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21_とある冒険者の再会

初夏の「魔王領」に、やっと各国の輸送部隊が到着し始めた。

彼らは先行した代表者達への資材と、「魔王領」側から道のりの整備を行う部隊を置いて行った。

この鋪装部隊が「魔王領」から道を鋪装しつつ、各所に避難小屋を作ってゆく。

最終的にはその小屋の全てに兵士が常駐し、道行く者達の安全と、道そのものというインフラを見守ってゆくことになる。


輸送が何便か届くうち、初めは兵士しか居なかった人種の中に、民間人が混ざる様になっていった。

民間人の内訳は、国からの委託を受けた大手の商会と、その商会が雇った護衛用の冒険者達だ。

各国とも、危険が伴う「魔獣の森」内の輸送を、将来に渡り自国の兵士だけで賄うつもりはなかった。

むしろ、警備・巡回以外の業務については、将来的に民間に譲渡してゆくつもりであった。

輸送が行われるようになった初期のこの時期に民間人を含め始めたのは、その布石である。


では、これに参加する商会にとって、危険な地である「魔獣の森」に商会員を派遣するメリットなどあるのか?

彼らは商人である、利益にならない事にコストは掛けない。

ただし、商売とは常に堅実な取り引きだけをしていれば良いというものでもない。

時には未知の商機を嗅ぎ取り、未来に向けたギャンブル的な投資をする事も、大規模な商会には必要となる。

例えばそれは、未知の販路を切り開く事であったり、未だ見た事のない商品との出会いであったり……。

「魔王領」へ商会員を向かわせるのは、そんな未来への投資の一環であった。


おまけにこの時期であれば、輸送費の半分は軍が賄ってくれるし、護衛もそのまま軍に頼る事が出来る。

商会側からすれば、費用の半分以上を軍が負担してくれるギャンブルの様なものだ。

それでいて販路が確立されれば、自分達はその販路の先駆者と成れる。

これは十二分にベットする価値のあるギャンブルであったのだった。


ただ、「魔王様」に関連して軍が手助けする以上、それなりに国から信頼される商会しかこの輸送に参加する事は許されない。

これに参加していたのは、各国でも有力な商会であった。


帝国側は、ミロワール・インダストリー。

帝国中部と帝都周辺に、海から内陸まで広く販路を広げる、帝国最大の商会の一つである。

その販路にはシエルエスタ王国も含まれている程だ。

余談だが、この商会の経営体制・方針については、後世において「オーパーツ的」と称される程に先進的なものであったという。


リプロノ王国からは二つの商会が参加している。

そのうち、商会の規模ではもう一方にやや劣るものの、王家からの絶対の支持を受けているのがニーア商会だ。

あの、ナスバレイが会頭を務める商会である。

「魔王領」にやって来た商会員は、真っ先に王女リグレットからリックへの手紙を届けたのであった。

そしてリックから返事を受け取り、大事そうに抱え、復路を帰って行くのだった。


コラペ王国では、国内最大とは言えないながら、コラペ北部に販路を持ち、国からの公募に真っ先に、しかも用意周到に準備を揃えた状態で手を挙げたブルーム商会が参加していた。

彼らは独自に冒険者を雇い、輸送に参加させた。


彼らの雇ったBランク冒険者は、長らく「魔獣の森」と接する町で実績を積んでおり、「魔獣の森」の恐ろしさを誰よりも知る者達の一員である。

それゆえ、この「魔獣の森」の輸送にはうってつけの人材であった。

そうして「魔王領」に到着した一行は、ブルーム商会の商会員を筆頭に、魔王様の屋敷に顔を出していた。

応対したのは、もちろんクローである。

また、実家の商会員が来たのだから、当然のようにフラウノも同席していたし、リックとヴェロニカまでクローの後ろに控えていた。


**********


「ようこそ「魔王領」へ。

魔王様の代理人を務めております、クローと申します。

遠路はるばる、お疲れさまでした。

魔物がひしめく「魔獣の森」を抜けてこの地まで辿り着いたその勇気、称賛いたします。」


会合の場において、クローが口火を切ると、それにブルーム商会の商会員が応じた。


「労いいただきまして、ありがとうございます。

ブルーム商会のパセリーと申します。

いやぁ、大変な旅路でしたよ。

軍の方達や、後ろの彼らの助けが無ければ、どうなっていたか……。」


そう言うと、パセリーはチラリと後ろに控えた冒険者達を見やった。

ここ半月、苦楽を共にした仲間達に全幅の信頼を寄せた視線を向けたのだ。

しかし彼は、視線を向けられた者達の心に、密かにさざ波が立っている事には気付けないのであった。


「そうでしょうね。

彼らが誠実で実直な冒険者である事は、ボクも知っています。

彼らの活躍が想像出来るほどです。」


冒険者達の内心の混乱を他所に、クローは嬉々としてパセリーに語る。

その言葉に無視できない語句が混ざっていた事に対して、パセリーは驚いて聞き返した。


「え……?

