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鬼火 第2話

「もう……相変わらずせっかちな人ね。」


 美紀は苦笑しながら、小脇に抱えていた分厚い事件ファイルを机の上へ置いた。


「これが今回、あなたたちに担当してもらう事件。」


 拓哉は無言でファイルを受け取り、ページをめくる。


 現場写真。


 検視報告書。


 鑑識資料。


 その一枚一枚に素早く目を通していく。


「……火災事件?」


 拓哉が低く呟く。


 美紀は静かに首を横へ振った。


「最初は、みんなそう思ったわ。」


「でも違うの。」


 部屋の空気が少しだけ重くなる。


「被害者は全員、突然炎に包まれて死亡している。」


「しかも現場には火元がない。」


 綾乃は思わず聞き返した。


「火元が……ない?」


「ええ。」


 美紀は事件写真を一枚取り出し、二人の前へ滑らせた。


 写真には、路地裏で黒く焼け焦げた一人の男性。


 しかし、その周囲には燃え広がった跡がほとんど見当たらない。


 ゴミ袋も。


 木箱も。


 壁も。


 すべて無傷だった。


「焼けたのは被害者だけ。」


 美紀は真剣な表情で続ける。


「消防も鑑識も原因は不明。」


「出火原因は現在も特定できていない。」


 綾乃は写真を見つめたまま息を呑んだ。


「そんなこと……あり得るんですか?」


 拓哉は写真から目を離さない。


 やがて静かにファイルを閉じた。


「……行こう。」


 その一言だけだった。


「火宮さん?」


 綾乃が声を掛ける間もなく、拓哉はコートを掴み、部屋を飛び出していく。


「あっ、ちょっと待ってください!」


 綾乃も慌てて事件ファイルを抱え、その後を追った。


 美紀は閉まりかけたドアを見つめ、小さく呟く。


「今度は"炎"……か。」


 その横顔には、これまで見せたことのない不安が浮かんでいた。

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