117羽:拙者によるオジギ
《例の“柱”は見つかったのか》
その“蒼きモノ”は問い掛ける
『つい先日までは“結界”の中で見えなかったが、今はくっきり見えるぞな。この地の東の盆地に”柱”の一人がいるぞ』
もう一人の“黄色きモノ”は答える
その“場”に二人いた
それが“人”という単位で呼んでいいモノか分からないが、その外見が人間によく似ている
《“結界”か、矮小な人間共の考えそうな事だ。場所が分かったなら”門”の準備をしておけ。すぐに行く》
少し焦っているのだろうか
いつもは冷静な“蒼きモノ”はもう一人を急かすように命令する
『ほっほっほ。分かった、分かった。そう焦るな。すぐ“門”を開ける準備をするぞな。だが気をつけろ、お前の言う矮小な人間共に前回は苦汁をなめさせられた事を』
“黄色きモノ”はワザとらしく笑い声を出しチクリと釘を刺す
《ああ、油断はせぬ。だが念には念を入れていこう。特にあの“特異点”は見え辛い。今回はヤツらの弱点とやらも”主”に聞いているので一瞬で終わらせてやろう》
“蒼きモノ”はその右手に持つ槍を強く握り締め、用が済んだその場を立ち去ろうとする
『“蒼竜王”よ、前にも言ったが“特異点”にはあまり関わらない方がいいぞな・・・なんだ、せっかちなヤツめ。もう行ってしまったか』
“黄色きモノ”は忠告も聞かずに立ち去った蒼竜王にブツブツと愚痴をこぼす
(まあ良いわ・・・“柱”の一つを消せればそれで良し。逆に〝特異点”が覚醒してヤツが消されたとしてもそれでも良し・・・・どっちに転んでも〝主様”の思い通りぞな)
“黄色きモノ”は心の中で想いを巡らす
月と陽の配置で“門”を使う制限はあるが、今の時期ならもうすぐ開ける事が出来るだろう
“黄色きモノ”は自分の場に戻り早速準備に取り掛かる
☆
『魔獣喰い』ことオレは困っていた
自分の治める村に突如現れたのは大陸随一の規模を誇る大商会“ケルガー商会”
こちらに経済的な圧力を加えて、この村の利益を独占しようとしたのだ
特産物がまだない小さな村だが、三大国家を最短ルートで結ぶ交通の要所という事もあり、その可能性は無限大だった
商人とは鼻が利く商売なのだろう
颯爽と現れて上から圧力をかけて来たのだ
本来ならそこは長い交渉を経て、お互いの中間の落とし所で条約を結び終着するのが、この世界での商売の交渉の基本らしい
オレは釘を刺されていたにも関わらず、空気を読まずに一刀両断で断ってしまったのである
ケルガー商会の地域責任者であるお嬢様は大激怒
何の進展もないままに初日の交渉は終わってしまった・・・
その断絶交渉の次の日
オレの補佐官である妹騎士クリステルは先方に、お詫びと再度交渉に行っていた
オレも最初の謝罪だけは付いて行ったが、またや話がやこしくなるといけないのでお役御免
今は村の中をブラブラしていた
クリステルちゃんの話では先方は表面上は怒ってはいたが、この村を直ぐに立ち去らないところを見ると、もしかしたら敢えて激怒したフリをして心理的に相手の上に立ち、交渉を有利に進めていこうとするテクニックかもしれないという事だ
あんなフリフリお嬢様のナリをしていたが、腐っても大商会の方面責任者
その交渉術は凡人であるオレの想像を遥かに超えているのかもしれない
(とりあえず交渉は妹騎士ちゃんとイケメン副官に任せて、オレはもう邪魔しないようにしないとな・・・・)
そんな反省をしつつオレは村の中をぶらりと散策する
村の中を歩いていると、その景色はまるで別世界のように切り替わる
フランケンの村は大きく分けて二つのエリアに分かれてきた
一つは前からある農耕と酪農を主体とした“村エリア”
ここはオレたちが来る前から、村人たちが住んでいた場所でその主な産業は農業と酪農だ
度重なる戦火により畑や家々は荒廃していたが、数ヶ月の復興の甲斐もあり今は少しずつ回復してきた
焼け落ちた家々や教会・水車小屋・領主の館を修繕しまた使える様にした
荒れ果てた畑を再び深く耕し、新しい種や種芋を近隣から取り寄せ植え替える
略奪されてしまった家畜も同じように買い付け数を少しつづ増やし、農耕や畜産に活用していた