代理人殿は彼らをご存知で?」


パセリーの質問を受け、クローは焦るでもなく、ゆっくりと彼ら後ろに控える冒険者達を見回して答えた。


「はい。

二年程前にお会いした事があります。

あの時は大変でしたね。

でも、またこうしてお会い出来てとても嬉しいですよ。

「チーム・エクレア」の皆さん。」


「「──っ!!」」


パセリーの後ろに並んでいた冒険者の顔が、驚愕で引き攣る。

並んでいたのは、クロワ、ロゼッタ、マフィン、そしてクローの知らぬ二人。

紛れもなく、クローがコラペ王国ブレッド領で会った冒険者であった。


(やっぱ、他人の空似とかじゃなくて、本当に本人なのかよ!!)

(あの時、皆で笑って言ってた嘘を、実現する奴があるか、馬鹿っ!!)

(まァ、あのクローなラ、こレぐらイするカ……。)

思わぬ再会に、クロワ、ロゼッタはそれぞれ心の中で叫び、マフィンは諦めの言葉を吐くのだった。


「こ、こちらこそですよ、クロ……魔王代理様。」


パーティーの交渉担当を務めるクロワは、何とか表面上だけは平静を保ったまま、応答を返すのだった。


「あはは、止めてくださいよクロワさん、他人行儀な。

……とは言え、交渉中ですからね。

確かに、公私の区別は付けるべきですね。

私事の会話は後回しにしましょう。」


そう言うとクローは、改めてパセリーに向き直り、魔王の代理人としての交渉を始めた。


**********


交渉を終えたクローは、クロワ達の元に歩み寄った。

パセリーの方は、そのままフラウノと会話をしている。


「──という訳で、改めてお久しぶりです、皆さん。」

「ああ、久しぶり。

……その、クロー……、魔王代理?」

「クロー、で良いですよ。

ボクが何かに变化したわけでもあるまいし。」


クローは二年前と変わらない、屈託ない笑顔を見せた。

それだけで三人から緊張が少し解ける。


「分かったよ、クロー君。」

「はい。

……ちなみに、後ろの彼女、気付きました?」


クローがそう言うと、黒のドレスとヴェールをまとってクローの半歩後ろに立っていたヴェロニカが、ヴェールをまくりあげて目元を覗かせる。

その目元と特徴的な耳について、真っ先にロゼッタが気付いた。


「あ、あんたまさかヴェ──」

「──ロニーさんです。」


しかし、ロゼッタがヴェロニカの名前を発しそうになった時、突然クローが鋭く言葉を重ねて打ち消した。


「えっ?」

「ここでの今の彼女の名前は、ロニーです。

二年前の頃の名前は、絶対に口にしないで下さい。

ここでも、ここを去った後でも、です。」


驚き、呆気にとられるロゼッタに、念を押す様に圧を掛けながらクローが語る。

ロゼッタは圧倒され、頷く事しか出来なかった。


「あ、ああ、分かったよ。」

「ご理解いただけて、何よりです。

ありがとうございます。」


ロゼッタが頷くと、満足した様にクローは圧を霧散させ、穏やかに微笑んだ。


「「……。」」


その様子にロゼッタは、二年前エクレアと語っていた「普段は物腰の柔らかいが怒ると非情で容赦の無い魔王」のイメージを重ねていたのだった。


「元気そうで何よりだ。

しかし、あの時とはメンバーが違うようだが?

特に、あの時居たエクレアはどうした?」


メンバーを改めて見回しながら、ヴェロニカが問い掛ける。

その問いに、クロワは少し照れくさそうに答えた。


「あ〜……、流石に、その……、子供が小さいから、留守番してもらってる。

本人は来たがってたんだがな。」


「「……。」」


その答えに今度はヴェロニカ達が言葉を失う番だった。

やがて、クローは確認するように尋ねる。


「……それは、クロワさんの?」

「まぁ……、そうだ。」


「へぇ!おめでとうございます!

では……、これ、遅い出産祝いということで、どうぞ。

現物で申し訳ないですけど。」


そう言って、クローは『アイテムボックス』からゴロッとした石を一つ取り出し、クロワに渡す。


「……これ、魔石か?」

「おいおい、拳大の魔石なんて、いくらするんだ?!」


石を確認したクロワとロゼッタは、興奮する。

そんな様子の二人に対して、クローは落ち着き払った態度で語った。


「外でなら、あの時皆さんにお譲りした分け前くらいの値は付くでしょうね。」


「「──っ?!」」


二年前、「アーク・ボア」討伐の賞金は金貨二十枚で、クローと「チーム・エクレア」はそれを半々に分けた。

その時と同等という事は、この魔石は金貨十枚程度という意味になる。


「ちょっ……?!

