阿津田弧八生
『アクエリアス・ブラッド』12
・阿津田弧八生
水瓶座の悪魔と契約して半月。弧八生は嫁探しをしていた。しかし焦る気持ちからか、なかなか上手くいかず、嫁候補は見付からなかった。そこでふと医者の師匠である渋井重信の下へ訪れた。患者でも何でも良い。女を紹介してほしかったからだ。
「すみませーん!」
重信の家を訪れると、キャンが玄関に赴いた。
「はーい!あれ?弧八生じゃないか。どうしたんだ?」
「あ、キャン姐さん……師匠は?」
「今、出掛けていてね。夜には帰ると思うが?」
「そ、そうですか……」
肩を落とす弧八生を見て、キャンは「とりあえず茶でも飲むか?」と家に上げた。お茶を差し出されたが、弧八生は項垂れたまま飲もうとはしなかった。それを見てキャンは向かいに座った。
「何かあったのか?」
「あぁ、まぁ、ちょっと、ね……」
「医療で失敗でもしたか?」
「いや、そこは問題ありません……」
「じゃあ何だ?金が無くなったか?」
「いえ。お金の面も大丈夫です……」
「じゃあ何だ?」
「それは……」
弧八生は言い淀んだ。悪魔と契約して寿命が後、十五年しかない事は言えなかった。しかしそこで弧八生は閃いた。「そうだ。キャン姐さんを嫁に貰えば良いんだ」と。昔から知ってる仲だし、共に師匠の重信の下で修業して暮らしていた。互いの性格や好み、癖なんかも知っている。ならばこの女を嫁にすれば良いと思った。
「あの、キャン姐さん」
「何だ?」
「俺と、番になって下さい!」
「……はぁ?」
「俺の嫁になって下さい!」
「何だ、何だ?突然、藪から棒に。頭でも打ったか?」
「いや、私は真剣です!」
「私じゃなきゃ駄目なのか?」
「はい。キャン姐さんじゃないと駄目なんです!」
キャンは弧八生をジッと見詰めた。弧八生は思わず目を逸らしてしまった。それを見てキャンは茶を飲んだ。
「駄目だな」
「何でですか!?」
「私には昔、心に決めた男がいた。その人を裏切る事は出来ない」
「でも今は師匠の下で一人で働いてるじゃないですか!」
「今はな。だが、師匠にもお前にも恋愛感情は無い。他を当たれ」
「……分かりました」
弧八生は席を立ち、重信の家を後にした。そしてそれから一年後、また遊郭に出入りし、頭の良い遊女を選び、身請けして夫婦になった。すぐに子供を産ませ、その子に英才教育をし、次の世代へと語り継がせる為に水瓶座の悪魔と自分の生涯に関する文献を残し、この世を去ったのだった。




