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03_到着

ステラちゃんを一行に加えたボクらは、魔王領までの後半の行程を五日で踏破した。


スピードが上がった要因は、何と言ってもステラちゃんだろう。

この辺りの魔物は、魔術に敏感なものが多いと聞いている。

となると魔力にも敏感だろう。

そんな中で、高魔力の塊の様なステラちゃんは、魔物達にとってさぞ危険な生物に映った筈だ。

そのせいか、後半は魔物にほとんど出くわす事は無かった。

それを理解したボクらは『重力制御』も使うことにして、進行スピードを早めたのであった。


一応、ステラちゃんに竜の姿になってもらい、それに乗って行くという案も出したのだけど──


「ムリです!

竜の背中に乗るとか畏れ多過ぎます!

ムリムリムリムリムリッ!!」

「ヒトの心とか無いのかお前は?!」


という、ティアナさんやヴェロニカさんの台詞に代表される様な猛反発を全員からされて、断念したのだった。


ともあれ、「魔獣の森」を進むこと約半月で、ボクらはようやく「魔王領」に辿り着く事が出来た。


「いらっしゃい。

ようこそ「魔王領」へ。」

最終日はアリアさんが付きっきりで案内をしてくれた。

そして、着くなり歓迎の言葉をくれたのだった。


「……思ったより広いですね。」

それが「魔王領」を目にしたボクの第一声であった。


言っても危険な魔物がひしめく「魔獣の森」に作られた場所である、前世オジサンが生前見ていたテレビ番組が行くような限界集落をボクはイメージしていた。

けれど、実際は岩場の細い道を抜けた先に、そこそこの広さの区域が存在していた。

ほぼ平らなこの場所は、広さだけならボクの故郷の旧ホーンテップ領都の町くらいはあるかも知れない。


「そりゃあそうだよ。

元々はジサンジ帝国がコラペ王国を経由して、カダー王国に二正面作戦を強いる為に用意した道の中間地点なんだもの。

それなりの数の兵士が一度に滞在出来るだけの広さは必要だったろうさ。」

アリアさんがボクの呟きに答えてくれた。


なるほど、この広さの場所に簡易でも建物を敷き詰めて、ぎゅうぎゅうにヒトを詰め込めば、一万くらいは収容できる、かな?

ただ、歩いて来た感じ、中の方は空地が目立つし、建物も粗末だったり、古そうだったりなのが大半だ。


「粗末なのは住人が後から造ったものだよ。

古くてしっかりした造りなのは、帝国軍が造った建物だね。

そして、特に立派なあの建物が、私の家さ!」

そう言うとアリアさんは、他の建物よりも頭一つ高いお屋敷をビシッと指差した。


「はぁ……、確かに他の建物に比べて立派ですねぇ。

……と言うか、明らかに手入れもされていて、とても何十年前に建てられたものとは思えない状態ですけど?!」

パッと見たときには気付かなかったけれど、近付いて見ると状態が良いことが分かった。


「ふふ〜ん、そうだろう?

あの家、今は同居人が二人居るんだけど、彼女らが手入れしてくれているからね。

いつ帰っても綺麗なんだ。」

「……二人で、ってのはちょっと大変じゃないっすか?

