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第24話 人間がいる大阪

常盤の公開演説の原文は、記念館奥の閲覧室に保管されていた。玲華は監査権限と黒鉄の行政キーを一緒に提出し、ようやく復元暦元年の映像へアクセスできた。


記念週間に繰り返される文には、元々続きがあった。


「人間もまた、復元されるべき生物種です。私たちは破壊の責任を理由に人間を廃棄しません。そして生物圏の主であるという誤解を理由に、他の種を再び廃棄することもしません」


玲華が教わったのは、最初の一文だけだった。だが続く文も、常盤の理想を損なうものには聞こえない。むしろ人間と他の生命を、同じ価値の中へ置こうとした言葉に思えた。


坂本は映像の編集履歴を調べた。


「記念用に短くするのは、おかしくない。問題は、どの部分だけを残し続けたかだ」


常盤はカメラの前で、英雄的な約束をしなかった。帰還日も語らない。避難者数、食料が続く期間、復元が失敗する可能性を淡々と説明した。最後には、計画を次世代が検討しなければならないと述べている。


「見て」


玲華がその部分で止めた。


「検討を前提にしてる。今の人たちが原則を歪めたのよ」


「そうかもしれない」


「まだ何があるの?」


「この原文の後にある設計会議は非公開だ。公開演説一つで、人間の全部を確定するなって話」


玲華は坂本の慎重さが気に入らなかった。彼が常盤を疑っているからではない。玲華が掴みたい根拠まで、同じ距離に置く態度が気に入らなかった。


映像の常盤は、最後の避難列車が出た後、空の昇降場へ一人残った。公式記録によれば、次の列車でセルへ入った。特権席も家族優先権も使っていない。私的利益を求めた人間の姿ではなかった。


玲華は、自分がなぜ彼へ憧れたのかを改めて理解した。常盤は汚れた決定を他人にさせ、自分だけ清潔な場所に立つ人物ではなかった。少なくとも公開記録では。


閲覧終了の直前、映像のメタ情報に原本保管場所が表示された。東京にあるのは公開版だけで、未編集の設計記録はセル大阪中央保管庫にあった。


坂本が位置を保存した。


「結局、また大阪か」


玲華は公開演説を閉じた。原本が存在するなら、確認すればいい。玲華にとって真実はまだ、より正確な記録へ戻れば解ける問題だった。


坂本は、最初の一文だけを残した編集が必ずしも嘘ではないと言った。大衆向け映像はいつでも短くなる。玲華も同意した。問題は、その短い文へ寄りかかり、何を見なかったかだった。


玲華は公開版と原文の違いを、記念館への訂正要求として残した。担当者は、文脈全体を展示へ入れると上映時間が延びると答えた。玲華は上映を延ばせとは言わず、誰でも原文を開けるリンクを一つ付けるよう求めた。小さな修正だが、どの文を見せるか選ぶ者の権限を減らすことになる。


閲覧室を出る前、常盤の最後の文を別に保存した。「計画は、生きている世代が改めて検討しなければなりません」。大阪の未編集版と、最初に照合する文だった。


中央追悼式の犠牲者表示は、一つの数字として準備されていた。


「停電被害による死亡および生存未確認、一・四パーセント」


玲華は行事開始の1時間前に、その文を見つけた。二・七から未登録者と行政転出者を除外した修正値だった。巨大な追悼壁に名前は一人もない。


「遺族の個人情報を保護するためです」


行事局の職員が説明した。


「数値によって共同の喪失を表現する趣旨です」


「共同の喪失なら、共同体が誰を失ったのか知るべきでしょ」


「未確定の名前を掲示して、生存者が戻れば混乱が起きます」


「戻ってきたら名前を下ろして、迎えればいい」


玲華は監査記録から復元した名簿を開いた。死亡確定者、生存未確認者、行政転出者、家族の届け出しかない者を、別々の色で分ける。一つの数字より長く、汚れた一覧だった。


委員会は即座に拒否した。断電派が名簿を扇動へ利用する可能性、未確認者の家族が政府へ集団抗議する可能性が理由だった。


黒鉄が会場へ着いた時、玲華は追悼壁の制御盤を塞いでいた。


「このまま始めるなら、画面を消す」


「行事を人質にするのか」


「名前を人質にした側が先よ」


周囲の警備隊が二人を交互に見た。黒鉄は追悼壁の電力線を切らなかった。代わりに名簿の分類を確認し、誤記の可能性を知らせる文を加えさせた。最終責任者欄には、自分の名を記した。


