01_迷い子
「お父様、凄い!
そんなにいろんな事をして来たなんて!」
「いや……、ナルちゃんの歩んで来た過程の方が凄いっちゃあ凄いよ。
二度とさせる気は無いけどね。」
話を終えた途端、目を輝かせてナルちゃんが顔を寄せて来たので、そっと頭を撫でながら落ち着かせる。
「クロー様が、その……。」
「ティアナ様、「異世界転生者」です。」
一方、ティアナさんは「異世界転生者」という単語が馴染みが無さ過ぎたのか、言葉が詰まってフラウノさんに耳打ちされている。
「そう!
その「異世界転生者」というのは驚きました。
……ですが、ローエンタール領でチーコさんと商品について話していたり、その他、クロー様の根幹がわたくし達とズレている理由がやっと分かりましたわ。」
チーコと話してたのは兎も角、ズレてるって所が気になる。
そんなにズレた言動してた覚えは無いのだけど?
「……というか、なんで前に話してくれた時は黙っていたニャ?」
「いや、だって……、荒唐無稽過ぎる話でしょう?
わざわざ言う必要も無いかな、と思ったんですよ。」
スノウノさんはストレートに疑問を口にしてくれるので、話が早くて助かる。
「まぁ確かに、カダー王国でのアレコレを見ていない状態で聞いていても、半信半疑だったかも知れませんね。」
フラウノさんのフォローもありがたい。
「でしょう?
それに、あの頃はまだティアナさん達とちゃんと話せてませんでしたから。
場合によっては、それを吹聴される懸念もあるかなと邪推したのもあります。
あぁ、今はそんな事しないと信じてますよ。」
「……そうですか。
信頼いただけて何より──」
ここで何故かティアナさんが言葉を止めた。
訝しんだボクは、ティアナさんに尋ねる。
「ん?どうかしました?」
「……何か、気配がした気がしたのですが。」
「ん?気配?
どれ……、ひぃっ!!」
ティアナさんの発言を聞いて、周囲の気配を探ったのだろうヴェロニカさんは、そこで悲鳴を上げた。
「えっ?!
ちょっ、どうしたんです、ヴェロニカさん?!」
「に、逃げよう!!
は、早くっ!」
「「──っ?!」」
ヴェロニカさんのこれまでに無い怯え方に、皆が驚く。
「翼の魔王」アリアさんとの初対面時や、帝都でトーコさんと会った時も、これ程には怯えていなかった。
それ程の非常事態と受け留めたボクは、皆に警戒を促す。
「全員警戒!
洞窟奥に向けて対陣構え!
あ、ヴェロニカさんは一番後ろで。
セレナさん、取り敢えず抱き締めてあげて下さい。」
「はい。
あ、一応ヴェロニカさんの指輪外しておきますね。」
セレナがヴェロニカさんを抱き締めながら指輪を抜き取る。
なるほど、ヴェロニカさんの動揺が伝わらないようにするためか。
ヴェロニカさんも自分が動揺している自覚があるのか、されるがままになってる。
さて、じゃあ初手『魔力感知』で様子見ますか……。
ゴオォォォ……
……おっと?!
あ、これは不味い。
魔力反応が桁違いだ。
仮に、ボクら個人の魔力の強さを焚火程度の熱量に例えた場合、奥から感じる魔力は煮えたぎったマグマとか、前世オジサンの世界にあった工業用の溶鉱炉とかの熱量に匹敵する。
これはヴェロニカさんが怯えるのも納得だ。
「無理です、逃げましょう!
置いてある物は放置して──」
ボクは皆に逃げるよう指示を出そうとした。
が──
「……の?」
──その時、奥から人語が聞こえた気がした。
「……皆、逃げる準備はそのままで。
……誰か居ますか?
ヒトの言葉は分かりますか?」
「おい!クロー、何やってるんだ!」
興味を惹かれて語り掛けるボクに、ヴェロニカさんが叫ぶ。
分かってる、魔物の中には異種族の発声を真似て獲物を釣ったり、混乱させるものも居る。
ヴェロニカさんはそれを警戒しているのだろう。
けれど此処は「魔獣の森」のド真ん中だ、ヒトの発声を真似ても釣るための獲物が来る事がそうそう無い筈だ。
それに、釣るにしてももっとハッキリ、大声を上げなければ獲物に聞こえないだろう。
その辺に違和感を感じる。
「……ヒト、なの?
