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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 フランケンの村】の章

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146/204

113羽:ようこそ、フランケンの村へ

周囲を山と森に囲まれたその土地は、周囲の華やかな喧騒から切り離された異界の様にぽっかりと広がっている



冬麦や野菜畑が点々としているが、そこは荒らされた跡があり実りは悪く、農作業をする村民たちの表情は暗い



何か所かに分けて集まっている家々は所々焼け落ちている建物もあり、雨水すらしのげないままそこに暮らしている人々もいた



唯一の石造り建物は村の中心の広場にある教会だけで、他の建物は木造の粗末な家々だ



朝早くから農酪作業をしていた村人たちは、空腹を我慢しながらキツイ農作業をこなしている



“戦乱で荒れ果てたこの土地を見て絶望と後悔をする時間は終わったのだ”


“今日生きていく為にひたすら体を動かすしかない”




そんな想いが漂っていた






そんな農村の中を『魔獣喰い』ことオレはゆっくり歩いていた



下界の村の中をこうやって散歩するのは初めての事で、全てが新鮮に見える



何しろ今まで下界に来た時はお家騒動だったり、敵国への国使者団員だったら、戦乱に巻き込まれたりと、ゆっくり散歩どころではなかった



いや、それでも今こうして歩いているのは“散歩”ではなく、正確に言うと“視察”である



「こんにちは!」



オレは暗い顔で農作業をしている農民たちに手を振り、目一杯の笑顔でさわやかに挨拶をする



「ひっ、い、命だけはお助けを!」



「私の命はどうなっても構いません、この子だけはお助けを・・・」



オレが挨拶をした農民たちは、ある者は腰を抜かしその場に倒れ込み、またある者は命乞いをして怯えている



顔面蒼白になり気を失う者もいた



「・・・・マジウス男爵。先ほども言いましたが、無暗に領民に接触を持つのはお控えください」



オレの後ろを歩いていた女官が少し呆れた声で進言してくる



「・・・・」



叱られて気まずくなったオレは無言で視察する事にした



(どうしてこんな反応なんだろうか・・・・)



オレは先ほど言われた注意事項を思い出す





・・・・ある日突然、あなたの住む町や村の統治者が変わったとします



“生きた人間を食べる習慣がある”


“魔獣を素手で裂き殺す怪力を持っている”


“不思議なまじないを使い相手を呪い殺す事ができる”



そんな噂がある“蛮族”がその統治者だったとしたらあなたはどうしますか?



・・・



はい、そうですね。



先ほどの様に怯えて、命乞いをして絶望しますね



オレは今まさにそんな状況に置かれていた



今視察しているのは“フランケンの村”という小さな村だ



そう、先日の皇国のベール王国侵攻を撃退した際に、オレたち森の部族が援軍の礼として受け取った下界の村だ



色々ななすり付け作戦により、この村の領主とベール王国における男爵の爵位は何故かオレになっていた



形だけの領主と爵位という事でオレは気軽に受け取っていた



だが“フランケンの村を目覚ましく発展させる!”という極秘指令をオレは今回受けていた



どんな作戦が何なのかよく分からないが、とにかく与えられた任務は遂行する



それが大人だ





領民との笑顔の交流を諦めたオレは、少し遠回りをして出発地点に戻る事にした



「マジウス男爵、この先は特に何もありません。最近では野盗も出るという話もあるので気をつけてください」



オレの後ろにいる女官はチクりとオレに進言してくる



「そうでしたか。それでは少し村の周りを見て戻りましょう。それからオレの事はマジウスって呼んで大丈夫です」



それでも「マジウス様」と呼んでくる女官の案内で、オレは領地内を隈なく散策する



彼女の名は“クリステル・デリス”



グラニス家に所属する女騎士だ



ただ武人というよりは文官に近く、今回はこのフランケンの村の統治にあたり、その手助けの為に出向という形でオレの領主補佐官をしてくれている



苗字と顔の面影で分かるが彼女は女騎士ちゃんスザンナちゃんの実の妹だ



姉と同じ艶のある金髪を短くまとめ、グラニス家の騎士服をキッチリと着込んでいる



固い服の上からでは分かり辛いが、胸の膨らみや腰のボリュームは姉に比べて少し控え目である



剣の腕前も中々のものらしいがそれでもスザンナ程ではなく、本人の意向も有り現在は内政統治に力を入れているという



性格は先ほどのやり取りで分かる様に、天然系の姉スザンナとは正反対の生真面目な性格をしている



(もう少し砕けて接してくれたらいいだけけど・・・まぁ、時間が経てば慣れてくるかもな・・・)



