05_お留守番
皆との会話で方針を語った後、ボクは再び旅支度を始める事にした。
まずはボクが今持っている中で、すぐには使わない道具を『アイテムボックス』から取り出した。
取り出した場所はキッチン隣の配膳室の様な部屋である。
大きくもない部屋なので、中にはボクとホオズキさんのみ、他の皆は部屋の外から覗き込んでいる。
カシャカシャカシャンッ……
取り出したのは──
「あら、凄いね。
何も無い所からナイフとかがいっぱい出てきたのじゃ!」
ホオズキさんが言う通り、過去に山賊達を倒した際に没収した小物のナイフや小剣等が十数本、小さなテーブル上に転がった。
「ボクは今は使わない物なので、ここで使ってください。
多いようなら住民に配ってくれて構いません。
あ、あと、食料も余ってる分は置いて行きますね。」
ポンッ、ポンッ、ポンッ
ついでに食料も、こちらの余剰分を取り出した。
「凄い凄い!何でも出てくるんじゃないかの?」
「あ、いえ。
「魔獣の森」を長々と彷徨う可能性も考えたので、多めに食料を買い込んでいたんです。
でも、そこまで迷わなかったので。」
「ありがとう。
助かるわぁ。」
そう言ってホオズキさんは、机の上の物を片付け始めた。
もちろんボクも手伝いながら話を続ける。
「その代わりと言っては何ですが、ナルちゃんとステラちゃんの事、よろしくおねがいします。」
「はいはい、任せておくのじゃ。
あんな可愛い娘達なんて、お世話させて欲しいってこっちからお願いしたいくらいなんじゃから。」
現在は秋に差し掛かったところ。
今回の旅は、冬になるまでに戻って来たいので、急ぎ足になる。
そんな旅では、まだ魔術の使えないナルちゃんを連れて行くのは難しい。
なので、ナルちゃんにはお留守番をしながら魔術の練習をしておくようにお願いした。
もちろん、危険な「魔獣の森」の往復をなるべくさせたくない意図もある。
そして、表立っては言えないが、ある種の人質としての意味合いもある。
ナルちゃんが居るのだから、このまま戻って来なくなる事はないですよ、とアリアさんを安心させるためという理由だ。
また、ナルちゃんと一緒にステラちゃんも「魔王領」に残ってもらう。
これはナルちゃんとは理由が異なり、単純に行く先々で大騒ぎになる事を防ぐ意図がある。
もし仮に、コラペ王国等の町中で、何かの拍子にステラちゃんが竜である事がバレてしまったら、大混乱となってしまうだろう。
一々そんな騒ぎに巻き込まれては堪らない。
なので、ステラちゃんもホオズキさん達にお願いする事にしたのだ。
ちなみに、ナルちゃんとステラちゃんは結構仲良く話していたりする。
ナルちゃんは、あまり物怖じしない方らしくて、ステラちゃんと接するのにも気負う感じは無い。
一方のステラちゃんは、相変わらず言動は幼いものの、ヒトの脆さについてはちゃんと理解して行動している。
例えば、ボクを呼び止めたい時には、本当に軽く触れるようにしているし、服の上からでもヒトの体を掴もうとは絶対にしない。
したとしても服の裾など、布部分だけを掴むようにしているのが分かる。
そんな訳なので、二人を残しても大丈夫と判断した。
おまけにお世話をしてくれると言うホオズキさんは、ヒト種の中ではフィジカル最強と云われる鬼人族だ。
多少、ステラちゃんがヤンチャしても何とかしてくれそうな安心感はある。
……少なくとも、自分の手に負えなくなったら、自力で逃げるくらいはしてくれそうだ。
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とはいえ、そんな理屈をすんなり二人が受け入れてくれるかというと──
「お父様、私もご一緒したいです。
足手まといにならないようにしますから。」
「クロー、ステラは行っちゃダメなの?
