契約解除
『アクエリアス・ブラッド』13
・契約解除
自由の妊娠が報告された後、留衣は水瓶座の悪魔との契約を終わらせようと決めた。弧八生の文献を読み漁り、水瓶座の悪魔とどうやって契約を終わらせられるか調べた。しかしどこにもそれは載ってなかった。そこで留衣は渋井大学附属病院の院長、孝之に連絡を取った。そしてキャンとコンタクトを取り、会う事になった。当日、キャンの事務所に留衣は赴いた。
「この度は私の為にお時間を頂きありがとうございます」
「何。弧八生の子孫だ。いつでもどこでも駆け付けるさ」
「ありがとうございます。それでは本題に入らせて頂きます。キャン先生は蟹座の悪魔と契約をされたんですよね?」
「あぁ。そうだが?」
「契約解除の方法はご存じですか?」
「……知らないなぁ」
「……そうですか……」
「だが、悪魔の事は悪魔に聞いた方が良いだろう。その覚悟があるならばの話だが」
「悪魔に聞く……?」
「また悪魔を召喚して話をすれば良いだろう。契約をしなくとも。、話を聞くだけでも悪魔は真摯に聞いてくれるだろう」
「そうですか……分かりました。ありがとうございます」
「話はそれだけか?」
「はい」
「そうか。何か訳アリなんだな?」
「まぁ、そうですね……」
「分かった。武運を祈る」
そうして留衣はキャンの事務所を後にした。それから自分の家に戻り、理央と自由を呼び出した。二人が来る間に自分の血を一リットル抜き取り、小瓶に分け、部屋を暗くして水瓶座の形になるように小瓶を置き、魔法陣を書いた。理央と自由が到着すると、留衣は二人に腕を差し出すように言った。
「父さん?何だよ?」
「良いから出しなさい」
「説明してくれよ。何をしようとしているんだ?」
「良いから、子供は大人の言う事を黙って聞きなさい!」
理央と自由は顔を見合わせ、腕を差し出した。留衣は二人の血を注射器で少し抜き取って小瓶に入れ、水瓶座の中央に置いた。
「二人共、ここにいるんだ」
理央と自由は訳が分からないといった表情でその場にいた。留衣は詠唱し、やがて部屋が光で包まれ、魔法陣の中から大きな水瓶を持った美しい女性が出現した。
「ほ、本当に召喚出来た……!」
「父さん……!?これは一体……!?」
女性は言った。
「私を呼び出したのは貴方方ですか?」
「はい……いや、正確には私なんですが……」
「お義父さん、誰なんですか……?この方は……?」
「水瓶座の悪魔だよ」
「あら?貴方はもう契約をしていますね?正確には貴方の先祖ですが」
「その事で一つ相談がありまして」
「何ですか?」
「契約を、終わらせて下さい!」
水瓶座の悪魔は首を傾げた。
「何の為に?」
「私の事はどうなっても良い!だが息子と、孫だけでも寿命の半分しか生きられないという呪いを解いてほしいんです!」
「父さん!?」
「お義父さん!?」
「成程。良いでしょう。但し、その代わり、血の力は無くなりますよ?」
「構いません!」
「では契約解除に当たってもう二つ伝える事があります。息子さん以降の子孫はもう血の力を失い、普通の人間と同じ寿命で生きる事が出来ます。そしてもう一つ。阿津田留衣。貴方の寿命の半分を頂きます」
「……分かりました」
「父さん!水瓶座の悪魔さん、ちょっと待ってもらっても良いですか!?」
「構いませんよ」
理央は留衣を少し離れた場所に連れて行った。
「父さん!どういう事なんだよ!?」
「どういう事も何も、この血の力を失う事を代償に、お前達の寿命を延ばす契約をしてるんだ」
「だからって父さんの寿命を縮める事無いでしょう!?」
「私の寿命は後二年だ。それが一年になろうとどうなろうと、遅かれ早かれの問題なんだ」
「何で自分の寿命が分かるんだよ!?」
「死神が来たからな……」
「死神……?何を馬鹿な事を……」
「あの悪魔を見てもそう思うか?」
留衣の真剣な眼差しに理央はたじろいだ。
「……成程。分かった。信じるよ」
「……私も信じます。でも寿命を捧げるなんて……」
「私一人の命でこれからの家族が救われるんだ。もう、この呪いを終わりにしたいんだよ。私は」
「……父さん……」
「分かったらもう行くぞ」
理央と自由を押し退け、留衣は水瓶座の悪魔の下へと向かった。
「話し合いは終わりましたか?」
「はい」
「それで?どうしますか?」
「私の寿命の半分を捧げます。契約を解除して下さい」
「分かりました。では契約を解除します」
水瓶座の悪魔は手をかざし、光を放った。その光は留衣、理央、自由の腹に向かった。やがて光は消えた。
「契約解除完了です。では、末永くお幸せに」
そう言って水瓶座の悪魔は消えた。
「せめて孫の顔が見たかったが……阿津田家の宿命はここで終わりだ。良いだろう」
「父さん……」
「理央、来なさい」
留衣は理央を連れて菜園へと向かった。そして注射器で自分と理央の血を抜き取り、トマトやナスの苗に掛けた。しかしそれらは成長せず、そのままだった。
「本当に力を失ったんだな……」
「あぁ。もう闇医者は廃業だ」
それから阿津田という闇医者の話は無くなった。それから約一年後、留衣は病に伏した。意識不明の重体になり、生死を彷徨った。同時に自由は子を産んだ。留衣の孫だった。男ではなく、女の子だった。名は波佐真。何の因果か留衣の誕生日に退院した。理央と自由はすぐに波佐真を連れて留衣が入院している病院に向かった。
「父さん……」
「お義父さん……」
変わり果てた留衣の姿に、理央と自由は涙を流した。
「父さん。孫だよ。生まれたよ。名前は波佐真。分かる?」
留衣は反応をしなかった。ただ、生命維持装置が留衣を生かしているだけの状態だった。
「お義父さん。女の子ですよ。男の子じゃない。もう、呪いは解かれたんですよ」
すると留衣は目を覚ました。
「父さん……!?」
留衣は手を伸ばし、虚ろな目で波佐真の頭を撫でた。
「あぁ……可愛いな……孫の顔が見れて、良かった……」
そうして留衣は死んだ。簡易的な葬式を済ませ、阿津田家の墓に納骨した。それから三年間、理央と自由は波佐真を阿久亜に任せ、それぞれ医者と看護師になり、渋井大学附属病院に勤務する事になった。波佐真はスクスクと成長し、やがて成人した。その頃には理央と自由は理央の実家を引き継ぎ、独立した。町では評判の町医者になった。波佐真もまた医者となり、今では恋人も連れてきていて、家族で幸せに暮らしている。




