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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【『魔獣喰い』18歳の女難】の章

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138/204

105羽:精霊神官 海と空  ★挿絵あり 精霊神官ちゃん

あとがきに『精霊神官ちゃん』ファンアート及びイラストがあります。

あくまで書いた方のイメージです。

個人のイメージを大事にする方は閲覧ご注意ください




大森林で年に一度のお祭り、“大精霊祭”も二日目に突入した



とはいっても早朝の村の大通りは実に静かだ



いつもなら日が昇る前から起きだし村人全員が活動するのだが、殆どの家屋は静まり返っている



それもそのはず、多くの者は昨夜遅くまで飲んで歌い踊り狂い、村人達はまだ夢の中にいるからだ




そんな大通りを早朝の弓の訓練を終えた『魔獣喰い』ことオレは、一人静かに歩いていた



オレ自身も昨夜は酒と料理をたらふく堪能したが、今朝はこの通りピンピンしている



決して手を抜いていた訳ではない



その証拠に昨夜はマデレーンちゃんと祭りで踊った後、来賓席に戻ると何故か皆にしこたま飲まされた




「『魔獣喰い』、祝い酒だ・・・・これでライバルが減ったか」



と青年騎士レオンハルトは、何故か嬉しそうにオレと乾杯をし連続で酒を注いできた



レオンハルトは優男のイメージがあるが実はかなりの酒豪だ



二人で森の民の自慢の果実酒をカメごと空けた




「お前も“決める”時は決めるのだな」



そのうち既婚者である森の戦士『岩の矛』と独身者『赤髪』ガエルもオレに駆け寄り、四人でアルコール度数が強い蒸留酒を酌み交わした



この二人は見た目の大柄で酒もそれに比例して激強い



祝いの言葉が何のことか分からなかったが、とりあえず四人で美味しく酒は頂戴した



森の民の女性のここがいいだの、帝国の女性も夜は情熱的で素晴らしいだの、ベール王国の婦人のここは注意しろだの殆どが女性の話だ



経験豊富なガエルと一途な男『岩の矛』の話は、未経験であるオレとレオンハルトにとって大変勉強になる



ペースもどんどん早くなり、酒係りの者が大慌てで蒸留酒をかき集めた



来賓席を囲む森の民からは声援も飛び、いつの間にか国別対抗大酒飲み競争にまで発展する



バタン、ばたん、バタン



最終的にはレオンハルトと『岩の矛』、『赤髪』ガエルの三人は撃沈して広場の来賓席で潰れていた



残念ながらいくら飲んでも酔わないのがオレの体質だ



盛り上がる観客を横目に昨夜オレは寝床に戻った






(もうすぐ18歳にオレもなるけど、酒の味だけはよく分からないな・・・・まぁ、ツマミは美味しいから飲み会は好きなんだけどね)



昨夜の事を思い出しながら、オレは大村の中を流れる小川で軽く水浴びをして汗を流し城へ一度戻る



祭りは今日から二日目だが、本格的に祭りが始まるのは昼過ぎからだ



いつもは早起きなこの部族だが、祭り期間中はゆっくり起き、それから昨夜の片づけをして今宵の準備をして過ごす





一度城に帰ったオレはとある人に呼び出されていたのを思い出し、準備をして待ち合わせ場所に向かう






準備を終えたオレは大村の外れにある待ち合わせ場所 “精霊神官の館”に着いた



館といっても大森林最大級の大きさを誇る“大霊樹”の樹の下にある自然と調和した建物で、下界の教会のような石材で出来た荘厳さはない



この大森林の各村々には、大小関わらず必ずこの精霊神官の館と“霊樹”があり、人々はその樹を中心に自然と共存しながら生活しているといっても過言ではない



特にこの大村にある館は最大の規模を誇り、大神官を筆頭に多くの精霊神官と見習い神官が共同生活をして修業をしている





そんな館の側で三人の女性が集まり、オレの到着を待ちわびていたようだ



「『魔獣喰い』、ようやく来たのだ。それでは始めようとするのだ」



その場にいたのは森の研究軍師セリーナ、精霊大神官の婆ちゃん、そして本日の主役である精霊神官ちゃんの三人であった








オレは大神官の婆ちゃんに言われた通りに、目を閉じ意識を集中し感覚を鋭敏に砥ぎ澄ます



・・・・・暗い森の中で小さな獲物を狙うような、嵐の中で空を飛ぶ鳥の羽音を聞き分けるように耳を澄ます・・・・



オレの意識はやがて体を離れ空を飛び、地をう風の様に大森林の中を突き進む



(これが秘術の力か・・・凄いな・・・)



