鬼火 第34話
拓哉から届いたメールを見つめていた綾乃に、剛志が声をかけた。
「どうしたの? 彼氏からのメール?」
綾乃は驚いて顔を上げた。
「ち、違いますよ! 上司からです!」
慌ててそう答える。
剛志は小さく笑った。
「そうなんだ。」
そして、どこか安心したような表情を浮かべた。
「だったら、早くその上司のところへ行った方がいいよ。」
「えっ?」
綾乃は思わず首を傾げた。
剛志は相変わらず穏やかな口調だったが、その言葉にはどこか不自然な焦りが混じっていた。
「ここは危ないからね。」
「危ない?」
綾乃は部屋の中央にある奇妙な機械へ視線を向けた。
だが、今さらここを離れるわけにはいかない。
拓哉たちの作戦も始まろうとしているのだ。
「でも、私は――」
そう言いかけた時だった。
剛志の表情が変わった。
先ほどまでの穏やかな笑顔が消え、顔から感情が抜け落ちる。
まるで別人のようだった。
「……だから、行けと言っているんだ。」
低い声だった。
綾乃の背筋に冷たいものが走る。
「剛志さん……?」
剛志はじっと綾乃を見つめていた。
その瞳には焦りとも怒りともつかない、奇妙な感情が宿っている。
そして次の瞬間――
「早く出て行け!!」
怒鳴り声が電気室に響き渡った。
綾乃は思わず一歩後ずさった。
先ほどまでの穏やかな青年の面影は、そこにはなかった。




