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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 フランケンの村】の章

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149/204

116羽:不愉快でございますわ




フランケン村の領主補佐官クリステルは、午後の仕事を終え予定の時間前に領主の館に着く



昨夜の連絡によればもうすぐここに来客がある



「こちらが領主様の館です」



ちょうどその時玄関の外から聞きなれた村の警備兵の声がする



警備兵は今朝言いつけした通りに、村に到着した来客をここまで案内してくれたのだろう



ありがたいことだ



窓の外から玄関の前を見ると、そこに止まっていたのは馬車であった



しかしそれは事前の情報通りに只の馬車ではなかった



数頭の馬に引かせているその大型馬車は細部まで豪華絢爛に装飾され、また所々には高級品であるステンドガラスを使った飾り窓も見える



車輪部分には道路の起伏の衝撃を吸収する装置も付いていた



これ程までに豪華な馬車は最近では、ベール王国のマデレーン王女様が帝国に国使として行かれた時に見た以外にない



ただその外見は歴史と伝統ある王家の馬車に比べて、かなり下品で成金趣味な調度品だ



(何事もなければいいが・・・・)



補佐官クリステルは出迎えの準備を整え、小さなため息をつく







「こちらにおわす方は、かの大商会”ケルガー商会”のご令嬢様であり、この大陸東部方面の最高責任者様であられますレイア・ケルガー様でございます!」



領主館のそんなに広くはない応接室に物々しい声が響く



「どうも初めまして、このフランケンの村の一応領主をしていますマジウスです」



『魔獣喰い』ことマジウスは目の前で座る来客にぺこりと挨拶をする



「初めましてマジウス様。レイア・ケルガーでございます。以後お見知り置きをよろしくお願いしますわ」



マジウスことオレは困惑していた



昨夜に領主補佐官である妹騎士クリステルちゃんから

『マジウス様、明日の午後に大事な来客があるので“必ず”領主の館に待機していてください』

と言われ、日課である領内散策を今日は止めて待機していた



『あと、私の方で交渉はするので、マジウス様は最初の挨拶の後は“一言も”喋らずにドンと構えていてください。“絶対に”ですよ』



妹騎士ちゃんから、そう何度も念を押されて言われていた



流石に一村の領主ともなれば、細かい交渉は部下にお任せなのだろう



オレは最初の挨拶が終わったので、口にチャックをして黙っている



昔から会議中に無言でいるのは得意な方だ



話しを聞いているフリをする






(それにしても見た目が濃い三人だな・・・・)



オレは交渉の聞いているフリをして、先方の様子をチラリと見る



オレとテーブルを挟んで向こう側にいるのは三人



(どう見ても彼女は典型的な“お嬢様”だよな・・・・これは・・・)



向こうの代表であるレイア様と紹介された女性は、派手でフリフリな紫の衣装を身につけ、その不自然な程ピンクな髪の毛を縦ロールで巻き、これまた豪華な指輪やアクセサリーで装備を固めたお嬢様風だ



(しかも手には孔雀の羽で出来た扇子せんすを持って口元を隠していて・・・こんなキャラクターを昔に本で見たような・・・・なんとか夫人?)



オレはあまりにも強烈な個性のお嬢様に衝撃を受ける



オレの後ろに控えて立っているイケメン副官の奴も、ボソボソと何か呟いている



こんな生物は大森林にはいなかったよな





そのレイアお嬢様に後ろに立って控えるのは、先ほどの冒頭での物々しい紹介挨拶をしていた“爺や”だ



蝶ネクタイにキレイにヒゲを整えた紳士



ザ・執事っていう感じの爺さんだ






そして最後の一人にオレの目は止まる



最後の一人は中肉中背で質素な服を着ている地味な男だ



齢は20代にも30代にも見える



護衛なのだろう、左腰には剣が下げ隙の無い立ち振る舞いだ



(“刀”だよな・・・あれは・・・・)



オレはその護衛の男が下げているのが“刀”だという事に気付く



刀身がわずかに反っていてつかの細工やさやの雰囲気はオレの知っていた“日本刀”に似ている



確かにこの異世界や森の民でも湾曲した剣を好んで使う戦士はいた



だがここまで“日本刀”に酷似した刀を持った者を初めて目にし、オレはその光景にしばらく目を奪われる



ジロ



オレの視線に気付いたその護衛の男は、半目を開けジロリトとオレの方を睨んでくる



(おっと・・・)



