鬼火 第13話
「……何でしょうか?」
白衣姿の宮前教授は突然、警察手帳を見せられたことに少し警戒した表情を浮かべた。
しかし、拓哉が警察官だと分かると、小さく頷いた。
「私でお役に立てることでしたら。」
拓哉は単刀直入に切り出す。
「近くの○×工場で相次いでいる不審火について、お話を伺いたいんです。」
その瞬間だった。
宮前教授の表情がわずかに曇る。
「ああ……あの工場ですか。」
しばらく工場の方角を見つめたあと、小さくため息をついた。
「不審火も困ったものですが……。」
「私に言わせれば、あの工場が建ったこと自体が、この土地にとっては大きな不幸でした。」
綾乃は思わず顔を見合わせる。
「どういうことですか?」
宮前教授は静かに語り始めた。
「昔、この一帯には湿地が広がっていました。」
「春になるとトンボが群れをなし、夏には蛙の鳴き声が夜通し聞こえていたものです。」
「珍しい昆虫や水生植物も数多く生息していました。」
教授は少し寂しそうに笑う。
「学生たちを連れて、よく調査に来ていたんですよ。」
しかし、その表情はすぐに険しく変わる。
「ところが工場が建設されてからです。」
「湿地は埋め立てられ、水路は姿を消し、生き物たちは次々といなくなりました。」
「自然は、一度壊されると簡単には元へ戻りません。」
その言葉には、研究者としての静かな怒りと無力感が滲んでいた。
拓哉は教授の様子をじっと見つめる。
「……その工場で、火災が続いていることについては?」
宮前教授はゆっくり首を横に振った。
「直接の原因は分かりません。」
「ですが――。」
教授は意味深に言葉を切り、工場の方角へ視線を向けた。
「昔から、この土地には『火を嫌う場所』という言い伝えがあるんです。」
綾乃は思わず息をのんだ。




