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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【『魔獣喰い』18歳の女難】の章

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141/204

108羽:決戦 〈男の戦い〉




「ハッ!!」



レオンハルトの長剣が気合の声と共に、凄まじい剣速で振り下ろされる



事前に相手の虚をつくフェイントも織り交ぜた、かわしようのない必殺の一撃だ



相対する女戦士はそれを右手に持つ剣で巧みに受け流し、逆に無防備になったレオンハルトの脇を斬り払う



「どぅお!!」



それを待っていたかの様にレオンハルトは受け流された剣をそのまま強引に振り戻し、女戦士の頭部を死角から斬りつける



このままでいくと剣の速さからレオンハルトの方が先に斬りつけるだろう



しかし女戦士は巧みな体術でそれをクルリとかわし、回転力のこもった強烈な蹴りでレオンハルトを吹き飛ばす



あまりの衝撃に受け身を取りながらもレオンハルトは体勢を崩す



視線を上げるとレオンハルトの顔先には女戦士の剣が向けられ、この勝負の決着を教えてくれる



「そこまで」



その様子を見ていた近衛騎士ヘルマンは声を高々とあげて勝負を終える




「・・・・クソッ!」



ヘルマンの側に歩み寄り、水袋の中の水を飲んで喉を潤した青年騎士レオンハルトは、悔しさのあまりに自分の右こぶしを握り締める



「レオンハルトの坊や、まだまだじゃの」



同じ様に水を飲み、喉を潤した獅子姫は悔しがるレオンハルトの短く切り揃えられた頭をポンポンと撫でてニヤリと笑みを浮かべる



「・・・・獅子姫、もう一度勝負だ」



レオンハルトは“坊や扱い”されたのが余程悔しいのか、流れる汗をそのまま剣を握り構える



「まあ、少し待つのじゃ。早る男はモテないものだぞ。次はヘルマンとズザンナの番じゃ。他人の剣を見るのも勉強のひとつじゃ、ほれっ」



獅子姫は剣を鞘に戻し木陰に座りながら、自分の持っていた汗拭き布をレオンハルトに投げて渡す



「・・・・はい、分かりました」



ふて腐れた子供の様にレオンハルトはその布で汗を拭き、獅子姫の横に腰をかける



その布なのかそれとも隣にいる獅子姫本人からか、何ともいえない爽やか香りがレオンハルトの鼻腔を刺激する



レオンハルトの高ぶっていた気持ちは落ち着いき、逆に鼓動が激しく鳴る






「ハッ!」



見ると今度はベール近衛騎士ヘルマンとグラニス侯爵家女騎士スザンナが剣を構え打ち合っている



こちらは二人とも剣と盾を使い、相手の攻撃を巧みに受けながら攻撃を繰り出している



その攻防は教本通りでもあり、時には乱暴で激しい斬撃が繰り出される



「スザンナは強くなったの」



獅子姫は独り言の様にレオンハルトに呟く



「そうですね、“聖騎士”ヘルマン様や“剣鬼”獅子姫には敵いませんが、それでも先の皇国との最後の決戦では敵の指揮官級の首を何個も打ち取り、敵の陣を崩す獅子奮迅の活躍でした」



レオンハルトはイスラマ神聖皇国がベール王国に侵攻した時、最後の平野での決戦の事を思い出しながら部下であるスザンナの剣捌きを見ていた



「ベール王国でも三指に入る猛者であるヘルマンと比べたら可愛そうなものじゃ。それこそ今のヘルマンに勝てる者など、この大陸中でもそう何人もおるまい」



そう説明しながらも獅子姫の鋭い眼光の先には、スザンナの剣先を思いもよらぬ盾捌きで受け流し、荒々しい剣使いでカウンターを繰り出すヘルマンの姿があった



普段は礼節溢れ“聖騎士”としてベール王国中に名の知られている近衛騎士ヘルマンだが、自分の実力に近い者やそれを越える者に相対した時に、彼の攻撃的で凶暴性のあるもう一つの顔“狂戦士”が垣間見える



王都にいる“剣匠”によると、それは彼の幼い頃の経験によって生まれた裏の顔であり表の顔だという



最近では見る事もないので忘れていたが、ヘルマンほど怒らせていけない騎士はこの世にはいないと、レオンハルトは身をもって経験した事を思いだす






「・・・そこまでじゃ」



獅子姫の掛け声で、ヘルマンとスザンナの一騎打ちの訓練が終わる



惜しい所までいったが、最後はやはりヘルマンがスザンナを下していた



木陰の元にスザンナとヘルマンも戻り水分補給をする



「スザンナ惜しかったね。あと一歩で仏頂面ぶっちょうづらのヘルマンに一泡吹かせてやれたところだったのに」



一人素振りの鍛錬をしていたマデレーン王女は、スザンナに汗拭き布を渡して声をかける



「姫様、仏頂面ぶっちょうづらとは誰の事ですか。それにしてもスザンナは本当に強くなりました。前は教本通りの戦いしか出来ていませんでしたが、今は実戦向きというか野性的な読めない攻撃も上手くなりました。これは我々もうかうかしていられませんよ、獅子姫様」



