04_問題山積
「クロー、大丈夫っすか?
体調悪いならまだ寝てた方が良いんじゃないっすか?」
「お父様、大丈夫です?」
朝食の際にぐったりしていたボクを、リックとナルちゃんが気遣ってくれた。
昨日「魔王領」に到着し、一夜明けて朝食をいただいたところだ。
「あはは……、大丈夫だよ。
これは体調が悪くないから疲れているっていうか……、はは。」
うん、体調が悪くないからこそ、昨夜はあれほど激しかった訳だ。
流石に二人も、ボクの体調が悪ければ無理はさせない筈、だし?
……最近、ちょっとだけ心配になるけれど。
チラッ
フイッ
何気なくヴェロニカさんとセレナさんの方を見ると、目線を外されてしまった。
これは罪悪感というより、照れかな?
二人を彼女に持つと決めたのだから、多少の疲れは仕方ない。
「それより、リック達の方はどうなのさ?
仲は進展してるの?」
「へっ?
いや……、なんでその話題になったんすか?」
流石に話題の変え方が強引だったか、リックがツッコミを入れてきた。
ただ、こちらがだいぶ進展してるのに対して、リックとティアナさんの仲に進展があまり見られないのが、ちょっと気になっていたのだ。
「……まぁ、その……、なんつーか、あちらの家は貴族家じゃないっすか?
下手に手を出して後々問題になったら申し訳ないっつうか……。
せめて、あちらのご家族にご挨拶なりしてから、とか思ってて──」
「そんな事を思ってましたの?!」
「「──っ?!」」
リックの誠実さが滲み出た言葉に激高したのはティアナさんであった。
周りの皆は思わず黙ってティアナさんの方を向いてしまう。
「そんな事、気にする必要なんか無いですわ!
元より、わたくしは家を飛び出て来たつもりなのですから!」
「テ、ティアナさん?!
いや、いくらなんでも……。」
リックが宥めてもティアナさんの勢いは止まらなかった。
「そもそも、そんな事で目くじら立ててくるような家なら、こっちから捨ててやりますわよ!
そんな些末な事より、わたくしはもっとリックとイチャイチャしたいですわ!」
……なんか、リックが奥手で申し訳ない気持ちになってしまう。
別にボクはリックの保護者という訳でもないのだけれど。
「はいはい、そこのおバカップルさん、そろそろ準備ができますから、座って下さいねぇ。」
「「あ……、ハイ。」」
そこへ、イナリさんがお茶を持って現れ、人前でイチヤつく二人をやんわり諭した。
周りの目に我に返ったティアナさんは、ようやく状況に気付き、顔を伏せるのだった。
**********
「ハイ、では準備できましたので、ここ「魔王領」の現状について、ゆる〜くお話しできるばと思います。」
昨日の晩は疲れもあるだろうと、この会話を翌日に持ち越してもらっていたのだった。
今この場に居るのは、ナルちゃん、ステラちゃんを除いたこちらのメンバー全員と、アリアさん、イナリさんだ。
ホオズキさんには、別室でナルちゃん、ステラちゃんの相手をしてもらっている。
「はい。
ではまず、一番困っていることからお聞きしていきましょう。
せっかくここまてやって来たのです。
ボクらでお力になれる事があれば、お手伝いしますので。」
ボクが問い掛けるとイナリさんが現状を語ってくれた。
「まずは、やはり食料ですねぇ。
現状、「魔獣の森」で狩った動物や魔物がメインとなってます。
あとは、アリアさんに外で買ってもらった種を素に野菜を育てていたりとかですねぇ。」
「狩る……、って各自でですか?!」
ここの住民達全員が「魔獣の森」の魔物を狩れるとしたら驚きだったため、聞いてみた。
「住民さん達は、グループを作ってその中で役割分担してどうにか、ですねぇ。
私やホオズキちゃんは自力で狩れるので、あまり困ってないですけど。」
「え、ホオズキさん、も?
