鬼火 第15話
拓哉と綾乃は宮前教授の許可を得て、大学構内を一通り見て回った。
研究棟や講義棟は、どこにでもあるような普通の大学と変わらない。
ただ、環境保全や生態系の研究施設が多いせいか、厳重に施錠された建物や
「関係者以外立入禁止」と書かれた区域がいくつもあった。
拓哉は周囲を見渡しながら、小さく息をつく。
「これといって怪しいものは見当たらないな。」
「……帰るか。」
そう言って歩き出そうとした、その時だった。
「あの建物……。」
綾乃が大学の外れを指差した。
拓哉も視線を向ける。
そこには、周囲の近代的な校舎とは不釣り合いな、古びた木造の建物がひっそりと建っていた。
外壁は色あせ、窓のいくつかは板で塞がれている。
まるで時間だけが、そこで止まっているようだった。
「何でしょう、あれ?」
綾乃は首をかしげる。
拓哉は一瞥しただけで肩をすくめた。
「古い研究施設じゃないか。」
「大学じゃ珍しくもない。」
「行くぞ。」
そう言って先に歩き出す。
しかし綾乃は、その場から動けなかった。
建物そのものではない。
もっと別の何か。
言葉にはできない違和感が、胸の奥に引っかかっていた。
風が吹いているのに、あの建物の周囲だけが、不自然なほど静まり返っている。
鳥の鳴き声さえ聞こえない。
「……。」
綾乃はもう一度だけ古い建物を見つめた。
その時だった。
二階の窓に、誰かの影が動いたような気がした。
「えっ……?」
思わず目を凝らす。
だが次の瞬間には、窓の向こうには誰の姿もなかった。
「綾乃!」
少し離れた場所から拓哉の声が飛ぶ。
「何やってる!置いていくぞ!」
「は、はい!」
綾乃は慌てて返事をすると、小走りで拓哉の後を追った。
それでも、胸に残った違和感だけは消えなかった。




