107羽:背伸びをして踊りましょう
大森林の年越し祭り“大精霊祭”二日目の夜
もうすぐ新年を迎えるにあたり、祭りの盛り上がりも最高潮に向かっていた
大村の大広場で人々は酒を飲み歌いそして踊り狂う
普段は慎ましい生活をしているからこそ、年に一度のこの祭りにエネルギーを爆発させ盛り上がる
老若男女、身分や出身村の垣根を越えて今宵は遅くまで騒ぐのであろう
そんな最高潮に盛り上がっている大広場の近くに『魔獣喰い』ことオレは戻って来た
さっきは感傷に思いふけながら散歩をしたら思わぬ場面に遭遇してしまったが、こちらの広場の盛り上がりは離れた時と変わらない様子であった
よく見ると下界から来た来賓たちも上座から降り、一緒に歌い踊り祭りを堪能しているようだ
「・・・・『魔獣喰い』」
広場から少し離れた所からその光景を眺めていたオレの背後に、聞きなれた声が呼びかけてくる
振り返るとそこにいたのは森の研究軍師セリーナであった
“たぶんだが・・・”
研究の虫である彼女の見慣れたぼさぼさの三つ編みは解かれ、銀髪が美しいウエーブを描きながら降ろされ祭りのかがり火を浴び美しく銀色に輝いていた
いつもの研究用のホコリを被ったような服ではなく、大胆に肩を出し細かいレースが組まれたフリフリのスカート姿からは細く美しい脚が伸びていた
顔を見ると少し赤らめながらこちらを上目づかいで見ており、その唇には薄らと紅が塗られている
(この子は・・・セリーナちゃん・・・・だよな、たぶん)
声はセリーナ本人そのものだが、恰好や身だしなみがいつもの違う少女にオレは戸惑いながら全身を見てしまう
隣には神官着を着た『聖女』エレナが彼女をエスコートしており、その様子はまるで王宮貴婦人のように華やかであった
「な、何をジロジロ見ているのだ。は、恥ずかしいのではないか」
セリーナは更にその顔を赤らめ、隣に立つエレナの後ろに隠れてオレ視線から逃げる
「ご、ごめん。いつもと違ってセリーナちゃんが、あまりにも女の子らしくキレイになっていたからビックリしちゃって・・・・」
オレは慌ててフォローするも上手く言い訳が出来ずにあたふたする
「セリーナ様。マジウス様もこう言っておられるのでもっと自信を持ってくださいませ。さて、私はまだご挨拶が済んでない方がいましたのでこの辺で中座いたします。後は計画通りマジウス様とゆっくりお過ごしください」
聖女エレナはそう言うと、背中に隠れていたセリーナをオレの目の前まで突き出しその場を一礼して去って行く
普段見慣れないドレス姿だがよく見ると中々様になっている
(そっか、そういえばセリーナちゃんはイスラマ神聖皇国の王女様でお姫様なんだもんな・・・・)
理由は分からないが生まれ故郷である皇国を離れ、数年前から大森林に住む目の前の少女が、大陸最大国家のお姫様である事は先日の戦の時に多方面に広まっていた
しかし、基本的に生まれや身分にあまり固執しない森の民は、彼女に対する扱いは今までと何にも変わりなくむしろこれまで以上に親密に接する
それはオレも同じで、彼女は年下の女の子であり、階級的には大隊長である向こうが上司だが、友人としてそして妹的な存在として接していた
そんな女の子が急に装いを改め目の前に現れたのだから、オレは少し混乱したのかもしれない
「『魔獣喰い』・・・・そ、その、いつもありがとうなのだ・・・私の護衛をしてくれたり、危険な魔獣の素材の回収を請負ってくれたり、本当に感謝しているのだ・・・」
壁となる聖女エレナが去り、オレの目の前に突き出された格好になったセリーナちゃんはドギマギしながら話しかけてくる
「そんな・・・オレこそいつも作戦の指示してもらったり、魔獣や“敵”に対する秘密兵器を開発してくれたり、オレも本当に助かっているよ」
ドギマギ話しかけられオレも固く返事をしてしまう
「・・・・・」
気まずい空気が流れる
見合いの席で「後は若い二人に任せて席を外しますわ」と仲介のおばちゃんが突然いなくなって緊張するくらい気まずい
もちろんそんな経験はないが、これがまさしくそれだろう
「そういえば、セリーナちゃんは本当のお姫様なんだもんね。今日のドレスみたいな姿も似合って当然かもね」
緊張に耐えられなくなったオレは、セリーナの衣装姿を褒めて場を乗り切ろうとする
“困った時は女の衣装を褒めろ”
経験豊富な大砦の誰かが言っていたセリフだ
確か戦死しちゃったけど
「ありがとうなのだ・・・これはマリオ兄様がこっそりエレナに持たせてくれた皇国の民族ドレスなのだ。こういう格好は嫌いではないが、久しぶりに着るとうやはり緊張するのだ」
セリーナは白い肌の両肩が出ている部分を軽くさすり、恥ずかしがりながら緊張した笑みを浮かべる
「そっか、皇国のドレスなんだね・・・・そういえば前にマリオさんにも聞かれていたけど、セリーナちゃんは自分の国には帰りたくはないの?」
