鬼火 第14話
宮前教授は工場のある方角へ視線を向けたまま、小さく息をついた。
「……正直に言えば。」
「私は、あの工場がなくなればいいと何度も思いました。」
その口調には怒りというより、長年積み重なった諦めが滲んでいた。
「自然を壊し、多くの命を奪ってきた場所ですから。」
綾乃は複雑な表情で教授を見つめる。
しかし拓哉は、その一言を聞き逃さなかった。
『工場を憎んでいる……。』
それだけで犯人と決めつけるつもりはない。
だが、調べる価値はある。
拓哉は穏やかな口調で言った。
「そうですか。」
「もし差し支えなければ、大学の中を少し見せていただけませんか?」
その瞬間、宮前教授の表情がわずかに強張る。
「大学を……ですか?」
「ええ。」
「事件との関係があるとは思っていません。ただ、周辺施設も確認しておきたいんです。」
宮前教授はしばらく考え込んだあと、小さく頷いた。
「構いません。」
「ただし、この大学には機密性の高い研究室や、立ち入りを制限している区域があります。」
「そこだけは入らないでください。」
拓哉は教授の目をじっと見つめた。
「もちろんです。」
教授は軽く会釈すると、
「では、ご案内します。」
そう言って研究棟の方へ歩き始めた。
その背中を見送りながら、拓哉は小さく呟く。
「何かを隠しているな……。」
綾乃も小声で答えた。
「事件のことですか?」
拓哉はゆっくり首を横に振る。
「まだ分からない。」
「だが、あの人が隠しているものと、この事件が無関係とは思えない。」
二人は宮前教授の後を追って、静かな大学の構内へ足を踏み入れた。




