鬼火 第6話
「……なんで、その工場を知っている?」
拓哉は思わず足を止めた。
携帯電話を握る手に、自然と力が入る。
電話の向こうでは、克己が小さく笑った。
「業界じゃ、昔から有名なんだよ。」
「建った頃から、妙な噂が絶えない工場でな。」
「噂?」
「ああ。」
克己は少し間を置いて続ける。
「夜になると、誰もいない場所で青白い火が揺れる。」
「その火を追いかけた者は、二度と戻ってこない……そんな話だ。」
拓哉は苦笑した。
「怪談話か。」
「お前らしいな。」
「信じるかどうかは、お前次第だ。」
克己の声が少しだけ真剣になる。
「だが、その工場だけは油断するな。」
「……嫌な予感がする。」
そこで電話は切れた。
拓哉は携帯電話をポケットへしまい、小さく息をつく。
「幽霊、か……。」
もちろん信じてはいない。
だが、これまでMファイルで経験してきた事件は、常識だけでは説明できないものばかりだった。
その時だった。
工場の奥から、鋭い叫び声が響く。
「火事だーっ!」
「誰か来てくれ!」
拓哉は反射的に声のした方向へ駆け出した。
資材置き場には工場の作業員たちが集まり、騒然となっていた。
現場の中央では、木製パレットの脇に積まれていた資材が青白い炎を上げて燃えている。
しかし周囲には、火種になるような機械も配線もない。
作業員の一人が震える声で呟いた。
「誰も……火なんて点けていない。」
「なのに、突然燃え始めたんです……。」
拓哉は燃え上がる炎を見つめた。
その炎は、普通の炎とはどこか違っていた。
一瞬だけ。
青白い光が、まるで生き物のように揺らめいた気がした。