式が始まると数字は消え、名前がゆっくり上がり始めた。確定者は白、未確認者は黄、転出者は灰色。灰色の名が予想以上に多く、群衆にざわめきが広がった。


前田結衣の名前が表示された瞬間、玲華は隼人と結衣へ生存確認を送った。ほどなく華蓮の臨時端末から応答が来る。結衣の名が灰色から緑へ変わった。


群衆の片隅から、小さな拍手が始まった。死者を追悼する場所で、生きて戻った者の名も一緒に見えた。名簿は完全に整っていない。だが数字より正直だった。


常盤の記念映像は、予定どおり背後で流れた。「次の世代が選べる世界」。玲華はその文の前に、結衣の緑色の名を残した。


式が終わっても、人々は去らずに名簿を確かめた。共同の喪失には、百分率より長い時間が必要だった。


家族たちは名簿の下で、誤った綴りと年齢を直接直した。行政転出に分類された名前の横には、最後に見た場所が加わる。追悼壁は完成した記念碑ではなく、市民が更新し続ける捜査記録へ変わった。


玲華は修正された名前ごとに、根拠資料を添付した。追悼のために掲げた名簿が、再び恣意的な記憶として扱われないよう、生存応答と家族の届け出を区別して残した。


行事局の職員は撤去が遅れることを心配したが、黒鉄は追悼壁の電力を一晩中維持するよう命じた。今回は責任者欄へ名を書く前に、一度玲華を見た。


追悼式が終わった後、黒鉄は誰もいない中央軸の階段へ座った。精密義手の指で、片方の手袋をゆっくり外している。人前で彼が座る姿を、玲華はほとんど見たことがなかった。


「第9乗換層の名簿も、ああして掲げたかったのか?」


黒鉄が訊いた。


「今さら、訊くふりをするのね」


黒鉄は階段下の暗い会場を見ながら、九人の名を順に挙げた。島田剛、奥田真理、成瀬一郎。最後まで一度も詰まらない。


「覚えているという話は、もう聞いた」


「お前が知らないこともある。島田には封鎖線の外に娘がいた。奥田はその日、代替勤務だった。成瀬は扉を閉めろと最初に叫んだ」


玲華は黒鉄を振り返った。公式報告書のどこにもない情報だった。


「それを知ってて、封印したの?」


「知っていたから封印した。家族が隔壁前へ集まれば、もう一度開けろという要求が出ると判断した」


「だから、自分の記憶の中だけに閉じ込めた」


「あの時は、それが責任だと思った」


「今は?」


黒鉄はすぐに答えなかった。


「今日、名簿を公開したことで生還した名もあった。転出者がこれほど多い事実も明らかになった。予想より混乱は少なかった」


謝罪ではない。自分の判断が誤る可能性を認める、いかにも黒鉄らしい言葉だった。


玲華は三年前の事故を思い出した。玲華が隔壁の閉鎖を遅らせて二十六人を引き出し、最後に黒鉄が扉を閉じて隣接区画の一万人余りを救った。内側の九人は死んだ。どちらかの決定だけでも欠けていれば、結果はさらに悪かったかもしれない。だからといって、九人の名が消える必要はなかった。