オレは妹騎士ちゃんの案内で出発地点の村の広場に戻る





村の広場に近付くと、カンカンと金づちの音が規則正しく響き渡り、材木を軽々と運ぶ筋肉隆々の男達が動き回る



見ると森の戦士達が材木を加工し組み上げ、焼け落ち家々や水車を修理していた



「そんな・・・あっという間に、こんなに・・・・」



その光景を見た妹騎士クリステルは思わず声を出し驚く




それもその筈、朝にオレと一緒に視察に行った時に比べ、村の建物は次々と修復されていたのだから



(相変わらず森の民の身体能力は高いな・・・)



その凄まじい速さを見てオレも内心驚く



生まれつき“森の精霊の加護”を受けている森の民は、筋力や瞬発力が普通の人間より遥かに優れている



尚且つ森の中で自給自足の生活をする為に、全員が優れた狩人であり大工で職人でもある



自前で森の中に家を建て皮や枝を加工し、砦や城も自分たちで建造する



彼らからすれば村の近くの材木所から大量の木を運び込み、それを加工し組み上げるなど簡単な仕事であろう



オレは見慣れていたが、下界人であるクリステルをはじめてとする村人たちの目には奇怪な光景に映っただろう



「おお、ダンシャク、帰って来たか。そろそろ昼飯の時間だぞ」



オレの姿を見つけ『岩の矛』イワノフが声を掛けてくる



その両肩には数本の角材が積まれ軽々と運んでいる



その姿を見て妹騎士ちゃんが更に言葉を失っていたのは説明するまででもないだろう







「そういえば、班長、村全体の様子はどうだった?」



大広場で昼飯を食いながら副小隊長に昇格したイケメン剣士がオレに聞いてくる



『班長』ってオレの昔の役職で彼からする呼び名みたいなもんだ



「うーん、そうだな・・・最初の話通りにあまり良くはなかったね」



オレが領地として貰ったこのフランケンの村とその周辺情勢は少し特殊だ



地形は周りを山や森に囲まれた盆地に近い平地で、広さ的にも大きい部類の村に入る



近くに石畳で出来た街道も通り、一年を通して気候も安定し住みやすい土地である



だが“立地”が少し問題だった



この村はベール王国、イスラマ神聖皇国、ヴェルネア帝国の三国に接している危険地域なのだ



その三国からの街道がこの村の端で交わり交通の要所として、また軍事の要所として常に戦火にさらされてきた土地なのであった



別名“大陸東部の火薬庫フランケン”とも呼ばれていた



嫌な呼び名だ



同じ統治国が安定せずに砦が築かれても侵略者に破壊され荒れ地と化す



そしてつい先日に行われた皇国の大侵攻でもこの村は被害に遭い、秋畑は荒らされ略奪にあった家々は焼け落ち荒廃していた



(どうしようも出来ない・・・諦めるしかない・・・)



村人たちは半ば諦めて、長年住み慣れたこの土地を離れられないまま静かに暮らしていた




そんな中で“魔の森の人食い部族”が新しい領主になったのだから、村人たちの先ほどの反応も仕方がないであろう





「それでも手助けだと思って、一歩づつこの村を立て直していこう」



オレはイケメン剣士とオレに付いて来た小隊の部下たちに激励の声を掛ける




(それにしても、どうやって立て直していけばいいのやら・・・)



オレは先ほど視察しながら妹騎士クリステルから聞いた、この村の現状を頭の中でまとめる



・略奪や惨殺の繰り返しで人口はあまり多くはなく、常に戦火に晒されていた為に生活は困窮し村人たちの暮らしは貧しい。


・新しく土地を開拓する余力は無く、自分たちの今日の食糧を得るので手一杯だ


・つい先日までこの地を統治していた皇国が、根こそぎ持って行ってしまった為に村の備蓄もない。つまり貯金ゼロの状態


・最近では残党兵や困窮農民が山賊や野盗と化して、この近隣を荒らしており治安も悪く旅人たちも近寄らない現状だ



(うーん、結構酷い状況だな・・・)