……ちょっとそんな風には見えなかったですが。」
「あはは。
ま、外見からは想像つきませんよねぇ。
でも、ホオズキちゃんは鬼人族ですからねぇ。
接近戦なら、ここいらの魔物には負けませんよ。」
鬼人族の特徴として、魔力が自分の身体の内側と外側でほぼ遮断されている、というのがあるらしい。
外から放たれた魔術は、物理化するもの以外はほぼ無効化してしまうらしい。
その代わり、魔術を放つという行為も種族的に困難なのだそうた。
その分、体内に溜まった魔力によって、常に身体全体が強化されている状態になっているのだとか。
これにより、鬼人族は見た目の筋肉量に反した怪力の持ち主であり、俊敏性にも優れているのだという。
つまりは、ヒト種の中ではフィジカル最強の種族という事か。
そりゃあ普通の魔物では相手にもならないだろう。
ついでにイナリさんの妖狐族についても聞いてみた。
簡単に言うと鬼人族とは真逆で、魔力・魔術特化の種族らしい。
狐の獣人すら珍しいのに、その中でも妖狐族は魔力がずば抜けて高いのだとか。
更に、余った高魔力は尻尾を増やして溜める事も出来るそうだ。
だからイナリさんには複数の尻尾があったのか。
現在のイナリさんの尻尾は四本。
言い伝えでは、過去に九本まで増えた者も居たそうだ。
「そんなお二人が、どうしてこの「魔王領」に来たんです?」
「ホオズキは諸国を歩いていた時に、ここの噂を聞いて来たって言ってたなぁ。
もう二十年くらい前の事だけど。」
「そうそう。
そして、アリアさんや住民がお世話し甲斐があるから住み着いた、って言ってましたねぇ。」
ボクの問いにアリアさんとイナリさんが答えてくれた。
……ああ、やっぱりホオズキさんはボクらよりも年上の人なんだ。
「……あ、そうなんだ。
確かに二人とも基本、世話好きだもんね。」
「そりゃあもう、アリアさんなんて世話を焼かれる為に生まれてきた様なヒトだし。」
「アッハイ、本当にいつもありがとうね。」
「はいな。」
アリアさんとイナリさん、本当に仲が良いなぁ。
多分、ホオズキさんと三人でこれまで支え合いながらやって来たんだろうね。
「……話を戻しますけど、住民達はやっぱり食料の問題があるんですね?」
「ああ、はい。
私らもおすそ分けとか偶にしますけど、それだけではね……。
あと、食器や調理器具、その他の日常で使う道具も不足してますねぇ。」
ふむ、まぁそれはそうか。
「魔王領」に向かうヒトなんて、普通は皆、一か八かの賭けでやって来るのだ。
そんな時に気の利いた食器やらを持って来る事はないのだろう。
「なるほど……。
あと、物以外で困る事とかは無いですか?」
とは言え、物が不足しているであろう事は何となく予想はしていた。
だから、今度はそれ以外の点について聞いてみる。
「あ〜……、多分みなさんここに来てから何となく気付いてるとは思うんですが……。」
「……?はい?」
「……この「魔王領」では現在、男女比が一対四くらいなんですよねぇ。」
「へ…………?」
イナリさんから語られる衝撃の事実に、思わずボクは言葉に詰まってしまった。
「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」」
その直後、一呼吸置いてから皆が大声で驚きを表現したのだった。
「ちょっ、アリアさん?!
聞いてないんですけど!!」
「そんな所にクロー様とリックを呼び込んだんですの?!」
特に強く反応したのは、セレナさんとティアナさんであった。
この中では明確に彼氏持ちの為、危機感を抱いたものだろう。
「お、落ち着いて!!
大丈夫大丈夫、昨日、ここに着いてから私が付きっきりで歩いてたでしょ?
あれで、私の客だと見せつけたから、変に手出ししてこない筈よ。」
「……本当ですか?
