鬼火 第35話
綾乃は、突然豹変した剛志に恐怖を覚えた。
「ど、どいてください! そこを――」
そう言いながら、携帯していた拳銃を構える。
だが剛志は一歩も動かなかった。
電気室の配電盤の前に立ちふさがり、静かに首を振る。
「邪魔はさせない……」
その声は先ほどまでの穏やかなものではなかった。
まるで別人のように冷たかった。
綾乃は拳銃を構えたまま後ずさる。
「剛志さん……あなた、一体――」
その時だった。
電気室の照明が激しく明滅した。
バチッ――!
どこかで電気が弾ける音が響く。
同時に、綾乃の身体を見えない力が襲った。
「きゃっ!」
まるで突風に押されたかのように身体が浮き、綾乃は入口近くまで吹き飛ばされた。
床に叩きつけられ、尻餅をつく。
「な、何……今の……?」
綾乃は呆然と呟いた。
念力なのか。
それとも機械が発した何かなのか。
わからなかった。
だが剛志だけは、その場から微動だにしない。
「出て行け……!」
剛志の声が電気室に響く。
「今すぐここから出るんだ!」
綾乃が震える足で立ち上がろうとした、その瞬間――
電気室の扉が勢いよく開いた。
「綾乃!」
飛び込んできたのは拓哉だった。
綾乃が吹き飛ばされている光景を見た拓哉は、即座に拳銃を抜く。
そして剛志へ銃口を向けた。
「その場から動くな!」
剛志はゆっくりと振り返る。
しかし、その目にはまるで人間らしい感情がなかった。
拓哉の額に汗が浮かぶ。
次の瞬間――
乾いた銃声が電気室に響き渡った。