そう言いながらもヘルマンは、殆ど汗もかかずに隙なく立っている



「まだまだ若い者には負けてられないのじゃ。ほれ、ヘルマン、決勝は私の相手をするのじゃ」



獅子姫はそう言いながらヘルマンを挑発する様に剣先を向ける



実際にはこの中で最年少のマデレーンと少し年上のレオンハルトの次に若い獅子姫なのだが、そんな事は誰も気にしてはいない



「“剣匠”の所で精神修業しましたが、こういうのは治ってはいませんね」



呆れながらそう呟くヘルマンだが、その目は強者の挑発に嬉しそうに輝きを増す



獅子姫と聖騎士ヘルマン



二人は開けた所に進み相対する



下界の王都で一緒に鍛錬を積んできたレオンハルトの見た所だと、“訓練所だとヘルマン”“実戦なら獅子姫”に勝負の軍配が上がるだろう



だがそれはお互い本気ではなく、もしかしたら一方的に勝負は決まってしまうかもしれない



(それに獅子姫は愛剣をあの男に預けていて実力を発揮出来ていないし・・・・いや、持っていないからこそ彼女はここまで上達したのかも・・・)



そんな事を思いながらもレオンハルトは勝負の始まりを、固唾かたずを飲んで見守る



間違いなく初剣から目の止まらぬ攻防が繰り広げられるはずだ




「・・・・・」




緊張感のある静寂がその場を支配する






「マデレ~ン、獅子姫ちゃん、スザンナちゃん、お昼ご飯が出来たから約束通り呼びに来たよ~」




そんな静寂を破ったのは、どこからともなくレオンハルトの隣に現れた緊張感のない声であった



「おお、もうそんな時間か。マデレーン、スザンナ行くぞ!」



さっきまで抜いていた剣を目にも止まらぬ速さで鞘に収め、獅子姫はマデレーン王女に声をかけ声の主の方に駆け寄る



「それしても『魔獣喰い』。何故に、私よりもマデレーンの名前を先に呼ぶのじゃ。普通は主である私の名が先じゃろ」



緊張感のない声の主である『魔獣喰い』は、獅子姫に耳をツネられ声にならない悲鳴を上げている



「そんな・・・・だって前に獅子姫ちゃんの方を先に呼んだら、マデレーンが怒ってしまったし・・・・」



『魔獣喰い』は情けない声で獅子姫に言い訳をする



「当たり前よ。獅子姫の事はもちろん、王女である私を二番目に呼ぶなんて失礼はダメよ。・・・・そう呼ぶんだったら同時に名前を呼びなさい」



耳をツネられる『魔獣喰い』の側に来たマデレーンは、妙案を提案しポンと手を打つ



「そ、そんなご無体な・・・・」



『魔獣喰い』は更に情けない声を出し、獅子姫とマデレーンに連れられて城の食堂へと向かう





「ハッハッハ、彼にかかったら世紀の決戦も台無しだな」



先程まで獅子姫と剣を本気で向け合いをしていた聖騎士ヘルマンは、剣を収め木陰のレオンハルトの隣に近付く



「『魔獣喰い』・・・・何であんな大した事ない奴が、あんなに認められているんだ・・・」



青年騎士レオンハルトは少し納得いかない表情でヘルマンに荷物を手渡す



「『魔獣喰い』君か・・・そうだね彼の剣捌きは確かに大したことはないかもしれない。だがさっき彼が現れた時、この場にいた全員が彼の気配に誰も気付いていなかった。この私ですら彼が声をかけてくるまで気付けなかった」



その言葉の真意に気付き青年騎士レオンハルトは驚愕きょうがくする



戦いを前に気を張り周囲の些細な気配すらも感じ取る状態であっても、『魔獣喰い』の気配は一切感じられなかった



それはつまり彼の得意とする弓の射程圏内に無防備にこちらの身体を晒していた事であり、もし彼に敵意があるならばこの場にいた人間は射殺されていただろう



「ヘルマン様、ヤツはいったい・・・・」



レオンハルトは説明できない恐怖心を抑え、聖騎士ヘルマンに問いかける



「さあ、彼が何者かは私にもわかりません。ただ、彼は誰に対しても平等であり、どんな困難にも決して諦めない戦士です。レオンハルト様が彼の事で納得がいかない気持ちは分かりますが、一度彼と真剣に向き合い認めてみてはどうでしょうか・・・・」



