鬼火 第10話
「……どういうことだ?」
拓哉は腕を組み、茉里へ視線を向けた。
茉里は机に資料を広げながら、静かに説明を始める。
「さっきも言ったけど、私は現場の一部に局所的な高周波エネルギーが発生した可能性を考えているの。」
綾乃は頷いた。
「私が言った"電子レンジ状態"というのは、そのイメージです。」
茉里も続ける。
「もちろん、本当に電子レンジになったという意味じゃないわ。」
「極めて強いエネルギーが一点に集中し、物質を急激に加熱した――そんな現象よ。」
拓哉は眉をひそめた。
「だが、それなら説明がつかない。」
「何がだ?」
茉里は鑑識写真を一枚取り出した。
「通常、高周波による加熱なら、材質によって温度の上がり方が違う。」
「でも今回の現場では、木材も金属も樹脂も、ほぼ同じような熱の影響を受けているの。」
綾乃は驚いた表情になる。
「そんなこと……。」
「普通は起こらないわ。」
茉里は真剣な表情で頷いた。
「だから私も、この仮説だけでは説明しきれない。」
部屋に沈黙が流れる。
拓哉は窓の外を眺めながら、小さく呟いた。
「つまり……。」
「科学では説明できる部分と、説明できない部分が混ざっているってことか。」
「ええ。」
茉里は静かに答えた。
「だからこそ、この事件は厄介なの。」
「科学だけでも、怪談だけでも説明できない。」
綾乃は事件ファイルへ目を落とした。
「じゃあ、私たちは何を追えばいいんですか?」
拓哉はしばらく考え込んだあと、ゆっくりと顔を上げる。
「原因じゃない。」
「共通点だ。」
「被害者、場所、時間……。」
「必ずどこかに、誰かが見落としている共通点がある。」
その一言で、三人の視線は再び事件資料へ集まった。
"鬼火"の正体は、まだ誰にも見えていなかった。