また最近では近隣からの入植者も増えてきたので、その者達には新しい土地を開拓する仕事を与えて、徐々にではあるが農地も増えていっていた
もうひとつのエリアは現在オレが歩いている“三国街道バザール大広場”だ
ここは元々、宿場として栄えていたらしいが、最近では軍事侵攻の度に戦火にさらされ、すっかり宿や馬屋などの建物は廃墟と化していた
石畳の道路や大広場自体は残っていたが、山賊や夜盗が増え旅人や交易商人がまったく近寄らない街道と化した為に、その存在意義も失われていた
しかし、現在では目の前で繰り広げられているように、大盛況の青空バザール市が連日開催されている
商会や倉庫などの建物はまだ立て直していない為に、多くの商人たちは荷馬車を中心にテントを張り、そこに自慢の商品や特産品の数々を並べ威勢のいい掛け声を上げていた
ベール王国、ヴェルネア帝国、イスラマ神聖皇国の三ケ国の商人たちが主に目立ち、自国の特産品を他国の商人に売りつけ、その元金で相手の特産品を買い漁る
多少の手数料は掛かるがそれを自国に持ち帰り売りさばけば、上手くいけば短時間で莫大な利益が手に入るものだ
商隊道中の人夫賃や護衛の人件費・荷馬車の規模の維持費などを頭の中で計算しながら、皆一攫千金を夢見たギラギラとした目をして声を出している
このフランケンの村はまだ復興中な為に、このバザールで売れる様な特産品はないが、水や保存食・馬の世話・宿屋や酒場など現地でしか提供出来ない商売で結構な利益を出していた
多くの建物は仮設やテントで営業していたが、急激に集まりつつある人材や職人たちを上手く使い、このバザール大広場は日々発展していた
そんな仮設建物のひとつである酒場兼宿屋“森の宿亭”にオレは入る
ここも数か月前までは戦火で土台を残して廃墟と化していたが、今は1階が酒場兼食堂、2階が宿屋というこの世界で標準的な店へと復活していた
ちなみにここの料理長は大森林の大村の城にいたベテラン戦士
その卓越した料理の腕前で、オレたち森の戦士に幸せの食の時間を提供してくれていた男だが今はこの村の噂を聞きつけ、わざわざ志願してオレの小隊に編制されていた
『自分の料理の腕がどこまで“下界”で通じるのか?』
そんな想いがあり、居てもたってもいられなかったという
今は下界人である女将から下界式の料理を学びつつ、森のと下界の調理方を組み合わせて日々進化していた
その斬新で野性味溢れる料理の味は健在
“大森林料理が食べられる唯一の店”と噂が噂を呼んで人気を博していた
そんな店内はまだ昼前だというのに、多くの客でひしめき合い賑わっていた
料理の味もさるものながら、この村で数少ない酒と料理を出す店という事で連日大繁盛
時間の空いた行商人たちが昼から酒を飲んでいたり、商人たちが商談をしながら遅い朝飯を食べていたりする
領主補佐のクリステルに交渉を全て任せており、なおかつ『しばらくは村から離れないでいてください!』と念を押されていたので、やる事が全くないオレは早めの昼飯をとる事にした
腹が減ったら戦は出来ぬ
さあ、食べよう
「あら領主さん、いらっしゃいませ!すみませんけど、こちらに相席でお願いします」
通いなれていたオレは女将に案内されて席に着く
ちなみに最近のオレは“森の民”という事で騒がれたりはしない
最初の頃は来た時は「ひぃぃ、命だけはお助けを・・・」と、あらぬ噂で命乞いもされ恐れられえいたが、こうして毎日村の中をブラブラとし交流を持つ事によって多少は親密度も上がってきていた
他の森の戦士の連中も農作業や土木作業を一緒に行い、また狩って来た食料や生活品を分け与えている内に次第に打ち解けていた
まあ、そんな中でも『岩の矛』イワノフや他の強面の戦士達は相変わらず村人に怖がられていたけど、犯罪の抑止力や領内統治の為には役に立っている
影の薄いオレは最高権力者である領主の地位にあるにも関わらず、こんな感じで自由にしていた
「じゃあ、女将、いつもの定食を大盛で二つお願いします」
オレは席に着くなり昼飯を注文し一息つく
(本当はもっと食べたいがここは我慢だ・・・我慢出来なかったら、こっそり近くの森に行って何か狩って食べよう・・・)
まだまだ育ち盛りのオレは、そんな事を考え店内を眺めながら料理が来るのを待つ
(ん?)