皇国との休戦協定が結ばれた後、皇国の法皇子マリオは実の妹であるこのセリーナに一緒に帰国しないかと誘っていた
特に仲が悪い訳でもなさそうだったし、国に帰ればセリーナは大国のお姫様だ
綺麗な服を着て美味しい料理を沢山食べ、書物を読み研究も自由に出来そうだ
“お姫様”
それは世界中の女の子たちの夢であり願望であろう
それに比べてこの森での生活は文明的な道具も無く、毎日獣や魔獣に怯えながら生活し、木の実や獣の肉ばかり食べている
生まれがこの部族の民ならまだしも、年端のいかない下界の少女であるセリーナがこの森に留まり未だに生活している事にオレは少し不思議だった
「帰りたくか・・・正直に言えば帰ってみたいのだ・・・でも、それ以上にこの森が・・・・が好きなのだ!」
これまで少し恥ずかしがり緊張していたセリーナは、顔を上げ最後の方は大きな声でオレに答えてくる
「そっか・・・オレも最初はアレだったけど・・・今ではこの森の事や皆の事は大好きだ。あっ、もちろんセリーナちゃんの事も好きだよ・・・・オレもマリオさんに呼ばれていたから、落ち着いたら皇国に皆で一緒に行ってみよう」
オレはいつも通りに明るい表情になったセリーナを見て、過去にこの異世界に来た自分の事を思い出す
最初は電気や文明溢れる元の世界に何とかしてでも帰りたかった
でも住み慣れていく内に段々と、この森の生活や下界への旅など刺激的で楽しい毎日だった
“住めば都”
ちょっと危険のある世界だけどもその反動で充実感も半端ではない
(食べ物の結構美味いし自然や文明は最高で、何より女の子たちがキレイで可愛い・・・ふへへ・・・)
オレは過去を思い出しながらそんな妄想に浸る
「『魔獣喰い』・・・・踊るのだ」
そんな妄想しているといつの間にか、オレの体に柔らかい胸の感触が当たり、腰と手に小さな手の温もりが感じられる
見るといつの間にかセリーナがオレの正面に来て、ダンスを踊るように体を密着してきたのだ
「お、踊るって、オレ、踊りは苦手なんだよね・・・・」
運動神経が優れている森の部族のこの身体だが、残念ながらオレには音感リズム感の才能はなかった
昨夜もマデレーン王女にエスコートされながら、何とか最後まで踊り切る事が出来たのは奇跡だといってもいい
「大丈夫なのだ。皇国のダンスはこうやって身体を密着させて、相手の呼吸と音楽に合わせて自由に踊るのだ」
そう言いながら、遠く大広場の方から聞こえてくる音楽に合わせながらセリーナは踊り出す
オレも何となくそれに合わせて一緒に動き出す
「これでいいのかな・・・・成る程、これなら何とかなりそうだ・・・・・ん?そういえばセリーナちゃん、最近急に身長が伸びてきた?」
オレは目の前に密着して踊るセリーナの頭の位置が、前よりも少し上にあり彼女の成長に気付く
「ふふふ、私はまだまだ成長期なのだ。そのうち身長も獅子姫やマデレーンみたいに大きくなって、胸も『黒豹の爪』くらい大きくなるのだ」
そう言いながらセリーナは少し背伸びをして無理に踊ろうとする
その健気な姿は何ともいえず可愛らしい
「ハッハッハ・・・それは楽しみだね。聖女様が言っていたけど、セリーナちゃんのお姉さん達やお母さんは皆そうみたいだしね」
遺伝子というモノはこの世界でもあるのだろう
まあ、隔世遺伝や突然変異とかも有りそうなので何とも言えないが
「そうなのだ。大きくなるまで、もう少し時間がかかるのだ・・・・それまでもう少し・・・・待っていて欲しいのだ・・・・」
最後の方は広場の楽器音が急に騒がしくなり聞き取れなかった
「うん、分かったよ」
取り敢えず空返事をしながら、オレはダンスを一緒に踊り祭りの余韻を楽しむのであった
少し離れている場所で繰り広げられる女の戦いに気付かずに
☆
「エレナ、そこを退くのじゃ」
獅子姫は右手を腰にある剣の柄に当て相手を威圧する
その剣気は普通の者ならその場に座り込んでしまうか、あるいは気絶してしまう位に強烈だ
「申し訳ありません。いくら獅子姫様と言えども、今宵のここは通行止めでございます」
聖女エレナはその剣気を何事も無かったように受け流し、手に持つ布に包まれた黒い塊を大地に突き刺す
「ほう、通行止めだとな。・・・・私は向こうにいる『魔獣喰い』に用があるだけじゃ。さあ、怪我をしたくなかったらそこを退くのじゃ」
口は笑っているが目が本気な獅子姫はそう言い、相手を更に威圧する
その闘気に反応し周囲の木々から鳥たちが一斉に飛び立ち辺りが騒がしくなる
「・・・・確かに今の私では獅子姫様には敵わないかもしれません。でも、例えこの身が砕け散ろうともここを退く訳には参りません・・・どうか我が姫であるセリーナ様の将来の為にも、あと少しだけ時間をくださいませ」
そう言いながら聖女エレナは一瞬で布をはぎ取り、地面に突き刺した大剣をあらわにする
身長を遥かに越す巨大に剣だ
聖女である少女がこんな大剣を振り回せるのだろうか?
