鬼火 第3話
警視庁を出た拓哉と綾乃は、事件現場へ向かっていた。
助手席で綾乃は事件ファイルを開き、何度も現場写真を見返している。
「やっぱり、この事件……何かおかしいです。」
拓哉はハンドルを握ったまま視線を前へ向ける。
「どこがだ?」
「被害者は全身を焼かれているのに、周囲には燃え移った形跡がほとんどありません。
それに、出火原因も見つかっていないなんて……。」
綾乃はページをめくった。
「普通なら放火や漏電を疑いますよね?」
拓哉は静かに頷く。
「ああ。」
そして、小さく付け加えた。
「だからこそ、Mファイルに回ってきた。」
車は郊外にある工業地帯へ入っていく。
やがて一つの工場の前で止まった。
黄色い規制線が張られ、パトカーや消防車、鑑識車両が何台も並んでいる。
現場には警察だけでなく、消防や関係機関の職員たちが慌ただしく出入りしていた。
工場の外壁には煤一つ付いていない。
煙の臭いもほとんど残っていない。
それなのに、この場所で一人の人間が焼死したという。
綾乃は思わず呟いた。
「……本当に、ここなんですか?」
拓哉も工場全体を見渡した。
「妙だな。」
焼け跡らしい焼け跡が、どこにも見当たらない。
その時だった。
工場の中から、一人の中年男性が足早に出てきた。
作業着姿の男は、苛立ちを隠そうともせず二人を睨みつける。
「また警察ですか!」
男は深いため息をついた。
「何度説明すれば気が済むんです!」
綾乃は警察手帳を見せながら一歩前へ出る。
「警視庁Mファイルです。」
「少し、お話を聞かせていただけますか?」
男はしばらく二人を見つめていたが、諦めたように肩を落とした。
「……私はこの工場の工場長、福夫です。」
「どうぞ。」
そう言って、重々しい表情のまま工場の中へ二人を案内し始めた。
拓哉は入口をくぐる瞬間、不意に足を止める。
床に視線を落とした。
そこには、まるで炎が一点だけを舐めるように残した、青黒い円形の焦げ跡があった。
「……これは。」
拓哉の低い声に、綾乃も足を止める。
二人はまだ知らなかった。
その奇妙な焦げ跡こそ、この"鬼火事件"の真相へと続く最初の手がかりであることを。