オレは目の前のもう一人相席で座る男がいたのに今さら気付く
中肉中背で地味な格好をしている男だ
しかし、その座る姿には一切の隙は無く、静かな目つきでオレの方をジーっと見つめている
(あれ?この人は・・・あのお嬢様の護衛で“日本刀”みたいな刀を持っていた人じゃん)
思わぬ人に思わぬ場所で会ってしまったオレも思わず見つめてしまう
「これはマジウス様、こんな所でごあいさつ失礼致します。申し遅れましたが拙者はレイア様のお供をしておりますダテツと申します。以後お見知り置きを」
そう言いザテツと名乗った男は座ったままペコリとお辞儀をする
「あっ、わざわざどうもです。改めまして、ここの領主のマジウスです。こちらこそよろしくお願いします」
オレは平静を装って型どおりの挨拶をする
(“拙者”に〝お辞儀”だ・・・)
オレはこの世界にはない習慣を行う男を目の前に内心驚く
「なぜ拙者がこんな所にいるかと申しますと・・・主人のレイア様は今は午前の商談を終えて、ここの二階の特別室でゆっくりしておりました。他にも護衛の者もおりますし、拙者は交代で昼食を取るところでありしました」
オレの驚きの視線に気付いたダテツは、自分が今ここにいる事情を説明してくれる
だがオレの気になるのはそんな事ではない
気付かれないように彼の刀をこっそりチラ見する
「この刀が気になりますか?」
こっそり見たはずなのにオレの視線は気付かれてしまった
(なっ!?)
これまで数々の女の子たちの胸の谷間や、露出した肌をチラ見してきたオレの自慢の隠密術をこの男は一度で見破ったのだ
(こいつは只者ではないのか・・・・)
だが、これまでも女の子をチラ見しては色んな人に怒られてきたので、実はオレの技術も大した事がないのかもしれない
まあ、今はそんな事はどうでもいい
オレは勇気を出して心の中の疑問をダテツさんにブツけてみた
Q1.ダテツさんは“日本”という単語は知っていますか?またその刀は“日本刀”ですか?
A1.“ニホン”という単語は分からない。この刀は拙者の生まれた国である〝ニの国”で鍛造された特有の刀だ
Q2.ダテツさんは“異世界”から来ましたか?〝江戸”とか〝鎌倉”とか知っていますか?
