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鬼火 第32話

 しばらく考え込んだ末、拓哉は決断した。


「……五分後に行動を開始しましょう。」


 携帯電話の向こうで、宮前が息をのむ気配がした。


「よろしいのですか?」


「もう一人の方とは連絡が取れていないのでしょう?」


 拓哉は苦々しい表情を浮かべる。


「ええ。」


「ですが、これ以上は待てません。」


 そして少し間を置いて続けた。


「綾乃には、できる限りこちらから連絡を入れておきます。」


 宮前は小さくうなずいた。


「わかりました。」


 通話が切れる。


 拓哉は携帯電話を握ったまま、大きくため息をついた。


 『何をやっているんだよ、綾乃……。』


 嫌な予感が胸の奥で膨らんでいく。


 拓哉はすぐに携帯電話を操作し、綾乃へメールを送信した。


 ---


 その頃――。


 旧校舎の電気室では、綾乃が剛志と向かい合っていた。


 不気味な静寂の中、機械の低いうなり声だけが響いている。


 その時だった。


 ピロン。


 綾乃の携帯電話に着信音が鳴った。


 画面には、


 『拓哉』


 の名前が表示されている。


「あっ……。」


 綾乃は少しほっとした表情を浮かべた。


「ちょっと、ごめんなさい。」


 そう言って剛志から離れ、部屋の隅へ移動する。


 携帯電話を開くと、そこには短いメッセージが表示されていた。


 『五分後に開始する。連絡が取れないので予定どおり進める。危険だと思ったら無理はするな。』


 綾乃はメールを読み終え、小さく息を吐いた。


 だが、その背後から――。


「……やっぱり、始めるつもりなんだね。」


 剛志の静かな声が聞こえた。


 綾乃は驚いて振り返る。


 剛志は離れた場所に立っていたはずだった。


 それなのに、まるでメールの内容を知っているかのような口ぶりだった。


「あなた……どうして、それを……?」


 剛志は答えない。


 ただ、どこか悲しそうな表情で機械を見つめていた。

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