第11話 救助と銃声
三上一行が向かったのは、聖所とコア中継層を結ぶ補助回廊だった。
彼らが中継器をさらに切れば、断電派も聖所に残る電力を失う。道後はその事実を知っていた。
「西側避難扉を開けろ! 患者から移す!」
信徒へ叫んだ後、玲華を見た。
「彼らを止めてくれ」
聖所内の信徒の一部は三上を追おうとしたが、道後の命令で止まった。誰も賛歌や誓いを叫ばない。一人は弾倉を置いて酸素ボンベを持ち、別の一人は最後まで銃を握ったまま担架の後ろを守った。同じ信仰が同じ選択を保証しないことが、狭い通路で露わになった。
桐生が尋ねた。
「あなたは?」
「この人たちを外へ出す」
「逃走を許すことはできません」
「なら手錠を持ったまま、まず担架を持て」
桐生の顔が固くなった。玲華が言った。
「救助協力として記録して。道後は現場離脱禁止」
道後は反論せず、最も重い患者用寝台を押した。
玲華と黒鉄は補助回廊を走った。前方で銃声が響く。三上一行が警備センサーを破壊していた。彼らの一発が蒸気配管を破裂させた。
玲華は熱い蒸気の下へ身を屈めた。
「三上! 中継器を切れば、この区画の医療電源から死ぬ!」
「別の場所へ移せばいい!」
「どこへ?」
答えの代わりに弾丸が飛んだ。
黒鉄が玲華の前へイリジウムの腕を上げた。損傷した外装へ弾丸が食い込む。精密駆動は遅くなっていたが、盾としては十分だった。
「右に二人」
黒鉄が言った。
玲華が鎮圧弾を撃つ。一人目の大腿部装甲が割れ、二人目は中継器制御室へ隠れた。
三上は過電流装置を壁面端子へ接続していた。装置には信徒一人が取っ手を押し続けなければ作動しない手動安全機構がある。自爆装置ではなく、接続を維持するための構造だった。
「その線を挿せば自動防御が起動する」
黒鉄が警告した。
三上が叫んだ。
「あんたたちの防御網だろ!」
「身元網が死んでいる。誰も識別できない」
「脅すな」
三上が装置を押し込んだ。
回廊の天井で機械ロックが次々に外れる音がした。赤い照準線が三上と玲華の両方をなぞる。三上の顔から初めて確信が消えた。
「装置から手を離して!」
玲華が走る。
三上の隣の信徒が慌てて取っ手を放そうとした瞬間、過電流が逆流した。身体が痙攣し、装置へ貼りつく。三上が彼を引き離そうとし、電流が二人の間を流れた。
玲華はナイフの柄でケーブルを叩き落とした。火花が弾け、信徒二人が床へ倒れる。
自動防御砲が発砲を始めた。
黒鉄が第一弾を腕で防ぎ、制御室扉の脇へ身体を寄せる。
「中央センサーを切る。月城は負傷者を出せ」
玲華は感電した信徒の襟を掴んだ。三上が反対側の腕を持つ。つい先ほどまで互いへ銃を向けていた二人だが、一人を引き出す間だけは同じ方向へ力を掛けた。
回廊の背後から、担架の車輪音が近づいた。
聖所の患者は、まだ完全には避難できていなかった。
自動防御砲の弾丸が補助回廊を抜け、聖所まで飛び込んだ。
最初の銃声を聞いた華蓮は、患者用寝台を裏返して防壁にした。桐生の隊員が透明盾を持ち、担架の間を塞ぐ。武装信徒は反射的に銃を上げたが、道後が銃身を下へ押した。
「天井だけを撃て。人は撃つな」
玲華は感電した信徒を引きずり、聖所へ戻った。背後では黒鉄が防御砲のセンサーを一つずつ破壊している。射撃は正確だったが、三基の砲塔の一つが医療区画の上へ位置を変えた。
「坂本、西側医療扉のロックを外して」
「保安網から分離されています。現場端子が必要です」
玲華は担架の下を滑り、壁面端子まで進んだ。弾丸が床を削り、火花を散らす。携帯送信機を挿すと、坂本が回路へ接続した。
「この鍵を改造したのは誰だ? 公式コードの上へ、祈りの文字数を暗号として重ねてある」
「解除できる?」
「質問を変えてください。何秒もたせられるか、と」
左肩が震えるような呼吸音が回線へ混じった。玲華は端子から入る信号を維持しながら、患者を数えた。二十七人。歩ける者十三人。担架九台。酸素装置五台。
最初の担架には意識のない原駿がいた。保安隊員が反射的に身分帯を確認しようとすると、華蓮が手の甲を払い除けた。
「名前は治療記録にあります。今必要なのは、扉を持つ手です」
隊員は黙り、担架の反対側の柄を握った。すぐ後ろでは、つい先ほどまで小銃を向けていた断電派信徒が銃を置き、酸素ボンベの弁を閉めている。どちらも和解してはいないが、患者の重さは同じ速度で扉へ向かった。
