104羽:年頃”桃姫”マデレーンの場合
“祭り”が始まる
大村の広場では昼間から楽器による演奏が響き渡り、派手な衣装に身を包んだ村人達が思い思いに踊り歌う
食べ物や酒などの飲み物を中心に屋台がいつもより多く立ち並び、肉や魚が香ばしく焼かれた香りが人々の足を止める
普段は倹約する民が、この時ばかりは皆昼から酒を飲みほろ酔い気分で気軽に歌い出す
1年に一度、年末年始に数日間にわたり行われる『大精霊祭』が始まったのだ
夕方になり初日の盛り上がりも最高潮になってきた
その様子を『魔獣喰い』ことオレは両手いっぱいに屋台料理を抱えながら眺め、幸せの瞬間を迎えていた
下界で戦を終えて、この大村に帰還してしばらく滞在していた
本来の仕事も気になっていたが、オレの所属する“大砦”がある“魔の森”の魔獣達は最近は少し大人しくなっていたという
そんな訳で半休暇という名目でオレはここでゆっくりしていた
休みと言っても、下界から来たマデレーン王女をはじめとする御一行様を色々な場所に案内したり、日々の食糧を得る為に狩りにも出ていた
『働かざる者、食うべからず』
この森の格言は休暇中にも関わらず身について忙しい
だが精霊祭が始まると最低限の警備兵を交代で残し、村人や戦士団も全員がお祭り騒ぎだ
オレは屋台の料理を行儀悪く食べながら、踊り狂う群衆を抜け来賓席の方に戻ってきた
そこは下界のベール王国やグラニス家、ヴェルネア帝国、イスラマ神聖皇国から来た来賓たちが座っていた
オレは今回も彼らの世話役のという事で、夕方の祭りの部では付きっ切りで接待していた
殆どの者が初めて見る森の部族の祭りを、楽しそうに見ながら飲み食いしている
森の部族の祭りは“飲んで食べて歌って踊る”
ただそれだけの原始的な祭りだが、だからこそ異国の者も解かりやすく楽しめる
難しい宮廷作法やダンスのマナーもなく本能のままに誰もが踊る
来賓席から見ると大村の大広場に儲かられた大きなかがり火を囲み、火の粉に照らされた村人達が楽器に合わせて歌い踊る姿は幻想的にも見える
来賓席に料理を持ってきたオレは、毎年変わらないその様子を眺めながら料理を手に取る
・・・おっと、その前に来賓で隣にいるマデレーン王女に料理を取り分け手渡す
「一年ぶりに見るけど、去年に比べてあなた食べる量が増えたわね」
マデレーンはオレの目の前にある大量の料理を見て、呆れ顔で聞いてくる
「最近は下界の食材や調理法も普及してきたので、屋台の数も増えましたから・・・・あっ、もちろんマデレーン王女の分もありますよ」
オレはとっさにそう言い、最後の一個だった料理の一部を差し出す
「うむ、苦しゅうない」
とマデレーンは笑顔でワザとらしく言い受け取る
(そういえば去年もこんなやり取りがあったな・・・)
オレは一年前もマデレーンがこうして大森林を訪れて、大精霊祭に参加した光景を思い出す
「そういえば、マジウス。あなた最近は私の事は“マデレーン王女”ってばかり呼んで、前みたいに“桃姫ちゃん”とか“マデレーンちゃん”って呼ばなくなったわね?」
先程まで悪ふざけで笑みを浮かべていたマデレーンは、少し眉を下げオレに問いかけてくる
すると何かを察したのか、マデレーン王女の側に控えていた近衛騎士ヘルマンと侍女たちは席を外しオレたち二人から離れて行く
「・・・・・」
祭りの歌と踊りの喧騒の中、来賓席の端で二人きりの空間に気まずい沈黙が続く
「そ、それはアレだよ。やっぱり年下といってもマデレーン様は王女様だし、最近は立派になってきて王女様らしくなってきたし、皇国軍との戦いでは自ら先頭に立ち軍を鼓舞したって聞いたし・・・・」
オレは言葉のまとまらないまま、言い訳めいた理由を単語に連ねる
(そう確かにマデレーンは立派に成長した・・・)
一年前は王城から出たくて旅をしただけのワガママな女の子だったけど、大森林の荒道を自分の足で踏破し、敵対していた帝国への使節団の役割も終え、例え帝都で魔獣に囲まれても、ベール王国が崩壊の危機に瀕しようが勇気を持ち進んでいた
もうそこには一年前の女の子お姫ちゃんはおらず、歴史と伝統あるベール王国の第二王女がいたのだった
「・・・・あなたは“男爵”マジウス卿になったけど、あなたはあなたよね?」
オレの返答を聞き、マデレーンは少し真面目な顔でオレに聞いてくる
「それはもちろんそうだよ。オレは『魔獣喰い』でありマジウスであって“男爵”なんて、ただのつまらない上辺の呼び方だよ」
先日の戦功で他の森の戦士の上官たちが全員辞退した為に、オレは何故かベール王国から“男爵”の爵位と国境地帯の村をひとつ頂戴した
だが所詮オレは森の狩人であり、そんな貴族なんて大層なモノではない
(でも、貴族生活にもちょっとは憧れているけど)
「私もそれと同じだわ。私は“マデレーン”であって“桃姫ちゃん”なのよ。“王女様”なんてただの形式上の呼び方だわ」
マデレーンは先ほどの真面目な表情を崩し、いつもの明るい笑顔で語り掛けてくる