コトバ、分かるの?」
「「──っ?!」」
明らかに人語での返答があった。
ボクら八人の誰の声でもない、別人のか細い声。
その事に皆も驚いた様子でいる。
ボクは少し歩み出て、先頭に立って再び呼び掛けた。
「……此処が貴方の縄張りなら、直ぐ出ていきます。
ボクらは戦うつもりはありません。」
「……コワく、ないの?
ナニも、しないの?」
ボクの呼び掛けに反応する様に、同じ声が返ってくる。
心なしか先程より声が大きくなっている。
ヒタ……ヒタ……
あちらも警戒はしているのだろう。
それでも暗闇からこちらにゆっくり歩いて来ている。
(おいっっ!!クローッ!!)
ヴェロニカさんが逃げろと小声で叫ぶのが聞こえる。
たた、ボクはもう好奇心が抑えられなかった。
「……はい。
戦わないし、何もしませんよ。」
ボクの返答を聞いて、それはまたこちらに歩み寄って来る。
音からしてもう姿が視認出来る程に近付いている。
ピトッ……ピトッ……
奥から姿を現したのは、角の生えた幼女であった。
ナルちゃんよりも一回り年下くらいの、可愛らしい女の子だ。
「……ホントに?
ステラ、ずっと一人で寂しかったの。」
ちょっとした気の迷いで、即座にボクらの命など吹き飛ばせる程の魔力の塊。
それがこれほど可愛い女の子に宿っているとは、にわかには信じられない。
けれど、『魔力感知』は確かに、目の前の子が膨大な魔力の保持者であると告げている。
「そうですか。
此処に住んでいるんですか?」
「ううん。
雨宿りしてただけなの。」
「ステラ、というのが名前ですか?」
「うん、私はステラなの。」
ボクは片膝を付き目線を合わせ、つとめてゆっくりと彼女とやり取りを続ける。
「初めまして、ステラちゃん。
ボクはクローです。」
「クロー、なの?」
「はい。
ステラちゃんは、何故此処に居るのです?
ご家族は?」
「あのね、ステラは迷子なの。
お母様を探してるけど見付からなくて、いっぱい探していたら、帰り道も分からなくなって、困ってたの。」
「そうですか。
お母様もヒトのお姿をしているのですか?」
「う〜んとぉ……、お母様はいつもは大きい姿なの。
食事とか、ヒトとお話しする時は、ヒトと同じ姿になるの。」
「ヒトと生活していたんですか?」
「うん!
ヒトはねぇ、お料理が上手で美味しいし、いろいろお世話してくれるから、好きなの。」
「ふぅん……。
そう言えば、ボクらもご飯を食べていたんです。
そのヒトの作るものほど美味しいかは分からないですけど、食べますか?」
(おぉいぃぃぃぃっ?!)
ヴェロニカさんの心の叫びを波動として感じる。
けれど、申し訳ないけど『魔力感知』を切ったボクには、彼女は幼い女の子にしか見えない。
それをこんな所で突き放すなんて出来ない。
「ホント?!食べたい!
さっきから美味しそうな匂いがしていて、気になってたの!」
「じゃあ、用意しますからこっちで座ってて下さい。
あ、リック、こっち来て。」
「えっ?!
は、はいっす。」
(クロー様ぁぁぁぁぁっ!!
リックを巻き込むのは止めて下さいましぃ〜!!)
今度はティアナさんの方から激しい感情の波動を感じた。
……いや、だって仕方ないじゃない?
料理を温め直したり、新しく焼いたりしてるとステラちゃんが退屈してしまうし。
女児にはリックを与えておけば、まず外れないし。
「じゃあ、ここでちょっと待ってて下さいね。
あ、スープは先にどうぞ。」
スープだけは明日も食べようと『アイテムボックス』に放り込んでいたのだった。
お陰でまだホカホカなので、すぐに振る舞える。
「……美味しいの!」
スープを一口飲んだステラちゃんは弾ける様な笑顔を見せた。
うん、こうして見ると本当に普通の女児と変わらない。
多分、逃げるだけなら何とかなるだろうし、少しこの子の事を構ってあげることにしようか。