かなり大きいし。」

「そこはほら、毎日コツコツとやってるんじゃないかな?」

「それでも大変っすよ。

ちょっと同居人さんに興味が湧いたっす。」


リックとアリアさんは初対面からそこそこ話せていたくらいなので、今では気兼ねなく話せる様になっている。

結構な事だ。

アリアさんだって、気後れされるより普通に話してもらう方が嬉しいと思うんだよね。


「それは良かった。

でも、ちょっとだけ寄り道して行くよ。

ここの一番の売りである絶景を見せたいから。」

「絶景?」

「まぁ、着いてからのお楽しみさ。」


時間的に夕方までまだ時間がある。

少し遠回りするくらいは問題ないだろう。

ボクらはアリアさんに案内されるまま付いて行った。


**********


「うわぁ……。」

「はは、凄い眺めだろう?」


ボクが感嘆の言葉をこぼすと、アリアさんは笑顔で応えてくれた。


アリアさんに案内されたのは、「魔王領」の端。

そこは切り立った断崖絶壁になっており、草も満足に生えない岩の壁は、目も眩む程遠い崖下まで続いていた。

ただその分、眺めは良くて、眼下には森が緑の海の様に広がっている。


「……確かにこれは絶景ですね。」

「凄いな。」

「遠くまで見通せますね。」

ボクの呟きにヴェロニカさん、セレナさんが同調してくれた。


「あっ!大きめな魔物が居るニャ!」

スノウノさんが指差す方を見てみると、確かに森の合間をノソノソ歩く大きめの生き物が見えた。


……ふむ、これなら『銃魔術』を使えば一方的に倒せるかもね。

その後、崖を『重力制御』で降りて、『アイテムボックス』に収納して戻って来れば、食料は何とかなるかも知れない。

問題は『銃魔術』は秘匿したいので、何処か人目に付かない場所を探さなくちゃいけない事かな。

……ま、それが必要になったら考えようか。


「──じゃあ、そろそろ行こうか。」

絶景を思い思いに堪能していたボクらは、アリアさんに促されてお屋敷に向かうことにした。


**********


「あら、いらっしゃい。

話は聞いとるよ。

遠路はるばるようこそ。」

「夕食の用意はしてあります。

本日は泊まっていって下さいねぇ。」


お屋敷に入った所で出迎えてくれたのは、二人の女性であった。

しかし、流石アリアさんの同居人と言おうか、二人ともただのヒトではなさそうだ。


小柄でコロコロとした笑顔を向けてくれる赤毛の女性は、一見ナルちゃんくらいの女児に見える。

けれど、よく見るとその表情は幼さとは違う、落ち着きを窺わせる表情であった。

目を引くのは額にチョコンと生えた二つの角。

……どうやら噂に聞く鬼人族のようだ。


もう一人の女性は二十代くらいで、こちらも笑顔が印象的である。

その笑顔よりもっと印象的なのが、女性の背後でサワサワ揺れている複数の尻尾。

ピンと立った大きい毛に覆われた耳からしても、何かしらの獣人族らしい。


「彼女らが私の言った同居人さ。

角がある方が鬼人族のホオズキ。

尻尾が複数あるのが妖狐族のイナリだよ。」

「はい、お世話になります。

ボクは──」


「ああ、大丈夫よ。

クロー君でしょう?

他の娘達の事もアリさんから聞いとりますよ。」

アリアさんの紹介に応える形で、ボクがこちらの皆を紹介しようとしたのだけど、ホオズキさんが遮って話し掛けてきた。


「そうね。

聞いていたイメージそのままやったからねぇ。

え〜っと、ヴェロニカさん、セレナさん、リック君、ティアナさん、スノウノさん、フラウノさん。」

「あと、ナルちゃんとステラちゃんね。」

イナリさんとホオズキさんは、皆を指差しながら名前をピタリと当てていった。


「……はい、合ってます。

アリアさん、そんなにボクらのことを話してたんですか?」

「ええ、エマオ君の事とクロー君達の事は毎日聞かされとったから。」

「ウチらととしては、最近、アリアさんが毎日のように帰って来てくれるから、嬉しかったのよぉ。」

ボクが驚いていると、ホオズキさん、イナリさんが事情を説明してくれる。


「……アリアさん?」

「うん、あの……、エマオちゃんと会うまでは、フラッと出掛けて、数日帰らないとかザラだったのよね……。」

アリアさんは後ろめたい表情で、伏し目がちに答えた。


「ウチらもそれで心配するでもないんやけど、やっぱり少し寂しかったから。

ま、ホオズキちゃんが居たから良かったけど。」

「本当になぁ。」

少なくとも、ホオズキさんとイナリさん、そしてアリアさんの仲が良さそうなことは良く分かった。


「ほら!もう良いじゃない!

それより早く夕食にしようよ。

みんな疲れてるから、さっさと休ませてあげたいし。」

「はいはい。

じゃあ、こちら食堂にご案内しますねぇ。」

アリアさんが話題を変えようと急かすのに対して、イナリさんはおっとりと応じるのであった。


「魔王領」到着初日。

ボクらはアリアさんのお屋敷で、旅の疲れを癒す様にゆっくり休んだ。


ゆっくり……


いや、ごめんなさい、嘘吐きました。

ボクとヴェロニカさんセレナさんは、何故か翌朝も疲れた様子のままでしたとさ。

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