒼竜王”は一度この危険な相手との距離を取る
《この女子は我の幻術が効かぬのか・・・もしや・・・“天命”持ちか》
槍使いはそう呟き目の前の大剣をかざす少女を観察する
先ほど『聖女』エレナと名乗ったこの少女は、明らかに尋常ではない膂力の持ち主だ
重騎士であっても持ち上げる事すら敵わない程に巨大な大剣を軽々と振り回し、その瞬発力と反応速度は人のソレを超えていた
こんな小柄な少女がだ
まれに人間の中に生まれ持った人外の才能
それが“天命”である
神から授かった力とも、古代人の血が隔世遺伝で開花したとも言われている
「ふーん、結構やるわね、あんた・・・ちょっと、そこのデクの坊のオジサンも固まって立っていないで手伝ってよねぇ!」
そう森の戦士『岩の矛』を挑発し、『聖女』エレナは再び“蒼竜王”に斬りかかる
その剣技は激しい竜巻の様であり、神に捧げる剣舞の様に美しい
「そうか・・・これをこうでこうか・・・・」
挑発された『岩の矛』だが、少し離れた所でぶつぶつ独り言を言いながら自分の大矛で空を斬り何かを練習している
『聖女』エレナの剣さばきを見て何かを感じているのだろうか
その集中力は極限まで高まり近付く事すら躊躇わせる
「・・・けっ、うちの野郎どもは軟弱で使えないなぁぁ。まぁいい、こんな“神敵”野郎はワタシ一人で十分だぁぁあ!!」
自分の世界に入ってしまった『岩の矛』を見て、『聖女』エレナは呆れ自分ひとりの力で目の前の悪魔の槍使いを倒そうとする
☆
そんな異様な光景を見ながら『魔獣喰い』ことオレは、相変わらず相手の防御を崩せないまま牽制程度に矢を放っていた
援軍として来た『聖女』エレナ様はやはり変身した
『狂聖女モード』だ
敵として相対した時は恐ろしい存在だったが、味方になればこれほど頼もしい剣士もいない
客観的に見ても槍使いと『聖女』エレナ様、その二人の勝負は今のところ互角であり、戦士『岩の矛』がこのまま立ち直れないにしても、魔獣の群れの数を確実に減らしつつある森の戦士たちが有利な状況だ
槍使いの幻術が効きにくい『狂聖女』と化したエレナはこの“敵”との相性もいい
自分は殆ど役に立っていないが、このまま押し切れば何とかなるだろう
だがそんな時
《ふむ・・・思わぬ援軍で想定外に苦戦しそうだな・・・・だが、こちらもそろそろだ》
何かを感じたのだろうか
槍使い“蒼竜王”はエレナをけん制し、また距離を取りこちらを観察してくる
(ん!?)
その瞬間!
オレはこれまで経験した事のないような体のダルさと重さにその場に倒れこみそうになる
(な、なんだこれは・・・『岩の矛』や他の皆まで・・・)
見ると自分以外にも『岩の矛』や部下たちが、同じ様にその場に片ひざを付いて苦しんでいる
『狂聖女』エレナや自警団の兵士、ダテツやその護衛たちは大丈夫そうだ
(下界人はコレを・・・何も感じてないのか・・・まさか森の民だけが・・・!?)