聖騎士ヘルマンはレオンハルトの心の憶測を見透かしたように言い、自分の荷物をまとめ食事の休憩に向かう




「・・・・くそっ」



青年騎士レオンハルトはその場に留まり、自分の気持ちの葛藤に悩んでいた







「マデレーン、お主もう少し離れて食うのじゃ」



長椅子に座る獅子姫は、『魔獣喰い』を挟んで反対側に座るマデレーン王女を手で押し付け離れさせようとする



「何を言っているの、獅子姫。あなたこそもう少し離れて座りなさいよ」



それに負けじとマデレーンは獅子姫を押しのける



こう見えてもマデレーンはかなり力が強い



両者の距離は拮抗していた



「そんなに押し合ったら、ゆっくり食べられないですよ、二人とも・・・」



その二人の姫の間に挟まれている『魔獣喰い』は、それでもお構いなしに昼飯の麺量に喰らいつく



その量は大皿盛り普通の量の軽く四杯分はある



更にそれももうすぐ食べ終わり、またお替わりを検討していた



「今朝も言った通り、今日の料理担当はこの大村で一番の料理自慢のベテラン戦士なんだから、今日を逃したらしばらくは食べられないよ」



『魔獣喰い』はそう説明して、女の不思議な戦いを止めようとする



「そういえばそうじゃったな・・・・マデレーン命拾いしたな」



我に返った獅子姫は自分の料理にフォークを刺し優雅に食べ始める



「獅子姫それはこちらのセリフです・・・・いただきます」



マデレーンも側にいた侍女から専用のフォークとスプーンを受け取り、これまた優雅に麺を食べ始める



「ふう、ようやく静かに食べられる・・・・あ、すみません、お替わりください」



落ち着いて食べ始めた『魔獣喰い』は空になった皿を厨房に持ちよりお替わりを要求する



普段の日は一人前分の量が決まっているが、年に一度の大精霊祭では基本的に食べ放題飲み放題だ



それでも昼からこんなに食べるのは彼だけで、城の食堂に詰めかけていた他の者は奇異の目でその光景を遠くから眺めていた







「ふう、食べた食べた・・・」



昼食を終え、食堂を後にした『魔獣喰い』は一人城の中を歩いて中庭に出る



ちなみに獅子姫とマデレーンは大食いでも張り合い始めたので、食堂にこっそり置いてきた



同じ姫様同士という立場で、獅子姫がここ一年位ベール王都で修業していた時に二人はいつの間にか仲良くなっていた



歳も近く仲の良い姉妹か友達といった感じだ



(性格もお互いに負けず嫌いで、ワガママなところも似ているかもしれない・・・・)



それは本人たちに言ったら死刑確定だ



心の奥に封印しておこう



そんな事を思いながら『魔獣喰い』は、中庭を抜け城門を潜って大村の方へと進む



「『魔獣喰い』・・・・ちょっといいか?」



城門を出た所で声を掛けていたのは、先程まで剣の鍛錬場に一緒にいた青年騎士レオンハルトはであった






レオンハルトに誘導されるがまま『魔獣喰い』ことオレは先ほどの訓練所に戻る



昼飯時という事もあり訓練所には誰もいない



するとレオンハルトはオレの方に向かって、木で出来た剣を投げ渡してきた



「ん?・・・・これは・・・・?」




それを受け取ったオレはその真意を確かめるべくレオンハルトに問いかける



「・・・・」




レオンハルトは自分も木剣を握り無言で集中している



「『魔獣喰い』・・・・オレと勝負をして欲しい・・・オレが勝ったら、オレは獅子姫に求婚をする・・・・そうなったらお前は邪魔しないでくれ。オレが負けたら獅子姫の事は諦める・・・・」



青年騎士レオンハルトはそう宣言し、騎士の決闘の構えをとりオレに相対する



「決闘って・・・・求婚!?って・・・どういう事?・・それに何でオレが決闘しないといけないの?」




状況の理解できないオレは木剣を構え、こちらに近寄るレオンハルトに問いかける



「木剣が嫌だったらその腰に刺す真剣や手斧でもいいぞ・・・何だったらその弓矢を使っても構わない・・・・とにかく動けなくなった方が負けだ・・・・いくぞ!!」



そう言うとレオンハルトは凄まじい勢いでオレの顔面に突きを繰り出してくる



「くそっ!何でこんな事に・・・・」







こうして男と男のプライド、そして一人の女を賭けた戦いが切って落とされたのである







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