オレは慌てて視線を戻す



(考え過ぎかもしれないな・・・もしかしたら、鍛冶師が切れ味を追求して進化をしていく内にあの形になったのかもしれないし・・・)



オレも数年前に森の大村に住む鍛冶集団”山穴族”の職人に、“日本刀”の製作をお願いした事があった



ただ、日本刀の詳しい原材料や製造法などオレはまったく知らないので、形と雰囲気だけ伝えて試作品を作ってもらった



出来た試作品は“日本刀”というよりは映画に出てきそうな“半月刀”や〝青龍刀”みたいな刀であった



森の中では甲皮が硬い獣や魔獣が相手であり、材質や強度の関係でそんな形になってしまったという



オレ自身は特に“日本刀最強論者”ではないが、この異世界で一度は日本刀を帯刀はしてみたかった



(もしかしたらオレ自身に“剣の才能”はないが”日本刀の才能”は有るのでは?何せ日本人だったからね♪)



そんな妄想にオレは浸る









その妄想の間に、オレの優秀な補佐官である妹騎士クリステルが先方の来訪の用件と要望を聞いている



彼女はいつも冷静で優秀だ



オレがいなくても村の経営は成り立っているという変な噂もある位だ



だがオレの妄想をしている間に、応接室の空気は先ほどより緊張感を帯びていた



「そうですの。先ほどもお伝えした通りに当商会の要望は、この村に優先的に経済特区を作り、その最優先権を当会が所有するというものですの」



妹騎士クリステルの確認の問いに、お蝶フジンことレイヤ様が高圧的に答える



「しかし、それはでは・・・」



その相手の言葉の強さに、いつも冷静なクリステルが返答出来ずに言葉を詰まらせる



どうやら無理難題をこのお嬢様が言いつけてきて、妹騎士ちゃんが困っているようだ



(ふっふっふ、ここはどうやらオレの出番のようだな)



最近はクリステルに“何も出来ない領主様”のレッテル貼られ肩身の狭い生活をしていたが、ここで一発男らしいところを見せたらオレの株も急上昇といったところか



「ゴホンッ!」



オレはワザとらしく咳払いをして注目を皆の集める



「最優先権ですか・・・・残念ながら、それを許す事は出来ません!なぜならこのフランケンの村のモットウは”自由に平等で楽しい村”ですから!」



オレはドヤ顔で目の前に座るお嬢様にバシッと言い放つ




「な、な・・・」



突然のその言葉を聞き、レイヤは顔を怒りで赤らめ言葉に詰まる



(ふっ、どうだ見たか。オレも言う時は言うんだぜ)



相手を絶句させたオレは内心ガッツポーズを決める



「あ、あくまで、私たちに逆らうというのですか!?そんな事をして、どうなる事か理解出来ていないのですか。ふ、不愉快です、帰りますわ!」



そう言い残しレイヤお嬢様は部下と共にこの部屋を去って行く







「いや~、ああいう高圧的な奴にはガツンと言わないと駄目なんだよね、ガツンと」



オレは応接室に残った妹騎士ちゃんとイケメン副官の方を向いてドヤ顔で呟く



「・・・・」



クリステルは顔を青ざめて絶句しながらこちらを見ている



「班長、こりマズイ事になるかもしれないな」



イケメン副官もため息をつきながらオレの方に手に置き残念な顔をする




「何かオレ・・・まずい事しちゃったのかな・・・・」



今更空気を読んだオレは、妹騎士ちゃんの方を見て小さな声で尋ねる




「まずいも何も・・・・“ケルガー商会”といえばこの大陸で最大規模の商会です。下手に逆らえばその圧倒的な力で経済制裁を受け、小国ですら滅亡させられたという話です・・・・なので今回も上手く相手の要求を受け入れたフリをして、丁度いい落とし所に持って行く交渉でしたのに・・・・」



妹騎士クリステルはオレにそう説明しながら少し涙目になっている




“小国ですら壊滅させる巨大商会を怒らせた”




再興して数ヶ月のこの小さな村は、早くも最大の危機を迎えようとしていた








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