死神
『アクエリアス・ブラッド』11
・死神
理央と自由が結婚の挨拶に来てから、留衣はホッとしていた。これで自分の役目は終わったと。ご先祖様に会わせる顔が出来たと。そう思い、朝、起きて食事をした後、診療所の準備をしていた。すると鍵を掛けた筈の診療所の扉が音を立てずに開いた。そこには黒いフードを被った一人の少年が立っていた。患者かと思い、留衣は丁寧に対応した。
「申し訳ありませんが、まだ診療開始時間前ですので、もう少し外でお待ち下さい」
少年は背中越しに扉を閉めた。
「阿津田家第十代目当主、阿津田留衣先生は貴方ですね?」
「あぁ、そうですけど?患者じゃないなら帰ってくれるかな?子供に払える金額の医療はしてないのでね」
「僕は死神だよ」
「死神?」
「何言ってんだ、コイツは?」と留衣はそう思った。死神なんている訳が無い。子供の悪戯なら相手している程、暇でもなければお人よしでもない。早々に摘まみ出そうと少年に近付いて首根っこを掴もうとした。
「大人をからかうものじゃない。帰りなさい」
「すると少年は突如、留衣の目の前に巨大な鎌を出現させた。
「な、何だ!?」
「言っただろう?僕は死神だと。君を殺しに来た」
「何だって……!?」
「困るんだよねぇ。ここ二百年余り、誰かしらの寿命が縮まってて、あの世で我々、死神が忙しい思いをしているんだよ。アカシックレコードの解析が追い付かないんだよ」
何を言っているのか分からない留衣はただ目の前の鎌に恐怖を覚えていた。
「何でもするから命だけは!」
「何でもする?何かをしたという自覚はあるんだね?」
「私は何もしていない!ただ、患者を治しただけだ!」
「患者を治した?じゃあ何故、人が死んでいるんだい?」
「それは、我が一族の血の力だと思う……」
「血の力?」
「これを見てくれ!」
留衣の鬼気迫る言葉に、死神は鎌を下ろした。留衣は自室に向かい、死神も後ろを着いていった。留衣は先祖の弧八生の文献を見せた。死神は、ふんふん、と読んでいった。隙を突いて留衣はスマートフォンで警察に通報しようとしたが、急に体が言う事を聞かなくなった。
「な……に……!?」
「無駄な事はしない事だ。死神の力はこんな事も出来るんだよ」
留衣はスマートフォンを落とし、死神は文献を読み終えた後、鎌を一振りし、光の球を出現させた。そしてボソボソと何か喋っていた。暫く話した後、再び鎌を一振りして光の球を消した。死神は身動きが取れない留衣に向かっていき、留衣に鎌を突き刺した。不思議と痛みを感じなかったが、血の代わりに何か光が飛び出した。
「な……何……だ……!?」
「君の寿命を見ている。成程、悪魔様と契約されたか」
死神は鎌を抜いた。すると傷口は無く、服も破れていない。光も消えた。死神は鎌を一振りすると、留衣は拘束を解かれ、その場に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……!」
「悪魔様と契約したのは君のご先祖様だったって訳か。成程ね。君に罪は無い。あの世で君のご先祖様に話を聞く事にするよ」
「あの世……?」
「死んだ者が皆、辿り着く場所。君もいずれ逝く場所だよ」
「あの世があるなんて……」
「悪魔様がいるんだ。僕のような死神やあの世があってもおかしくないだろう?」
「……成程」
留衣は立ち上がった。
「それで?私を殺すのか?」
「いいや。君は自然の死に任せる事にした」
「どういう事だ?」
「君の命は後、三年だ」
「……何だって?」
「君は後三年の命だ。余生を有効に使うと良い」
死神は鎌を一振りし、その場から消えた。
「おい!待ってくれ!私は後、三年しか生きられないのか!?」
部屋には静寂が訪れた。そこへ朝食の片付けを終えた阿久亜がやってきた。
「留衣君?どうしたの?大きな声出して。診療所に居たんじゃないの?」
阿久亜の声は留衣には届かなかった。留衣は絶望の気持ちで自分のタイムリミットの事しか考えられず、暫く寝込んでしまった。そして理央と自由は四年生になり、自由は理央との子を妊娠した。




