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鬼火 第30話

 『えっ……誰?』


 綾乃は突然現れた青年に思わず息をのんだ。


 旧校舎には、自分以外誰もいないはずだった。


 それなのに、その青年はいつの間にか、まるで最初からそこにいたかのように立っていた。


 青年――剛志は穏やかな笑みを浮かべたまま、綾乃に話しかける。


「こんな所で何をしているの?」


「ここは危険だから、早く離れた方がいい。」


 その口調は落ち着いていて、不思議と人を安心させる響きがあった。


 だが綾乃は警戒を解かない。


「そ、その前に……。」


 綾乃は一歩距離を取りながら尋ねた。


「あなたこそ、ここで何をしているんですか?」


 剛志は少しだけ困ったように笑う。


「僕は、宮前さんの知り合いなんだ。」


「この建物の様子が気になって来てみたら、君がいた。」


 そして今度は剛志が静かに尋ねる。


「それより……君は誰なんだい?」


 綾乃はポケットから警察手帳を取り出した。


「警視庁です。」


「私たちは、この大学で起きている事件を捜査しています。」


 剛志は警察手帳を見ると、小さくうなずいた。


「……そうか。」


 その表情には驚きも焦りもない。


 まるで、その答えを最初から知っていたかのようだった。


 綾乃はそんな剛志の様子に、言いようのない違和感を覚えた。

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