そんな高価な物っ!」

「良いですから取っておいて下さい。

ここに有っても、今は換金も食べる事も出来ない物なのんですから。

……まぁ、口止め料込みということで。」


あまりに高価な物のためクロワが驚くが、クローは意に介さない様子である。


「……わぁった。

ありがたくいただいておく。」

「はい。

……しかし、それで若手を入れた訳ですか。」


話題を変えたクローは、司祭のブリオと、剣士のバケットへ向き直りながら言った。

視線を向けられた二人は、思わず背筋を伸ばした。


「ああ、そうさ。

……だが、ブリオの方は一度だけ会った事がある筈だよ。」

「えっ?そんな出会いありましたっけ?」


ロゼッタの言葉に、クローはキョトンとした顔をする。

そんなクローにヴェロニカが口を挟んだ。


「……お前は色んな女と出会ってるからな。

一々覚えていない、という訳か?」

「ちょっ?!

流石に二年前に一回会っただけのヒトを忘れたくらいで、皮肉を言われるのは納得いかないのですが?」


クローとヴェロニカが痴話喧嘩をする最中、ブリオが意を決した様に口を開いた。


「あ、あのっ!!

私は、ブールさん、ロゼッタさんと一緒に助けていただいた、駆け出し冒険者だった三人の内の一人で、ブリオと申します!

あの時は助けていただいて、ありがとうございました!」

「あ〜……、はいはい。

あの時はかなり余裕が無かったので、皆の顔と名前まで意識が回ってませんでした。

でも、助けられて良かったと思いますよ。」


ニコッ


ブリオに向けて、クローは笑顔を見せた。

その愛想の良さに、ヴェロニカは更に苛立ちを覚えるのだった。


**********


結局、その後しばらく話し込んだ後、ブルーム商会の面々は帰って行った。

一行は数日ここに滞在してから帰路に着くらしい。


彼らが帰った後、落ち着いたクローとヴェロニカはそのまま話していた。


「……思わぬ再会だったな。」

「そうですね。

……久しぶりにに、ヴェロニカさんと初めて会った日の事を思い出しましたよ。」


クローのその言葉に、ヴェロニカは動揺した。

別にやましい事をしていた訳でもないのに、何故か気恥ずかしさが込み上げてくる。


「むっ……、そ、そうか。」

「初対面では、性別も性格も種族すら判然としなかったので、話し掛けるのに躊躇したんですよ。」


クローがヴェロニカを初めて目にした時、彼女は既に目元以外は隠している様な格好であった。

クローは何となく、前世オジサンの世界の創作物語に登場する忍者を連想したものだ。


「はっ?!

初耳だぞ、そうだったのか?

ワタシの方こそ、お前を得体の知れない奴と思っていたんだが……。」

「ふふっ。

お互い、そんな第一印象から、よく今の仲にまでなれたものですね。

……まぁ、ボクは素顔を見てコロッといった訳ですが。」


初対面の数日後、目を覚ましたクローの目の前に、彼の好みそのままの美女が現れたのだ。

その衝撃は完全に脳裏に焼き付いたのであった。


「……そうか。

ワタシにとってのクローは、得体が知れなくて、その上軽薄で、初めて会った頃のお前の印象はグッチャグチャだったな……。」


ヴェロニカは基本的に、簡単にヒトと積極的に関わろうとするタイプではない。

そんな彼女は、身近な者にほど不満や軽口を言ってしまうタイプであった。

それを分かっているクローは、ヴェロニカのそういう言葉も、親しいと思っている証だと微笑ましく受け入れていた。

……そして、それを分かっている者がもう一人、この場に現れた。


「あの〜……?」


「「──はっ?!」」

やや不満気なその声、その口調を誰が発しているのか、二人が分からない筈がない。

それがセレナの声であると瞬時に気付いた二人は、口元を引きつらせて、ギギギッと後ろを振り返った。


「私を除け者にして、イチャイチャと……。

随分、楽しそうですね?

……拗ねて良いですか?」


振り返った先には当然セレナが居り、やや恨めしそうな目で二人を見ていた。


「ち、ちがうっ!!

除け者になんかしていないぞ!」

「そうです!

ちょうど、セレナさんにも加わって欲しいな〜、と思っていた所で──」


二年の間に変わったものの多さに気付き、改めておののくヴェロニカとクローであったのだった。

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