その時オレは何とも言えない不安と恐怖を感じた
《ふむ、ようやくあちらも片付いた様だな。これで“忌まわしき森の戦士”たちは暫くは使い物にはなるまい》
この現象を予想していたのだろうか、槍使い“蒼竜王”は不敵な笑みを浮かべてこちらに声を掛けてくる
「くっ・・・お前・・・何か仕掛けてきたのか・・・」
オレは意識をなんとか保ちながら、不敵な笑みを浮かべる槍使いに問いかける
《すまないが保険を掛けさせてもらったのだ。今回は我一人だけでこの村に来たとは、誰も言っていないだろう・・・そう、あちらに隠れていた“忌まわしき精霊神官”共を先に片付けさせてもらっただけだ》
オレの問いに槍使いはそう答え、森の奥の暗闇を槍先で指す
オレの鼓動は信じられない位に早くなる
その方向の先には精霊神官ちゃんをはじめとするこの村に一緒に来た精霊神官たちが隠れていた場所があった
「お前たち・・・神官ちゃんたちに何かしたのか!」
オレは意識が飛びそうになるのを気力だけで持ち応え、槍使いを睨み叫ぶ
《先ほど我が説明した通りだ・・・向うに隠れていた精霊神官共は、真の弓王“紅鳳王”によってその命消されているだろう》
その言葉を聞きオレは驚愕する
オレたち森の戦士は森を出たこの世界では生きていけない
それは森の精霊から強大な力を授かっている反動弱点である
ただ精霊神官を伴い加護の術を掛けてもらう事により、期間限定ではあるがこの下界でも自由に生きていく事が出来るのだ
つまり・・・・
“同伴の精霊神官がいなくなれば、オレたち森の民は下界で生きていけない”・・・のである
勿論その弱点はオレたちはよく理解しており、だからこそ万全の態勢で神官の警護をしていた
下界の戦場からは遠く離れた所に待機してもらい、また護衛戦士も腕利きを置き警護をしていた
だがまさか、“敵”が戦力を分けて先に精霊神官を狙って来るとは夢にも思ってはおらず、これは明らかにオレたちの油断であった
(護衛戦士たちは全員殺られてしまったのか・・・それよりも神官ちゃんたちが・・・)
その説明と状況を確認して、オレはその事実に頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける
(神官ちゃん・・・神官ちゃん・・・)
オレは心の中でそう呟き、精霊神官たちのいる方向へと向かおうとする
(まだ命はかすかにある・・・だが危険な状況だ・・・)
専属契約を神官ちゃんと結んでいたオレは、少し離れた場所にいる彼女の存在を多少なら感じる事が出来る
今助けに行けば何とかなりそうだ
だが自分の足取りは重く、体が言う事を全くきかない
『岩の矛』をはじめとする他の森の戦士たちも体を重そうにしているが、それはオレ程ではないようだ
みんな必死で武器を構えて、再び魔獣と対峙している
だが状況は芳しくはない
槍使いは『狂聖女』エレナが大剣をもって対峙し抑えているが、森の戦士たちは戦力が半減している
更に向うからあの弓使いの女がこちらに来たのなら、一気に形勢は決まってしまう
恐らく皆殺しに合うだろう
(神官ちゃん・・・待っていて・・・今助けに行くから・・・)
オレは意識が飛び失そうになるのを必死で堪えて一歩ずつ足を動かす
力が欲しい
今すぐこの槍使いや魔獣共を蹴散らし、神官ちゃんの所に飛んで行き助ける力が・・・
大事な弓を杖替わりにして必死で進む
《・・・このままでもこちらの詰みで勝ちだが、万が一という事もある。今後の憂いの為に“特異点”はここで消させてもらうとしますか》
“蒼竜王”はそう呟き、目の前で焦る様に大剣を振るうエレナを振り切る
「マジウス様、いけなぃい!逃げてぇぇ!」
槍使いを行かせまいとするエレナの大剣は虚しく空を切り、その叫び声は意識を失いつつオレの耳に悲しく響く
「・・・」
気付くとオレの目の前に、槍先を構えた“蒼竜王”が隙なく立っている
そして目にも止まらぬ速さで、オレの心の臓を目がけて渾身の突きを繰り出して来る
(ああ・・・相手の動きがゆっくり見える・・・これが走馬灯っていうやつかな・・・オレが死んだらどうなるのかな・・・元の世界に戻るのかな・・・でも、オレがここで死んだらエレナも『岩の矛』もレイアお嬢様、イケメンたちも皆殺られてしまう・・・)
相手の槍先はゆっくりであるが確実のオレの心臓に近づいて来る
(・・・そんなの嫌だ・・・皆を助けないと・・・神官ちゃんを助けないと・・・今までのオレは皆に助けられてばかりだった・・・今度はオレが皆を助けないと・・・・力を・・・“力”を出さないと・・・今こそ力を出さないと・・・・)
オレは自分の不甲斐なさに目から涙が零れ落ちている事に気付く
その時ゆっくりと
心の底から
身体の奥から“何か”が浮かんで来る
それは“暗く重く”良くないモノだ
直感的にそう感じる事が出来た
例えるならこの嫌な感じは“魔素”や“敵”にも似ていた
絶対的に良くないモノだ
だがその“何か”は圧倒的な力を持っていた
全てを蹂躙し自分の願望を叶える力を
オレは必至でそれに腕を伸ばし掴もうとする
だが届かない
オレの身体と心に仕掛けられた“何か”がそれを邪魔しているのだ
あともう少し・・・
あともう少しで手が届き、力が入るのに・・・
そんな時
自分の耳を通して槍使いの小さな呟きが聞こえて来る
《さらば忌まわしき“特異点”よ》
“特異点”
その言葉を聞いた瞬間
オレの中で何かが弾けた




