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00_プロローグ

「──それにしても、こうしてこの七人が一箇所に集まるのは久しぶりだね。」

席に着くなり、ボクはそう切り出した。


そのセリフに、席を囲むリックとティアナさんが反応してくれた。

「そうっすね。

別に皆とは個別には会ってるんすけどね。」

「皆、何かしら忙しくしてますからね。」


此処は泣く子も黙る「魔獣の森」のド真ん中。

そこに存在する町、通称「魔王領」。

此処の上町にある魔王様の館の食堂に、久々に仲間が揃っていた。

時刻は夕方、今日はこのまま皆で夕食を囲む事になっている。


「ま、この中で一番忙しくしているのはクローなんだがな。」

「そうですね。

でも、リックもなかなかですよ。

色々とボクからもお願いしちゃってるのに、他にも雑用を皆から引き受けてますからね。」

ヴェロニカさんの指摘通り、最近はボクも忙しくしている。

けれど忙しさならリックも負けてないと思うんだよね。


──ヴェロニカさんは、ボクの恋人の一人。

いかにもなエルフ美人で、性格・容姿ともボクの好みそのままである。

訳アリな事情がある彼女なのだけれど、そんなものはどうとでも対処してみせる、問題なし!


「そうですね。

最近では、町の者からイルダーナフと呼ばれている程ですから。」

「ゔ……。」

フラウノさんの言葉に、リックは眉をしかめた。


──リックは元々、ボク、ヴェロニカさん、セレナさんを襲った山賊の一員であった。

それを返り討ちにした際に、まだ入りたてで更生の余地ありと思ったボクが、ポーターとしてパーティに加入させたのだ。

ブラウンの髪と瞳、仲間の贔屓目もあるがイケメンの好青年に成長した。


先程のフラウノさんの発言に聞き慣れない単語であったため、ボクは尋ねる様に反芻する。

「イルダーナフ?」

「知りません?

有名な物語の登場人物の一人で、「なんでも出来る者」という意味の名前なのだそうです。」


なるほど、フラウノさんの説明でなんとなく分かった。

そりゃあ、物語の登場人物と同一視されるのは、なんか、こう……、イヤだよね。


「……ホント、名前負けも良いところっすよ。

オレなんて、多少雑用に慣れてるってだけなのに。」

「そうですか?

