鬼火 第8話
それから数日後――。
警視庁Mファイル室。
科学警察研究所から、不審火事件の鑑識結果が届いた。
拓哉は封筒から報告書を取り出し、静かにページをめくる。
しかし、最後まで目を通しても表情は変わらなかった。
「……原因不明。」
思わず小さく呟く。
出火原因、不明。
発火物質、検出されず。
自然発火の可能性、極めて低い。
放火を裏付ける証拠もなし。
結論は、それだけだった。
「どういうことだ……。」
拓哉は報告書を机へ置き、腕を組む。
ここまで調べても原因が掴めない事件は珍しい。
綾乃は報告書を受け取り、細かなデータへ目を通していた。
温度変化。
焼損範囲。
検出された微量金属。
一つひとつを確認していく。
やがて、小さく呟いた。
「……もしかしたら。」
拓哉が顔を上げる。
「何だ?」
綾乃は少し考えながら口を開いた。
「高周波……かもしれません。」
「高周波?」
拓哉は首を傾げる。
綾乃は近くにあったメモ用紙を手に取り、簡単な図を描き始めた。
「例えば、この一点だけに非常に強い電磁波や高周波エネルギーが集中したとします。」
「すると内部から急激に熱を持って、発火する可能性はあります。」
拓哉は図を見つめる。
「つまり?」
綾乃はペンを止めた。
「例えるなら、一瞬だけ現場全体が電子レンジの中みたいな状態になった……そんなイメージです。」
「もちろん、そんな装置が本当に存在するならですけど。」
最後にそう付け加えた。
部屋に沈黙が落ちる。
拓哉は窓の外を眺めながら、静かに言った。
「……あり得ない話じゃない。」
綾乃は驚いたように顔を上げた。
「本当ですか?」
「ああ。」
拓哉はゆっくり振り返る。
「前の"電波事件"も、常識では説明できなかった。」
「Mファイルでは、不可能だと思ったことほど疑ってみる価値がある。」
綾乃は小さく頷いた。
だが、その推理を裏付ける証拠は、まだ一つも見つかっていなかった。