オレは意識をだけを飛ばしこの世界を飛び回っている



身体は先ほどの神官の館に残しており、気を戻すとその存在もちゃんと確認できる



そんな実体のオレの右手には、柔らかくて暖かい温もりがあった



意識を集中する為に目を閉じて見えないが、その小さく柔らかい手は精霊神官『清い水』の左手であった



(ぷにぷにして柔らかくて・・・気持ちがいい感触だな・・・・)



オレは神官ちゃんの左手の温もりを感じながら空を飛ぶ幸せタイムに入っていた



〔『魔獣喰い』様、変な事を考えずに意識を集中してください〕



妄想タイムに入っていたオレは、突如脳内に響きわたる女性の声でそれを中断する



(ご、ごめん、ごめん。女の子と手を繋ぐなんて滅多にないから緊張しちゃって・・・)



オレはその声の主である神官ちゃんに、意識の声を持って返事をする



〔滅多にないって・・・・何よ・・・昨夜は・・・あんなに密着してデレデレ・・・踊っていたのに〕



オレの脳内に聞き取れないくらい小さな声が聞こえる



(ん、今のは神官ちゃんの声?・・・・でも口調がいつもと全然違うぞ)



そんな事を思いつつ、オレは意識を集中しながら再び目印を探し“意識を飛ばす”





オレが今行っているのは秘術を使った“探索”だ



秘術は大森林の精霊神官に伝わる『偶の図』という術で、森と大地と空の精霊と交信する事によって、大陸中の離れた場所を感じる力らしい



この力を使うと特定の人や物を想う事により、その場所を探し出し特定することも出来るという



これは精霊神官の長い歴史の中でも、数人しか会得出来なかった難しい術らしいが、隣にいる神官ちゃんが厳しい修業の末に会得したモノだという



そんな神官ちゃんの術にリンクして、オレが今探しているのはあの“黒騎士”の居場所だ



厳密に言うと“黒騎士及び『敵』の本拠地”を見つけようとしているのだ





〔『魔獣喰い』、もう少し西へ行って〕



オレの意識は空を飛ぶ鳥の様に、地を走る風の様に西に進路を向けこの大陸を駆け巡る



(これは凄いな・・・一瞬で森を抜け、国を駆け巡っている・・・しかも意識を集中して目を凝らすと、ちゃんと住んでいる人の表情やオーラを感じられる・・・・それにしても・・・)



それにしても、神官ちゃんの口調が敬語から、段々友達みたいな言葉使いになってきていた



もしかしたら天才と呼ばれる彼女も、普段はこんな言葉を使う“普通の女の子”なのかもしれない



でも、そう“思う”と意識をリンクした今は、彼女に直ぐ伝わってしまうので考えないように意識を分けて考える事にする



これでオレの大好き妄想をいつでも実行できる



〔・・・・えっ、意識の断層を分けられるの?あなたって本当に凄い人ね・・・・〕



オレが隠した事をしたのを感じたのか、神官ちゃんは驚き少し苦笑いする



その声は何とも言えない親しみやさもあり心地よい





(・・・さて、この辺りか・・・・)



オレは“黒騎士”との戦いの時、最後に打ち込んだ自分の“矢”の気配を感じ意識の移動を止める



ちなみにこの“矢を射る作戦”は、神官ちゃんの秘術の事を聞いた研究軍師セリーナが立案した追跡作戦であった



矢の気配を感じたのは遥か異国の風景だ



意識を上空に上げ、空の上から眼下に広がるのは今まで見た事のないような地形だった



西の方には“海”が広がり、海沿いは砂浜と岩場が複雑な地形を表す



内陸側には大きな街から小さな村が点々とし、その文化度からもこの大陸のどこかであるのは間違いないだろう



(黒騎士達はどこだ・・・・)