リック君は剣も魔術も使えますし、読み書きや事務作業も出来ます。

その上、雑用を頼まれたら嫌な顔もせず、何でも卒なくこなしちゃいます。

「なんでも出来る」は、その通りなのでは?」

リックが愚痴った所にセレナさんが追い打ちを掛ける。

まぁ、セレナさんからすると褒めているだけなのだろうけど。


──セレナさんも、ボクの恋人の一人。

元々は司祭をしていたのだけど、とある事情て教会を抜け出している。

今では、教会においてはタブーとされる魔術も駆使する、頼もしい治癒師になっている。

性格も普段は温和な、黒髪黒目の清楚系美人さんだ。


「家では家事もやってくれるニャ。

掃除は私もやるけど、料理はリックの方が上手ニャ。」

「……本当に、リックとスノウノにはお世話になってます。」

更にスノウノさんとティアナさんが話題を被せてきた。


──スノウノさんは外見からいかにもな猫獣人さんだ。

全身が淡い体毛で覆われている獣人度の高めなタイプだけれど、人族のボクの感性から見ても美人に見える。

語尾に「ニャ」を付けて話す、明るいタイプの女性だ。


──そんなスノウノさんの主がティアナ・エシャロットさん。

子爵家令嬢でありながら、元は騎士団長をしていた剣士である。

容姿は貴族的な、高貴な雰囲気を纏った美人だ。

スノウノさんとは幼い頃から一緒に育っており、今もティアナさん、スノウノさん、リックの三人で同じ屋根の下で暮らしている。


ティアナさんとリックは二年前から付き合っているのは知っているけど、一緒に暮らしているスノウノさんともそういう関係なのかは、いまいち分かっていない。


「あの……、いや、でもそのほとんどがクローから教わった事なんすよ。

オレがそう呼ばれるなら、クローも同じじゃないっすか。」

「いえ、クロー君は別の呼ばれ方をしていますから。

というか、皆リック君の事ばかり言ってますけど、此処に居る皆が二つ名で呼ばれてるの、気付いてます?」


「「えっ……?!」」

フラウノさんの言葉に、この場の皆が驚いた声を上げる。

もちろんボクも驚いた。


──フラウノさんは、ティアナさんが騎士団長をしていた頃の部下の一人だった女性だ。

商家の生まれらしく、剣士でありながら知識面でも活躍してくれる才女でもある。

今もとても助けてもらっている。


「……いや、聞いたことないですけど、それぞれ何と呼ばれてるのです?」

興味を惹かれたボクはフラウノさんに尋ねてみた。


「え〜、まず僭越ながら私、ティアナ様、スノウノちゃんは、三人で「三剣姫」と呼ばれています。」

「……姫と呼ばれる歳でもないと思うのですが。

姫と呼ぶなら、ナルちゃんの方が似合ってますわ。」

フラウノさんの説明に、ティアナさんは困ったような表情を見せた。

……女性の年齢の話には触れないでおく。


「あ、ナルちゃんも「姫」呼びされてますね。

そしてセレナさんは「聖女様」と呼ばれています。」

「まぁ……、今更どうとも言いませんが、自分がそう呼ばれる程の者という実感はありませんね。」

セレナさんは過去にコラペ王国の式典で聖女役を務めた事がある。

今、この町で行っている活動的にも、そう呼ばれるのには誰もが納得した。


「そして、ヴェロニカさん……、失礼しました、ロニーさんは「黒の魔女」と呼ばれています。」

「気にするな。

仲間しか居ないのだからヴェロニカで良いさ。

それにしても……、ワタシは怖がられているのか?

なんだか不穏な呼び名だな。」


ヴェロニカさんのことは、此処では「ロニー」と呼んでもらっている。

「ヴェロニカ」も「ヴェラ」も、どちらもヴェロニカさんの事であると、「ハイ・エルフの里」の関係者にバレてしまっているからだ。

おまけに、此処でもヴェロニカさんは普段から黒尽くめの格好をしているので、ミステリアスな魅力が留まるところを知らない。

「魔女」と呼ばれるのも、正直納得せざるを得ない。


「そしてクロー君ですが、「魔王領の宰相」だそうですよ。」

「……いや、ボクには権限とか一切無いんですけど、語弊がありませんか?」


最後に告げられたボクの二つ名は実態とかけ離れたものに思えた。

それを聞いて本当にボクが権力者だと思われたら、面倒臭いんだけど……。


「そうか?

確かに公的な立場というのは無いが、皆がクローに相談に来るし、流通面も実質クローの手の内だ。

おまけに人材も集めて教育する仕組みまで用意している。」

そんなボクの思いとは裏腹に、ヴェロニカさん的には納得できるものらしい。


とはいえ、一応は反論しておく。

「相談というのは、あちらが勝手に来てくれるだけなのですけどね。

ボクからは「相談に来い」なんて言っていませんし。

だいたい、彼らが顔色を伺いたいのはボクじゃなくてアリアさんの方ですから。

気になるなら直接聞きに行けば早いのに、何故かボクに一旦話が上がって来るんですよねぇ。」


「いえ、当然では?

今でこそ、私達もアリアさんと普通に接することが出来るようになりましたが、出会った頃は私も怖かったですから。

当時から平然と応対していたクロー君がおかしいんですよ。」


フラウノさんの言う事も分からなくはない。

あれでもアリアさんは魔王を冠して呼ばれるヒトだ。

よく知らないヒトからすれば、接するのに勇気が必要だろう。

……でも、それならわざわざそんな思いをしてまで話を上げて来なくても良いのに、とも思う。


「う〜ん……、それにしたって、アリアさんは好きにして良いと言ってるのに、こうも報告を上げてくるのは何なんですかね?」

「それだけ、まだ各国が「翼の魔王」様を警戒しているということですわね。

権限なんか無くともた、万が一にも怒らせてはいけない相手の顔色を伺うのは当然ですわ。」


個人の感情は兎も角、国を代表する立場としては魔王様を無視は出来ないという事か、なるほど。

「まぁ、それはそうですね……。」


バタバタバタッ……


ふと気付くと、複数の足音が軽やかにこちらに近付いて来ている。


「おっ!

賑やかなのがやって来たな。」

「ヴェロニカさん、言い方なんとかなりません?」

ヴェロニカさんの言葉に苦笑しながらセレナさんがツッコミを入れる。


「そうか?

賑やかな方が楽しいだろ。

悪い意味で言った訳じゃないんだが。」


ふふっ、この分だと宴会みたいなノリになっちゃいそうだ。

たった八人で「魔獣の森」に立ち入り、この町まで辿り着いたのが二年近く前のこと。

思えばその間、色々とあったのだった。

ボクはふと、この二年間にあった事を思い返した。

さて、始まりました「異世界貴族に転生しましたが、なんやかんやで国を追われました」の最終章。

プロローグの後は、毎度おなじみの時は巻き戻り「5」の終わりから再開いたします。

最期までお楽しみ頂けると幸いです。

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