「はっはっは・・・そうだね。ごめんね“桃姫ちゃん”。オレも変に気を使っていたのかもしれないな・・・」
絡まった糸が解けるように、何故かスッキリしたオレも前みたいな笑顔を取り戻し答える
「そうね、二人きりの時これからも気軽で呼び合いましょう。そういえばマジウス、あなたはこれからどうするの?“魔”が下界にも広がる危機が迫っていて、それぞれが対策に動き出すみたいだけど・・・・」
マデレーンは少し真剣な表情に戻り、小声で問いかけてくる
「オレには特に指令は出ていないけど・・・そういえば、下界のオレの“領地に一度視察に行け”みたいな事は言われたかな。名目上とはいえ、やるからにはオレも責任を持って統治したいし、落ち着いたらまた下界に行くかな・・・」
それぞれがいずれ迫り来る“魔”に対応する為に、重要な役割分担が与えられていた
そんな中で何故かオレは、今まで通りで大丈夫という話だった
「そっか・・・それなら少し安心かも。あなたはいつも最前線で危険な事ばかりしてきたから・・・・そういえば、せっかく男爵の爵位を貰ったんだから、頑張って手柄を立てて昇進してよね。そうね、せめてあなたも侯爵くらいになったら・・・いいのに」
マデレーンはこれまでがむしゃら走り続けてきた『魔獣喰い』マジウスの身体を心配するように伝える
「そうだね・・・これからは少し落ち着いて過ごせるように頑張るか。ん?でも、侯爵になると何かいい事があるっけ?」
最後の言葉を濁された事が気になり、オレはマデレーンに聞いてみる
「ふふふ・・・内緒よ・・・さぁ、良かったら一緒に踊りましょう。あなたも踊りくらいは出来るでしょう?」
そう言うとマデレーンは答え聞かずに強引にオレの手を取り、来賓席を降り村の皆が踊り輪に進んで行く
下界の姫様の突然の飛び入り参加に、大いに湧き上がる踊り手たち
乗りに乗った演奏はよりヒートアップし、初日だというのに祭りはどんどん盛り上がっていく
(踊りはそんなに得意じゃないんだけどな・・・・)
そんな事を思いつつ、オレは桃姫ちゃんの足を踏まないように一緒に踊る
オレにとっては“森の精霊の加護”は音感とリズム感までは強化していないようだ
それでも炎々と燃え盛るたき火の光は踊り狂う人々の顔を照らし、一種の幻想的な光景でもあった
「ベールでは・・・侯爵になったら第二王女以下の姫を妻に出来るんだよ・・・」
益々騒がしくなった演奏の最中、マデレーンが何かオレに小さな声で呟いてきた
「ん?桃姫ちゃん、何か今言った?」
よく聞き取れなかったオレは顔を近づけて聞き直す
「ううん、何でもないわ。さあ、もっと激しく踊りましょう」
そう言うとマデレーンはこれまで以上に早いリズムでステップを踏む
偶然なのかその踊りは独身の森の民が、“信愛”を表す踊りであった事をオレもマデレーンも知らなかった
緑深い森の中で激しく燃え盛る炎が大地を照らす
こうして、大森林に一年に一度の熱い日が始まるのであった
この章は(女性)人物が多く登場するので簡単に紹介します
『魔獣喰い』マジウス男爵(仮)
森の弓戦士。まさかのモテキ?到来に鼻の下が長くする。身体能力に優れるがリズム音感は壊滅的。
獅子姫
森の大族長の娘で凄腕の剣士。ダンスを踊る『魔獣喰い』を見てこれまたツンツンする
精霊神官ちゃん
突如現れた密着系の聖女様に対抗心?を燃やす。と思っていたら親友のマデレーンに一歩先を行かれる
イスラマ神聖皇国『聖女』エレナ
『魔獣喰い』の洗脳波?浴びたせいか大森林まで付いて来る。無意識の密着っ子。祭りでも変形大剣も持ち歩く。
女戦士『黒豹の爪』
森の腕利きの大剣使い。大砦にまだ帰らず大村で哨戒任務をこなしながら祭りを満喫中。
研究軍師セリーナ
これまでぼっち研究をしていた寂しんぼ。『魔獣喰い』の事も研究している。親友のマデレーンの本気に心がざわざわする。何だこれ?
ベール王国マデレーン王女
普通に自分に接してくれる『魔獣喰い』に少し好意を持つ。友達なのか好意なのか自分でも分からない。ベール王国の第二以下の王女は、国内の侯爵以上に嫁ぐ事が可能な制度を思い出し画策?する事を決意。フライング気味。
女騎士スザンナ
強さと優しさを持つ『魔獣喰い』を尊敬する。前に自分の為にマジウスが狂戦士モードの聖女に立ち向かう姿は胸キュン。
重戦士『岩の矛』イワノフ
結婚して子供がいるので他の女に興味無し?決してアッチではない
近衛騎士ヘルマン
マデレーン王女に変な虫が付かないように全力で警護する。でも気を利かせる事もたまにする。いい奴だ。決してアッチではない。
グラニス侯爵レオンハルト
本来はグラニス家に戻らなくてはいけないのに、無理やり大村に来た。祭りを堪能中。マデレーン王女とマジウスの踊りを見てニンマリする。
ヴェルネア帝国司令官『赤髪』ガエル
結構女好き。でもそれより何倍も戦いが好き。つまり強い好みの女が好き。祭りは嫌いではないが飽きてきた。森の戦士で強そうな奴を物色中。