だが聞いた話では、前回の戦でこの聖女はこの大剣を振り回し、単騎でグラニス軍に切り込んだという
そして、今は穏やかな口調だがその闘気は間違いなく歴戦の戦士のものである事を獅子姫に感じさせていた
「セリーナの未来か・・・・ふふふ・・・・そうか、それなら仕方がないの。私の番は明日以降という訳か・・・」
そう言いながら獅子姫は抜刀の構えを解き、遠くを眺めその場を去ろうとする
「獅子姫様、誠にありがとうございます。必ずあなた様にも幸運が訪れます事をお祈り申し上げます」
聖女エレナはそう言いながら、手にした大剣にまた器用に布を巻き構えを解く
いつの間にか日付は変わり年を越していた
時計の無い世界なので、そんな事にも気付かず村人達は変わらず歌い踊りまくる
数日間に渡り続けられる大精霊祭は、色んな人々の想いを乗せ今宵もまだまだ盛り上がっていくのであった
この章は(女性)人物が多く登場するので簡単に紹介します
『魔獣喰い』マジウス・ダンシャク
森の弓戦士。まさかのモテキ?到来で最近鼻の下が長くなる。知覚鋭敏で見えない気配などを掴む能力があるらしいが、男女関係については鈍感壊滅状態。
獅子姫
森の大族長の娘で凄腕の剣士。最近鼻の下が伸びた『魔獣喰い』を見てツンツンイライラする。成長して最近は物わかりはいい
精霊神官ちゃん
突如現れた密着系の聖女様に対抗心?を燃やす。と思っていたら親友のマデレーン姫に一歩先を行かれる。自分の“小説読みたい欲”により習得した秘術を使い世界を救う?普段は表情を変えない無表情系だが内心は乙女チック。精霊秘術を使いすぎ今宵は屋台料理の差し入れを食べながら療養中。
イスラマ神聖皇国『聖女』エレナ
『魔獣喰い』の洗脳波?浴びたせいか大森林まで付いて来る。無意識の密着っ子。祭りでも変形大剣も持ち歩く。酒は飲まない、そして変身するので飲ませてはいけない系。我が姫でありセリーナの為に一肌脱ぐ。
女戦士『黒豹の爪』
森の腕利きの大剣使い。大砦にまだ帰らず大村で哨戒任務をこなしながら祭りを満喫中。家系的に酒は強い方だがそんなに好きではない。自分より強い男が好きで、実は情熱的な女性、蟷螂雌もビックリだ。
研究軍師セリーナ
これまでぼっち研究をしていた寂しんぼ。『魔獣喰い』の事も研究している。秘術を使い『敵』の本拠地を探し殲滅をもくろむ。無意識なのに手を繋ぎ合う『魔獣喰い』と神官ちゃんを見てイガイガする。聖女エレナにそそのかされ本気を出す。
ベール王国マデレーン王女
普通に自分に接してくれる『魔獣喰い』に少し好意を持つ。友達なのか好意なのか自分でも分からない。ベール王国の第二以下の王女は、国内の侯爵以上に嫁ぐ事が可能な制度を思い出し画策する事を決意。フライング気味で他の女子群は焦り行動する。2日目以降は大人しくする?
女騎士スザンナ
強さと優しさを持つ『魔獣喰い』を尊敬する。前に自分の為にマジウスが狂戦士モードの聖女に立ち向かう姿は胸キュン。騎士仲間にはモテるが恋愛には天然鈍感系。
重戦士『岩の矛』イワノフ
結婚して子供がいるので他の女に興味無し?二日酔いも朝には全回復して飲んでいる。
近衛騎士ヘルマン
マデレーン王女に変な虫が付かないように全力で警護する。でも気を利かせる事もたまにする。いい奴だ。酒はそんなに飲まない、そして変身するので大量に飲ませない方がいい方。
グラニス侯爵レオンハルト
本来はグラニス家に戻らなくてはいけないのに、無理やり大村に来た。祭りを堪能中。マデレーン王女とマジウスの踊りを見てニンマリする。結構な大酒飲み。二日酔いもすぐ回復。
ヴェルネア帝国司令官『赤髪』ガエル
結構女好き。でもそれより何倍も戦いが好き。つまり強い好みの女が好き。祭りは嫌いではないが飽きてきた。森の戦士で強そうな奴を物色中。かなりの大酒飲みだが『魔獣喰い』に負け一目置く。ただ強い女が好きな訳ではなさそうで、戦闘スタイルが噛み合う女性を好きそうだ。