自分の“矢”の気配を探るが、どうやらこの地域で気配は途切れているようだ



矢に気付いて抜いたか、“結界”の様な場所に移動したのかもしれない



(ここは恐らくはオレたちの住む大森林から皇国を挟んで反対側にある西の土地かな・・・・意識が戻ったらセリーナちゃんに聞いてみよう・・・それにしても・・・・)




それにしても、美しい光景だ



オレは空中から見える光景に探索の任務を忘れ、目と心を奪われる



〔凄い・・・・この大きな池が“海”というモノなんだ・・・小説に書いてあった様に遥か先まで広がっているんだ・・・・〕



オレと視覚を共有している神官ちゃんは、初めて見る“海”のスケールに感動している




オレたちの住む大森林には湖はあるが“海”は近辺にない



数年前までは下界との交流がまったくなかったこの森の部族



彼女が“海”を見た事もないのも当たり前だろう



オレ自身は前世で日本海を見た経験はあったが、この眼下に広がるエメラルドグリーンの海と空との境目の美しさに心をしばらく奪われる



〔ねえ・・・・そういえば、『魔獣喰い』〕



意識の中で神官ちゃんがオレに話しかけてくる



〔昨夜、マデレーンと“信愛”のダンスを踊っていたけど、あれはつまり・・・・そういうことなの?〕



声質ではないが、心の声質で少し緊張した感じで神官ちゃんが聞いてくる



(そ、その話か・・・昨夜もダンスの後に皆に冷やかされたけど、あれが“信愛”のダンスだなんてオレも知らなかったし、ただの偶然だよ・・・・ 一緒に踊ったのも、誘ってくれた女性に恥をかかせない為の男のマナーだよ)



オレは昨夜、何気なくマデレーン王女と踊った踊りが、この部族では“心を許し信じ愛を捧げる”ものだと分からずに多方面か誤解を受けてしまった



冷やかす者に、驚き喜ぶ者、冷たい視線もあった



更に一緒に踊ったマデレーンちゃんも「“信愛”の踊り・・・ふふふ、そういう意味もあるかしら・・・」と、言葉を皆に濁して言ったので、益々オレをやっかむ声はエスカレートしていった



それでも大半は冷やかし半分だったので、昨夜の酒を飲んで一晩明けたら皆忘れているだろうと高をくくっていた




そんな昨晩の事を、神官ちゃんは何故か気にしていたようだ



〔ぐ、偶然・・・・そう、そうだったのね!〕



その答えを聞き神官ちゃん心の声は緊張が解け、明るい雰囲気に戻った



(・・・・そういえば、神官ちゃんって、この心の声だと普通の女の子の話し方をするけど、もしかして、いつもはオレに気を使っていたの?)



オレは気まずい話を逸らす様に、神官ちゃんの話し方に話題をふる



〔・・・・そっか、この状態だと心の本音が出ちゃうんだね。忘れていたわ・・・そうね、もしかしたら、気をつかっていたのかもしれない。私・・・小さい頃から“百年に一人の素質の精霊神官”みたいな風に言われて・・・・大神官様に厳しくしつけられて表面を取り繕っていたのかも・・・・〕



オレたちの住む大森林では素質のある子供は小さい頃から親元を離れ“神官の館”に修業に出なくてはいけないのだ



〔皆には隠していたけど、本当の私は下界の恋愛小説の主人公たちに憧れて、美味しい屋台の食べ物が大好きな、ただの非力な女なのにね・・・・〕



そう心の中で言っている神官ちゃんは、どこか寂しそうで孤独だった



(でも、こっちの普通の話し方の神官ちゃんの方が、人間らしくてオレは好きだよ。下界に行った時にこっそり小説を買ったり、精霊祭で屋台料理を買い占めたり・・・・そんな人間らしい神官ちゃんも、神官ちゃんらしさだよ)