アリアさんは、クロー君を狙っていた前科があるので、まだ安心出来ないんですけど。」
黙っていた言い訳をするアリアさんを、セレナさんが尚も詰める。
「それはごめんって。
でも、今はエマオちゃんに夢中だし、何かあったら私も注意喚起するから。」
アリアさんの返答で一旦落ち着いたのか、セレナさんは中腰になっていた腰を落とした。
代わりに今度はヴェロニカさんが疑問を口にした。
「……そもそも何故、男性が少ないんだ?」
「う〜ん……、ここで生まれる子は性別に偏りは無いんですよねぇ。
ただ、ここに辿り着けるヒトが、女性の方が多いんですよ。」
「何か原因があるのか?」
「ハッキリとしたものは無いんです。
通説として言われるのは、女性は「魔獣の森」を進む時に、兎に角徹底的に隠れて行動しようとする者が多いんです。
対して男性は、何処かのタイミングで魔物と戦おうとしちゃうみたいで、結果怪我を負ったりして力尽きちゃう者が多いらしくてですね。」
ここでフラウノさんも手を上げて発言してくる。
「じゃあ、今ここに居る男性達は女性に囲まれた状況ということですか。」
「大概はそうですねぇ。
でも、女性側も男性に頼ったりしない者達も居ますし、男女ともに高齢の者も居ますから、全ての男性が同じ状況という訳ではないと思いますけどねぇ。」
イナリさんも全ての住民の状況を把握している訳ではないのだろう。
かなりざっくりした回答をしてくれた。
「なるほど、「魔王領」の現状は何となく分かりました。
一時凌ぎは出来そうですが、やはり外部との繋がりが無いと根本的な解決は厳しそうですね。」
「やっぱりそうかな。」
「はい。
なのでアリアさん、各国にこの「魔王領」まで道を整備させてヒトが来れる様にしたいと考えているのですが、構いませんか?」
ボクはアリアさんに、考えの一端を語った。
「まぁ、それが一番なんだろうけどさ、動いてくれるのかな?
私ももう怒ってないから「魔王領」に来て良いよ、って言ってたんだけど、帝国からは何も動きは無かったんだよね。」
「……それって、まさか伝えていた先はマッツ元支部長ですか?」
「そうだね。
……ああ、マッツんは私と他の者との接触を避けようとしていたから──」
「──そうですね、その話も握り潰していたんでしょうね。
それに、仮に帝国にそれを伝えても、帝国だけがここに来るのでは軍事拠点化される結果が見えてます。
それはで、コラペ王国やリプロノ王国が脅威にさらされてしまう。」
「う〜ん……、じゃあ、どうするの?
私にはコラペやリプロノに伝手は無いんだけど。」
「それについては、ボクに考えと伝手があります。」
「えっ?!本当?」
「はい。少なくとも、帝国一国だけが支配する場所でなくする事は出来ると思いますよ。」
ここで、ボクの言葉に不穏な雰囲気を感じたヴェロニカさんが声を掛けてきた。
「おい、クロー。
お前、また無茶な事考えてないか?」
「ま、多少は無茶ですけどね。
けれど、ボクらが動いた結果、アリアさんと帝国は穏便に対話が出来る状況になりました。
結果的にこれに貢献してしまったボクは、逆に言うとコラペやリプロノに不利益な事をしてしまったと言えます。
なので、多少の埋め合わせはするべきかなぁと。」
「……む、それも、そう、か?」
「もちろん、何でもかんでも背負い込むつもりは無いですから安心してください。
ヒト一人に出来る事なんて高が知れてます。
高望みして、押し潰れる程の目標は立てませんから。」
これまでじっと聞いくれていたセレナさんが、最後に尋ねてきた。
「では、聞かせてもらえませんか?
クロー君の案を。」
「はい。まずは──」
ボクが語るこの先の方針に、皆は黙って聞き入ってくれたのだった。