A.“エド”や〝カマクラ”という単語は聞いたこともない。また生まれ故郷は先ほども言った〝ニの国”
うーん、どうやらオレの推測は見事に外れたらしい
日本刀をみたいな刀を持っていたので、オレはてっきり彼が日本の武士がこの世界に転生して来たのかと思っていた
少しホッとした感じもあり残念でもある
その後も一緒に昼飯を食べながら色々と彼の話を聞くことが出来た
ダテツさんの故郷である“ニの国”はこの大陸の西北に浮かぶ小さな島国だという
長らく鎖国の政策をとってきた小国で独自の文化が花開いており、風光明媚な四季豊かな土地だという
ダテツさんは単身海を渡り、縁がって今はレイアお嬢様に仕えていると
仕事中は寡黙だが普段は結構話す方なのだろう
色々と教えてくれた
「マジウス様は面白いお方でございますな」
ニの国の事をふむふむと聞いていたオレに、ダテツさんはそんな言葉を投げ掛けてきた
「オレ、オレですか?そうですかね・・・自分では結構普通の方かなあと思っていたんですが・・・」
大自然丸出しの格好を未だにしている森の戦士たちに比べて、オレの服装は下界人用であり普通だと思う
今オレが着ているのは他の村民と同じような農民服だ
少しだけ生地や仕立ては上等だが、王侯貴族や大商人が着ている様な目玉が飛び出る高い物ではない
だが十数年間“森ルック”を愛用してきたオレにとって、これですら文明の香りがする上等な洋服だ
うん、色や組み合わせも変な所はないはずだ
「いや、外見など、そういった所ではありませんぬ。何でも聞いたところによると、マジウス様の領内は基本無税であり、近隣の難民や移民も積極的にこの村で保護して土地を与えていると聞いております。見たところ領主様自ら質素な身なりでこのように庶民の酒場で食事をされて本当に変わったお方であります」
オレが自分の洋服センスと勘違いしているところをダテツが補足をしてくれる
「ああ、そっちの方だったんですね。ハッハッハ・・・オレや部下たちは基本的には自給自足で生活していますし、この土地も元々はこの辺に住んでいた方の土地だと思います。もちろん最低限の税は取っていますし、橋や道路や公共機関の維持も村人を含めて全員で行っているのでそんなに困ることはありません・・・・それから・・・・」
「それから?」
「ここの酒場の料理は安いけれど、宮廷料理に負けない位に最高に美味いですから苦にはなりませんね」
オレは定食の料理を頬張りながらニコリとダテツさんに答える
「ハッハッハ・・・やはり貴方は本当に面白いお方でござります。私も色々な国の料理を食べてまいりましたが、ここの料理は個性的で美味いでござります」
ダテツも自分の頼んだ麺料理を食べながら笑みを返してくる
「そういえば、マジウス様。昨日のレイアお嬢様はあの様な態度でござりましたが、本当は素直でいいお方でござります。ただ大商会の跡取りの一人という事でお嬢様は常に結果を求められてまいります。これは私個人の意見でございますが・・・・末永くマジウス様やこの村と取引出来れば幸せだと思います」
ダテツは少し真顔に戻りオレの目を見つめて語りかけてくる
「ありがとうです。オレもその意見には同感で、上手くお付き合い出来ればと思います。交渉の方も大丈夫かと思います。なんせオレの補佐官のクリステルちゃんは有能文官なんで、たぶんレイアお嬢様と丁度いい売買協定を結べるはずです」
オレの不用意な一言で昨日は商談が中止されたが、今こうしてまだダテツさん達がこの村に残っているという事は可能性があるという事だ
駄目で元々だ
前向きにいかないと
「そう言ってもらえれば幸いでござります・・・・では時間になりましたので拙者はこの辺りで」
ダテツはそう言い残し食事の席を後にする
「そういえばマジウス様・・・」
「んん?」
口の中に再度昼飯を投入したオレは驚きながら、再度声を掛けてきたダテツさんの方を振り向く
「マジウス様は“柱”という言葉をご存知ですか?」
「ん?・・・・柱って家とか建物の“柱”ですか?」
「いえいえ、心当たりがないのなら大丈夫でござります。それでは失礼致します」
そう言い残しダテツは再びその場を去って行く
(“柱”か・・・何か真剣な表情で意味有りげな感じだったけど・・・・一体何だっただろう・・・・まあ、今度軍師セリーナちゃんにでも聞いてみるか)
オレはその単語を気にせずに、残った昼食を口の中に放り込む
・・・・まさかその日の夜に、その単語を再び耳にするとはこの時は思ってもみなかった




