鬼火 第37話
静まり返った電気室に、拓哉の携帯電話の着信音が響いた。
拓哉は画面を確認すると、すぐに通話ボタンを押した。
「もしもし……」
電話の相手は茉里だった。
『間に合ったかしら?』
どこか勝ち誇ったような声だった。
拓哉は思わず苦笑する。
「ああ。助かったよ」
『そう。だったら良かった』
茉里は少し安堵したように言った。
『でも、大変だったのよ?』
『大学全体の電源を強制的に落とす許可を取るのは』
拓哉は苦笑しながら答える。
「悪かったな」
『本当に悪いと思ってる?』
「思ってるさ」
『じゃあ、これは貸しね』
茉里の言葉に、拓哉は肩をすくめた。
「ああ。覚えておくよ」
そう言いながら、拓哉は部屋の中央にある巨大な機械へ視線を向けた。
電源を失った機械は、まるで何事もなかったかのように沈黙している。
だが、その存在感だけは異様だった。
「それより、頼みがある」
『何?』
「この機械を調べてくれ」
拓哉の声は真剣だった。
『機械?』
「旧校舎の地下にある施設だ。どう考えても普通じゃない」
電話の向こうで茉里が黙り込む。
そして興味を持ったように言った。
『面白そうじゃない』
『わかったわ。明日、調査チームを連れて行く』
「頼む」
『でも、無茶ばかりするんじゃないわよ』
「善処する」
『それは信用できないわね』
茉里は小さく笑うと通話を切った。
携帯電話をしまった拓哉は、ゆっくりと辺りを見回した。
機械は止まった。
事件も終わったはずだった。
だが――
綾乃の脳裏には、消える直前の剛志の姿が焼き付いていた。
「剛志さんって……一体、何者だったのでしょうか……」
綾乃の呟きが、静まり返った電気室に響く。
拓哉は答えなかった。
ただ、誰もいなくなった機械の前をじっと見つめていた。