「10秒」
坂本が言った。
三上が意識を取り戻し、床の銃へ手を伸ばした。玲華が足で蹴り飛ばす。
「また撃てば、あなたの仲間から当たる」
「あんたたちがここへ入って――」
「自動防御を起こした装置をつないだのは、あなたよ」
三上は歯を食いしばった。玲華は制圧できたが、手錠は掛けなかった。代わりに、感電した仲間の傷を押さえさせる。
「助けたいなら圧迫して」
三上はしばらく玲華を睨み、止血布を押し当てた。
西側扉でロック軸が動いた。
「開いた!」
坂本の叫びと共に、扉が半分まで上がった。桐生は隊員二人を外へ送り、避難路を確認させた。
「通路安全。患者を移動します」
華蓮が順番を決める。
「酸素装置から。歩ける人は壁に付いて」
断電派と保安隊が、担架の柄を一つずつ持った。誰が誰を逮捕するかは、扉の外へ出た後の話になった。
玲華が最後の接続を切った瞬間、天井で金属音がした。残った防御砲が医療扉へ銃口を下げる。
黒鉄の弾丸がセンサー外装を撃ったが、砲塔は止まらない。損傷したセンサーが最も強い電磁信号を探して回転した。
三上が中継器へ挿した過電流装置だった。
装置はまだ壁面で赤く脈動していた。
玲華が叫んだ。
「全員、伏せて!」
砲塔が装置へ発砲した。
弾丸が過電流装置の蓄電部を貫いた。
光が先に弾け、音は後から来た。青い閃光が聖所の影を消し、その後の爆圧が壁と寝台を押し飛ばす。玲華は近くの子供を抱き、床へ伏せた。背中へ金属片が降り注いだ。
耳が聞こえにくい中でも、銀眼の警告だけは鮮明だった。
酸素濃度、急低下。
爆発は外壁を貫かなかった。だが火災封鎖装置が区画全体を密閉した。天井ノズルが不活性ガスを噴き始める。火を消す代わりに、内部に残る人間の呼吸も奪う仕組みだった。
「医療扉が閉まります!」
桐生の声が水中のように聞こえた。
西側扉が下りていた。患者の半分は外へ出たが、残りは内側だ。坂本は再びロックを掴もうとしたが、爆発で現場端子が切れている。
玲華は子供を華蓮へ渡し、扉へ走った。シナプスグローブを扉の下へ差し込む。磁石が吸着し、腕全体が床へ引かれた。
「支柱を!」
桐生が折り畳み棒を入れた。扉は、人一人が這える高さで止まる。断電派信徒が担架を低くして押し出した。
三上は爆発地点へ座り込んでいた。その横には過電流装置の取っ手を押していた信徒が、血を流して倒れている。三上は背負おうとしたが、片腕が感電で動かなかった。
黒鉄が近づき、患者を持ち上げた。
三上が警戒する。
「なぜ……」
「質問に使う酸素はない。動け」
黒鉄は患者を扉へ運んだ。損傷したイリジウムの腕はうまく曲がらず、右腕と肩で重さを支えている。
天井スピーカーから自動案内が繰り返された。
《未承認エネルギー装置を検知。火災抑制手順を継続》
玲華が管理者停止命令を送ったが、応答は『現場生体認証不能』だった。システムは、この区画に何人残っているかを問わない。検知した装置の危険等級と酸素遮断時間だけを繰り返した。故障した防御手順と呼ぶには正確すぎ、救助手順と呼ぶには重要な項目が一つ欠けていた。
玲華は案内を聞きながら、過電流装置の残骸を見た。防御砲が断電派を自爆させたのではない。危険装置を射撃する規則が爆発を生んだ。だからといって装置を持ち込んだ責任が消えるわけでもない。
最後の担架が扉の下を通った。
華蓮が人数を数えた。
「二人足りない。道後と配給担当者」
玲華は聖所の奥を見た。不活性ガスが床から満ちていく。銀眼には二つの体温が台帳保管室の近くで動いていた。
黒鉄が言った。
「扉の支柱限界まで18秒。閉鎖後、外から切断する」
「その前に連れてきて」
「距離上、不可能だ」
玲華は扉の下へグローブをさらに深く入れた。腕の筋肉が震える。
「私が維持する。あなたは中へ」
黒鉄の目が玲華へ向いた。
「月城」
「決定を先延ばしにしてるんじゃない。役割を分けるの」
黒鉄はそれ以上言わず、振り返った。不活性ガスの中へ黒い背中が消える。
玲華は下り続ける扉を支えながら、数を数え始めた。今度は誰の名前も封鎖線の内側へ残さないためだった。
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