「あなたが閉じなければ、もっと多く死んでた」


玲華が言った。


黒鉄の顔が固くなった。彼が聞きたかった承認だった。


「でも、それで名前を隠す権利まで得たわけじゃない」


長い沈黙の後、黒鉄はうなずいた。


「二つの文を同時に言えるとは、あの時わからなかった」


黒鉄は個人保管庫を開き、第9乗換層の非公開現場記録の場所を玲華へ送った。原本はまだ封印されており、黒鉄のキーだけでは開けない。


「大阪の原本照会が承認されたら、この記録も監査一式へ入れてくれ」


「自分で入れて」


玲華はファイルを送り返した。黒鉄が自分の手で選ぶべきことだった。彼は拒まず、責任者欄を開いた。


義手の指先が署名板の上で、ほんの一瞬止まった。第9乗換層で隔壁ボタンを押した手はまだ生身で、今の手は金属だった。決定の結果は身体へ残った。だがその事実も、死んだ九人の同意を代行できない。


玲華は、原本を公開する時には九人の家族へ先に通知するという条件をつけた。黒鉄はそれも消さず、自分の署名の下へ残した。


電子署名が刻まれる間、二人の間に和解も赦しもなかった。ただ、記憶を一人で所有していた扉が初めて開いた。


セル大阪からの返信は、記念週間最後の夜に届いた。正式な機関通信室には、玲華、黒鉄、坂本が一緒に入った。都市間交信は、記録保存のため自動録音される。


画面には人の顔ではなく、環境復元局の文章が表示された。少しして、落ち着いた女の声が聞こえた。


「セル大阪環境復元局、夜間連絡官です。東京の復旧完了を確認しました。応答が遅くなり、申し訳ありません」


語尾に短い息と、紙をめくるような音が混じっている。完璧な案内音声ではなく、夜間勤務中の人間の声だった。


玲華が訊いた。


「東京の転出規則と初期都市設計文書の原本閲覧を求めます。文書名は、長期群体安定化規則」


「該当文書は都市間制限等級です。東京の行政責任者と現場管理者、両方の権限を確認します」


黒鉄が自分のキーを提出した。坂本は通信遅延を計り、小さな画面へメモする。大阪側の応答は毎回0.8秒から1.1秒の間だった。遠距離通信網を通る機関接続としては自然な範囲だ。


「原本の持ち出しは難しいですか?」


玲華が訊いた。


「要約版は送信できます。物理原本はセル大阪中央保管庫でのみ閲覧可能です。都市間遮蔽協定により、訪問は現在認められていません」


「担当者が原本を直接確認してくれますか?」


「業務依頼として登録します。処理予定は十日です」


声は規則だけを読まなかった。停電被害者へ哀悼を伝え、東京内部の生態設備が安定したのは何よりだと付け加える。玲華は、コアで見た二・七パーセント報告と同じ連絡官であることを確かめた。


「あの報告値は、どのように算出しましたか?」


短い沈黙の後、返答が来た。


「都市間生態報告標準に従って集計しました。詳細な算式は、依頼された原本一式へ含めます」


坂本がメモ画面へ「答えを回避」と書いた。玲華はその文字を消した。


「手続きどおりの回答よ」


「両方が同じ意味になることも多いけどな」


交信が終わる前、連絡官が言った。


「常盤総設計者の未編集記録も、同じ保管庫にあります。東京からこの記録を請求されたのは、三十一年ぶりです」


「以前の請求者は誰ですか?」


「個人情報の保護期間が残っています」


正常な答えだった。通信が閉じると、人間の担当者の職名と次の交代時刻が画面へ残った。


通信記録には、連絡官が紙をめくった音も、息を整えた間隔も残っていた。坂本は音声の真偽を調べようとは言わなかった。交信相手が人間であることは、三人とも疑う理由のない前提だった。


玲華は連絡官の処理番号と、次の応答時刻を監査表へ記した。これで待つ時間にも、確認できる期限ができた。


玲華は大阪に人間がおり、原本もあると信じた。十日後には、腐敗した運用と常盤本来の原則を分ける根拠が届く。画面が消えるまで、その確信は揺らがなかった。


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