神官ちゃんが“食いしん坊”で“下界の買い物好きな女子”なのは皆にバレバレだったけど、ここはあえて言わないようにしておこう



こう見えてもオレは空気を読む男だ



〔“人間らしい”・・・・“好き”・・・ありがとね・・・私もこれからは少しだけ自分に素直に生きてみるわ・・・〕



神先ほどまで曇っていた官ちゃんの心は穏やかに晴れ渡り、角張っていた角が少し丸くなり取れた様な気がした



ギュッ



意識はないはずのオレ本体の右手が、神官ちゃんの左手によって強く握り締められた様な気がする



あくまでも“気がした”だけだが・・・




〔今日はこれ以上、無理かもね。さあ、肉体へ帰りましょう・・・私の勇者様・・・〕



最後の方はまた聞き取れなかったが、神官ちゃんが前よりもオレに心を許してくれた事だけは分かった





・・・・・帰りはタイムラグも無く、一瞬で肉体に飛んでいた精神が戻った





「ふう・・・」



大村の神官の館に意識が戻ったオレと神官ちゃんだが、秘術を長く使いすぎた神官ちゃんは顔色が少し悪く、少し休養が必要との事だった



神官ちゃんは握りしめたオレの手を最後まで名残惜しく握っていたが、いつもより明るい笑顔をオレに見せ休憩室に運ばれて行く







気付くと日は天高く昇っており、大村の広場の方からは笛や太鼓の楽器の音が聞こえ、大精霊祭も二日目が始まった事を知らせる



(神官ちゃんは今宵の屋台料理制覇は休みかな・・・後でこっそり差し入れを持ってきてあげよう・・・)




そんな事を思いつつ、大精霊祭の二日目の始まるのであった







この章は(女性)人物が多く登場するので簡単に紹介します




『魔獣喰い』マジウス・ダンシャク

森の弓戦士。まさかのモテキ?到来に鼻の下が長くする。身体能力に優れるがリズム音感は壊滅的。どちらかと言えば日本海側



獅子姫

森の大族長の娘で凄腕の剣士。ダンスを踊る『魔獣喰い』を見てツンツンする



精霊神官ちゃん

突如現れた密着系の聖女様に対抗心?を燃やす。と思っていたら親友のマデレーンに一歩先を行かれる。自分の“小説読みたい欲”により習得した秘術を使い世界を救う?普段は表情を変えない無表情系だが内心は乙女チック



イスラマ神聖皇国『聖女』エレナ

『魔獣喰い』の洗脳波?浴びたせいか大森林まで付いて来る。無意識の密着っ子。祭りでも変形大剣も持ち歩く。酒は飲まない・飲ませてはいけない




女戦士『黒豹の爪』

森の腕利きの大剣使い。大砦にまだ帰らず大村で哨戒任務をこなしながら祭りを満喫中。家系的に酒は強い方だがそんなに好きではない



研究軍師セリーナ

これまでぼっち研究をしていた寂しんぼ。『魔獣喰い』の事も研究している。秘術を使い『敵』の本拠地を探し殲滅をもくろむ。無意識なのに手を繋ぎ合う『魔獣喰い』と神官ちゃんを見てイガイガする




ベール王国マデレーン王女

普通に自分に接してくれる『魔獣喰い』に少し好意を持つ。友達なのか好意なのか自分でも分からない。ベール王国の第二以下の王女は、国内の侯爵以上に嫁ぐ事が可能な制度を思い出し画策する事を決意。フライング気味。2日目以降は大人しくする?




女騎士スザンナ

強さと優しさを持つ『魔獣喰い』を尊敬する。前に自分の為にマジウスが狂戦士モードの聖女に立ち向かう姿は胸キュン。




重戦士『岩の矛』イワノフ

結婚して子供がいるので他の女に興味無し?決してアッチではない。大酒飲みだが『魔獣喰い』に負ける



近衛騎士ヘルマン

マデレーン王女に変な虫が付かないように全力で警護する。でも気を利かせる事もたまにする。いい奴だ。酒はそんなに飲まない・飲ませない方がいい方



グラニス侯爵レオンハルト

本来はグラニス家に戻らなくてはいけないのに、無理やり大村に来た。祭りを堪能中。マデレーン王女とマジウスの踊りを見てニンマリする。結構な大酒飲み。



ヴェルネア帝国司令官『赤髪』ガエル

結構女好き。でもそれより何倍も戦いが好き。つまり強い好みの女が好き。祭りは嫌いではないが飽きてきた。森の戦士で強そうな奴を物色中。かなりの大酒飲みだが『魔獣喰い』に負け一目置く。








ヒロインのひとり精霊神官ちゃん



挿絵(By みてみん)


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