死神の小話・阿津田留衣
『アクエリアス・ブラッド』14
・死神の小話・阿津田留衣
留衣が目を覚ました。そこは暗い場所で、辺りには何も無く、先も見えない。だが地面はあるという不思議な場所だった。ボーッとする頭を抑えながら立ち上がると、自分にスポットライトが当たるように光が差し込んだ。そして目の前にもう一つスポットライトが当たった。そこには黒いフードを被り、大きな鎌を持った人物が立っていた。その人物は、いつか出会った死神だった。
「君は……確か死神……?」
「話が早くて助かるよ。そう。死神だ」
「って事は、私は死んだのか……」
「そういう事」
「ここは?」
「ここはこの世とあの世の狭間。君達で言う所の、三途の川って所かな」
「そうか……」
留衣は空を見詰めた。
「死神が来たって事は、私は魂を取られるのか?」
「そんな事しないよ。だってもう死んでるからね」
「じゃあ地獄に連れて逝かれるのか?私は散々、悪行を働いてきたからね」
「別に地獄にも逝かないよ」
「じゃあ天国か?まさかな」
「あの世は皆、同じ所に逝く。つまるところ、天国も地獄も同じって事さ」
「じゃあ何故、君は私の前に現れたんだ?」
「僕は仕事をしに来たんだ」
「仕事?」
「そう。仕事。ここでは君の願いを一つだけ叶える事が出来る」
「願いを、叶える……?」
「生き返らせてくれ、みたいなのは無理だけど、可能な範囲でなら何でも叶えてあげるよ」
「あんな事をしてきた私に、そんなご褒美をくれて良いのか?」
「ご褒美って程でもないよ。皆、平等ってだけ」
「そうか……今すぐに決めないと駄目か?」
「別に。ここでは時間は無限だ。でも、なるだけ早いと僕的には助かる」
「そうか。じゃあ少し考えさせてくれ」
「良いとも」
留衣は考え込み、死神は煙草を取り出し、吹かして返事を待った。すると留衣はある事を思い付いた。
「息子と孫は今どうしてる?」
「息子と孫?理央君と波佐真君の事かい?」
「あぁ、そういえば波佐真と言ったか……二人はどうしてる?今、何歳だ?」
「ちょっと待っててね」
死神は携帯灰皿を取り出して煙草を揉み消した。そして鎌を一振りし、光の球を出現させ、スワイプした。
「えーっと、理央君は今八十三歳、波佐真君は六十歳だね」
「そうか。悪魔は約束を守ってくれたんだな……」
「そうなるね。悪魔様は嘘は吐かないから」
「そういうものなのか」
「そういうものなのだよ」
沈黙が流れた。
「で?君の願いは?」
「え?今のが願いだったんだが」
「あんなの願いの内に入らないよ。君の本当の願いを良い給え」
「本当の、願い……」
留衣はまた考え込んだ。死神もまた煙草を取り出して吹かして待った。
「謝りたい……」
「え?」
「私が担当してきた患者達に、その家族に、謝りたい……」
「それが、君の本当の願いなんだね?」
留衣は頷いた。死神はそれを受けて鎌を一振りすると、光の階段と光の扉を出現させた。すると光の扉から何人もの人達が出てきた。それはかつて留衣が診た患者達とその家族達だった。
「阿津田先生」
「皆さん……その節は、本当に、申し訳ありませんでした……!」
「阿津田先生。貴方のやった事は到底、許されるものではありません」
「はい……」
「ですが、救われたのも事実です」
「えっ……?」
「寿命が縮まったのは確かに悲しい事でしたが、苦しみから逃れる事が出来たのも事実です。また、寿命が来ただけ。遅かれ早かれの問題だっただけの命であった事も事実です」
「…………」
「全てが阿津田先生のせいではありません。その上で、我々の言葉を聞いて下さい」
「……はい」
留衣は姿勢を正した。
「阿津田先生」
患者達とその家族達は姿勢を正し、頭を下げた。
「ありがとうございました」
「……はい」
「後は向こうでゆっくり余生を過ごして下さい。但し、もう私達とは関わらないで下さい。それだけが私達の願いです」
「……分かりました」
患者達とその家族達は死神に目線をやり、光の扉へと向かって行ってあの世に逝った。しかし、一人の男性が残った。
「阿津田先生」
「貴方は……平先生?」
自由の父親の偉大だった。
「私の娘は、貴方の息子さんと結ばれたようですね」
「そのようですね」
「ありがとうございます」
「えっ……?」
「自由を幸せにしてくれて、ありがとうございます」
「それは、こちらこそですよ。息子を幸せにして下さって、ありがとうございます」
二人は笑いあった。
「当事者がいないのに、可笑しいですね」
「そうですね」
「では先に逝きます。後の事はゆっくりあっちで話しましょう」
「はい」
そう言って偉大は光の階段を上り、光の扉を開けて中に入って消滅した。
「これで良かったのかい?」
「……あぁ。少し、救われた気がする」
「そうかい」
死神は鎌を一振りし、一度光の階段と光の扉を消した後、もう一度それらを出現させた。
「さぁ、君の願いは叶えた。あの世に逝ってもらうよ」
「分かった」
留衣は光の階段を上っていき、光の扉に手を掛けた。
「なぁ、向こうにも病気や怪我ってあるのか?」
「いいや。向こうは至って健康な人しかいない世界だよ」
「そうか。じゃあ商売替えしないとな」
「そうなるね。まぁ別に働かなくても良いんだけどね」
「どういう事だ?」
「それは逝ってからのお楽しみ」
「そうかい。じゃあ、世話になったな」
「あぁ。じゃあね」
留衣は光の扉を開け、中に入って消滅した。