情報をまとめながらオレは少し頭が痛くなる



先ほど説明しながらの妹騎士ちゃんもあまり明るいものではなかった



何しろ侯爵家に昇位したグラニス家を出され、こんな辺境の村の領主補佐に任じられたのだから、彼女の気持ちも分かる




しかし、それでもこの村は良い点も結構ある



・先ほども言った通りにこの村の領地の範囲は結構広い。平地や丘陵地もありまだまだ開発は出来そうだ


・村をまとめる村長の話では気候も良く土壌や水源も豊かだ


・近くには森や山もあり材木や石などの資源も豊富


・何より近くに三国からの大きな街道が交わる場所で、治安さえ回復出来れば人の流れが見込めそうだ




(一応戦争も終わったし・・・よし、明るい条件も結構あるな・・・・前向きにいこう)



まずは“治安回復”、次に“食糧と物資の安定供給”、“土地と治水を整え”、“特産品も開発”して、“行商人たちが安心して訪れる領地”にしよう



頭の中で内政に向けて情報整理を終えたオレは、自分に喝を入れ午後の仕事に入る



18歳になったオレは中々仕事も出来る大人になってきたようだ



下界の村を統治する内政計画もこの通りにお手の物だろう




「ふっふっふ・・・・」



自分の万能ぶりに思わず笑みがこぼれる




おっと、軍師セリーナちゃんから貰った“マル秘!フランケンの村統治の手引書マニュアル”を持って行くのも忘れない様にしないと






登場人物を主要キャラを簡単に説明します



【フランケンの村】


『魔獣喰い』マジウス・ダンシャク

森の弓戦士。男爵位を習得しフランケンの村の領主となる。現代日本の14歳の記憶を持つが、そんな知識ははっきり言って何の役にも立たない例。現代知識“非”内政無双


クリステル・デリス “妹騎士ちゃん”

ベール王国の女騎士。高い身体能力と剣の才能を持つ“女騎士ちゃん”スザンナの実妹。姉と違い武の道を諦め文官の道を選ぶ。生真面目な性格で近寄りがたい雰囲気を持つ。着やせタイプの姉は逆でややスレンダーな体型。



精霊神官ちゃん

マジウス・ダンシャクと共に下界の村に赴く。村人の間では“恐ろしい呪い師”と噂される



イスラマ神聖皇国『聖女』エレナ

マジウス・ダンシャクと共に下界の村に赴く。彼女だけは有名な聖女である為に村人に受け入れられている。現在は無人となったフランケンの村の教会を整頓している。



重戦士『岩の矛』イワノフ

いつも通り『魔獣喰い』に付いて来た。怪力器用で村の修繕工事に大活躍。村人の間では“人間に化けた大鬼”と噂される



副小隊長イケメン剣士、『荒き牛』、『坊ちゃん』

小隊の他の仲間と共にフランケンの村に赴任





【その他の地域】


獅子姫

森の大族長の娘で凄腕の剣士。現在は森の中に渋々残り、大族長の仮任に就いている




女戦士『黒豹の爪』

赤髪ガエルと共にヴェルネア帝都に向かった。



『赤髪』ガエル

女戦士『黒豹の爪』と共の帝都に向かい皇帝に謁見し、対魔作戦を進言する



『弓公子』アベル

ガエルに捕まり一緒に帝都に向かう。ガエルの代わりに宮廷工作を行う




研究軍師セリーナ

マデレーン王女と共にまずはベール王都に向かい“魔”に対する研究を行う



マデレーン王女

ベール王都に戻り父であるベール国王に進言する



『聖騎士』ヘルマン

マデレーン王女と共にベール国王に進言する





女騎士スザンナ

天然系姉騎士ちゃん。レオンハルトと共にグラニス領へ戻る。小さい頃から妹を可愛がる



グラニス侯爵レオンハルト

ようやく自領に戻る。片思いに現を抜かして仕事が溜まっていた。



白猫姫

獅子姫の姉で魔の森“大砦”の最高司令官。一年前に槍の“敵”に敗れ、未だに修業に出て行方不明。噂では下界にいるというが・・・・

(特に筆者が忘れていた訳ではない・・・)


白狼の尾

森の戦士で弓の達人。魔の森“大砦”の大隊長で主人公『魔獣喰い』の最近までの弓の師匠。今は白猫姫様と行方不明でどうやら一緒に修業(お守り)をしているらしい。


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