鬼火 第36話
拓哉が放った銃弾は、剛志の胸を真っ直ぐに貫いた。
――だが。
血しぶきは上がらなかった。
銃弾はまるで何もない空間を通り抜けるかのように、剛志の身体をすり抜け、
その背後にあった電気盤へと命中した。
バチィッ!
激しい火花が散る。
電気盤は爆ぜるような音を立てて壊れた。
「なっ……!」
拓哉も綾乃も目を見開いた。
剛志は信じられないものを見るような顔で、自分の胸を見下ろしていた。
そして、どこか寂しそうな声で呟く。
「何をするんだよ……」
その姿が揺らいだ。
輪郭が霞み、煙のように薄れていく。
「剛志さん!」
綾乃が思わず叫ぶ。
しかし剛志は振り返らない。
最後に機械のある部屋の方へ視線を向けると――
すうっと空気に溶けるように消えてしまった。
その瞬間だった。
大学中の照明が一斉に消えた。
ゴォォォ……という低い駆動音も止まる。
長い間暴走を続けていた旧校舎の機械は、ついに完全に停止したのだった。
辺りは不気味なほどの静寂に包まれる。
綾乃は電気室の隅からゆっくり立ち上がった。
まだ先ほどの出来事が信じられない。
そして入口に立つ拓哉を見つめた。
「な、なんでここにいるんですか?」
「貴方の持ち場は……?」
拓哉は拳銃をしまいながら肩をすくめた。
「お前と連絡が取れなくなったからな。」
「嫌な予感がしたんだよ。」
綾乃は思わず黙り込んだ。
その時――
静まり返った電気室に、突然電子音が響いた。
♪♪♪
拓哉の携帯電話だった。
拓哉は顔をしかめながら画面を見る。
表示されていた名前を見た瞬間、その表情がわずかに変わった。
「……宮前さん?」




