死神の小話・阿津田理央
『アクエリアス・ブラッド』15
・死神の小話・阿津田理央
留衣の死後、理央と自由は大学を卒業し、阿津田家を継いだ。しかし留衣までの体制とは異なり、普通の町医者として暮らしていた。水瓶座の悪魔との契約が解消された後、理央は九十五歳まで生き、自由と共に息を引き取った。理央と自由が目を覚ました時、そこは暗い場所で、辺りには何も無く、先も見えない。だが地面はあるという不思議な場所だった。ボーッとする頭を抑えながら立ち上がると、自分にスポットライトが当たるように光が差し込んだ。
「ここは……?」
「理央君……?」
「自由。ここは一体……?」
「私にも分からない……」
目の前にもう一つスポットライトが当たった。そこには黒いフードを被り、大きな鎌を持った人物が立っていた。
「やぁ。君達を迎えに来たよ」
「誰だ?」
「死神さ」
「死神?」
「そう。死神」
理央と自由は訳が分からないといった表情で死神を見詰めた。すると死神は言った。
「君達は死んだ」
「死んだ?でも、こうして生きてるけど?」
「ここでは魂だけの存在になっているから体がピンピンしていられるんだ」
「……何の冗談だ?死神なんている訳が無い。非科学的だ」
「待って、理央君。悪魔が実在したんだよ?死神がいても不思議じゃないよ」
「……それもそうか」
「話が早くて助かるよ」
「それで?俺達はあの世に連れていかれるのか?」
「そういう事」
「天国か?それとも地獄か?」
「いいや。天国でも地獄でもない」
「じゃあどこに?」
「それは逝ってからのお楽しみという事で」
「ふぅん……?」
「さて、ここからは僕の仕事をさせてもらおうかな?」
「仕事?」
「そう、仕事。ここでは君達の願いを一つだけ叶えてあげる事が出来る」
「願いを……?」
「叶える……?」
「生き返らせてくれ、なんてものは無理だけど、可能な範囲でなら何でも叶えてあげるよ」
「少し考えさせてくれ」
「良いよ」
理央と自由は話し合った。死神は煙草を取り出し、吹かして返事を待った。やがて理央と自由は死神に向き直った。
「娘と孫と曾孫の様子を知りたい」
「娘と孫?波佐真君と永依君と須恵君の事かい?」
「そう。あの子達が今、幸せか知りたいの」
「分かった」
死神は携帯灰皿を取り出して煙草を揉み消した。そして鎌を一振りし、光の球を出現させ、スワイプした。
「これかい?」
死神は理央と自由を手招きし、光の球の中を見せた。そこには医者を引退して夫と共に老後を過ごす波佐真と、医者を続けて近所の人達から野菜を受け取る永依夫婦と大学で医者の勉強をしている須恵の姿が映し出された。
「あぁ、あいつら、まだ医者をやってるのか」
「良いじゃない。幸せそうなんだから」
「それもそうか」
理央と自由は愛おしそうにその映像を眺めた。すると死神は言った。
「で?願いは何だい?」
「え?今のが願いなんだけど?」
「こんなの願いの内に入らないよ。それに、願いは一人一つまでだ」
「最初から言ってくれよ」
「悪いね」
「もう少し考えさせてくれ」
「良いとも」
理央と自由はまた考え出した。死神はまた煙草を取り出して吹かして待った。暫く経った後、理央と自由は死神に言った。
「俺の願いは、父さん、阿津田留衣に会わせてほしい」
「私の願いは、お父さん、平偉大に会わせてほしいです」
「分かった。ちょっと待ってて」
死神は鎌を一振りし、光の階段と光の扉を出現させた。そして光の扉から留衣と偉大が現れた。
「父さん……」
「お父さん……」
「理央」
「自由」
「理央、ちゃんとした医者になってくれて良かった」
「父さん。でも、父さんみたいな人助けは出来なかったよ」
「そんな事は無い。あの血の力は本来、人間が持ってはいけないものだったんだ。本来のあるべき医者の姿だった。それがお前だ」
「ありがとう。父さん」
「お父さん。約束、守ったよ」
「あぁ。見ていたよ。でも、本当に理央君の事を愛していたのか?」
「勿論。最初こそ復習のつもりだったけど、今じゃすっかり仲良しだよ」
「幸せだったか?」
「うん」
「そうか。なら良かった。理央君」
「はい」
「娘を幸せにしてくれてありがとう」
「いえ。私も自由さんに幸せにして頂きました。こちらこそありがとうございます」
「……良い子だな」
「そりゃあ、私が選んだ人だからね」
「ふふっ。それもそうか」
死神は四人の間に割って入っていった。
「さぁ、君達の願いは叶えた。あの世に逝ってもらうよ」
「あぁ、分かった」
「ありがとう、死神さん」
四人は光の階段を上っていった。留衣が扉に手を掛けた。
「じゃあ、逝くか」
「あぁ、父さん」
「お父さん、向こうは良い所?」
「あぁ。十分、幸せだよ。向こうで孫達が来るのをゆっくり待っていよう」
四人は扉の中に入り、消滅した。




