鬼火 第38話
翌日――。
拓哉と綾乃は警視庁の部署へ戻っていた。
綾乃は昨夜の出来事を思い返しながら、今回の事件の報告書をまとめていた。
その時だった。
突然、拓哉の携帯電話が鳴った。
「はい。もしもし……」
拓哉が電話に出る。
電話の相手は科学警察研究所の茉里だった。
「なんだよ?」
拓哉が面倒くさそうに尋ねると、電話の向こうの茉里は妙に真剣な声で言った。
「ねえ、拓哉。その事件に関わった人と機械はどこ?」
「はぁ?」
拓哉は眉をひそめた。
「何を言ってるんだよ。昨日話しただろ?」
「○×大学の旧校舎だよ。」
「大学の隅に古い建物があっただろ?」
だが、茉里は沈黙したまま答えない。
嫌な予感がした。
数秒後、茉里が静かに口を開く。
「確かに建物はあったわ。」
「でも、中には何もないの。」
「何もない?」
拓哉は思わず聞き返した。
「機械どころか研究設備もない。」
「配線の跡もないし、機械を運び出した形跡すらないわ。」
茉里の声は困惑していた。
「まるで最初から何もなかったみたいなのよ。」
拓哉は黙り込んだ。
昨夜、自分は確かに見た。
あの異様な機械を。
そして宮前という男も。
「おい……宮前さんは?」
拓哉が尋ねる。
しかし返ってきた言葉は、さらに奇妙だった。
「それがね……」
「大学に問い合わせても、そんな人物はいないって言うのよ。」
拓哉の顔色が変わった。
向かいの席にいた綾乃も、その様子に気付く。
「どうしたんですか?」
綾乃が尋ねる。
拓哉はゆっくりと携帯電話を下ろした。
「……綾乃。」
「行くぞ。」
「え?」
「○×大学だ。」
拓哉は険しい表情のまま立ち上がった。
綾乃も慌てて後を追う。
昨夜、確かに存在したはずの建物。
確かに会ったはずの男。
そして暴走していた機械。
その全てが消えたというのだ。
拓哉と綾乃は、不気味な胸騒ぎを抱えながら再び大学へと向かった。