皆が居なくなるのは寂しいの。」
ですよね〜……。
ホオズキさんと話した後、皆と談話室に戻ってナルちゃんとステラちゃんにお留守番をお願いした。
そうしたら案の定、不満の声が上がりましたとさ。
一応、理由も説明したのだけれど、二人は納得がいかない様子だ。
なので、お留守番だけでなく、もう一つお願いしたい事がある旨を話してみる。
「やって欲しいこと、ですか?」
「の?」
二人は目をパチクリさせて聞いてくれる体勢になった。
「そう。
この館の前に広めの建物があるでしょ?」
「はい。ありますね。」
「あそこには、ホオズキさんとイナリさんが連れて来た、身寄りの無い子達が住んでいるそうなんだ。」
アリアさんの住んでいるお屋敷はおそらく、本来は帝国軍でも最も地位の高い者達が寝泊まりする用に建てられたものと思われる。
その正面には、平屋建てで敷地の広い建物が建っている。
この中には敷居の無い広い部屋と、その他ちょっとした小部屋だけが存在する。
吹き抜けになっているこの造りは、軍で集会を開く際に使用する目的で建てられたものだろう。
この、壁や敷居の無いだだっ広い部屋という構造は、個人や仲間で使用するのに適していない。
おまけに「翼の魔王」様の館の目の前に立地しており、住民が使用するのは気後れしてしまう。
それゆえ、帝国軍が去った後も誰も住むことなく放置されていたのだった。
そこに、「魔王領」の中でホオズキさんやイナリさんが見付けた身寄りの無い子供達を住まわせて、偶に食事やその他のお世話もしているらしいのだ。
「分かりました!
その子達を追い出せば良いのですね?
場合によっては始末しても?」
「うん、違うよ?!
そんな事、絶対に止めてね?
追い出したいんじゃなくて、むしろ増やしたいんだよ。」
ナルちゃんがが物騒な事を言い出したので、それは全力で止めておく。
「増やしたいの?」
「そう。
冬までに「魔王領」の子供達を集めて欲しいんだ。
もちろん、親御さんから断られたら諦めて欲しいし、本人が嫌だと言うならそれも諦めて良いよ。
親御さんが居なかったり、生活が苦しそうな親子や、乳飲み子を抱えたお母さんとかも連れて来て欲しい。
ボクらが帰った後は、そのヒト達の生活は全てボクが保障するから。」
ステラちゃんの疑問に具体的な説明をするが、二人はまだ疑問が残っている様子だ。
「何故そうまでして子供達を集めるんですか?
理由を聞いても?」
「ああ。
ボクの案が上手くいけば、この「魔王領」に多くのヒトが集まってくる。
そうなると、今の住民はお店やなんかの仕事をする事になるだろう。
でも、今の住民だけでは足りなくなる程には仕事がありそうな気がしてるんだ。
そんな中で、ボクが何かやりたいとなっても、人手の確保が難しくなる。
だったら、将来使える人材をあらかじめ確保して、教育しておこうと思ってるんだよ。
今なら、安い衣食住で恩を感じてくれるんだからお得だしね。」
「「……。」」
ボクの返答を聞いて、ナルちゃんもステラちゃんも黙ってしまった。
ちょっと露骨な事を言い過ぎたかな?
「──分かりました。」
「ん?」
「つまり、ベグナルドとして活動するため、手足となる部下をお育てになるおつもりですね!」
「うん、違うね。
今後、ボクはベグナルドとして活動する気は一切無いからね?
そうじゃなくて、お店とかそういったカタギな商売することを想定した話ね。」
ナルちゃんは相変わらずベグナルドとしてボクを見ている様子なので、ちゃんと否定しておく。
「クロー、お前ここで商売を始めるつもりなのか?」
ここで、話を聞いていたヴェロニカさんからも質問が挙がった。
「へ?
いえ、ボクの狙い通りとなったとしても、帝国が変な動きをする可能性はあるじゃないですか?
だから、しばらくはここで監視しておこうかと思ってるんですよ。
となると、その間どうやって生活するか考えたら、商売とかしてみるのも良いかなって思ったので。」
「そうか。
まぁ、それも良いかもな。」
良かった、ヴェロニカさんも乗り気のようだ。
「じゃあ、戻って来た後、この冬はこちらでお世話になるつもりなんですね?」
「そうですね。
どうせなら、ここでの冬の生活がどんなものか体験しておいて、今後の改善も出来たらと思ってますよ。
あと、手足が少なくなったとは言え、「ハイ・エルフの里」は健在でしょうからね。
ヴェロニカさんをまだ探していることでしょう。
ここに居れば、すぐには見付からない筈ですから。」
そう、「魔王教」を切り離したものの、依然「ハイ・エルフの里」はヴェロニカさんを探し続けているだろう。
ここ「魔王領」なら、奴ら老害エルフの目も届かない筈なので、しばらくはこちらに居るのも良いと思っているのだ。
「それもそうですね。
では、そうしましょう。
いろいろ準備も必要になりますね。」
「はい。
……ただ、リックはもしかしたら、この後大変かもだけど。」
「…………は?」
ボクの何気ない一言に、名指しされたリックは呆けたような声を放つのだった。




