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17_役者は揃った

「お父様ー、戻りました。」

「の!」


朝の定時確認を終えたナルちゃんとステラちゃんが、元気良く戻って来ました。

私ことフラウノは、アリアさんの屋敷で皆とこれからの予定について確認しているところでした。


「はい、おかえり。

あちらはどうだった?」


クロー君は二人に優しく応えます。

その雰囲気は、クロー君が彼女らの本当の父親であるかの様です。


「はい、おそらく今日にでもここに辿り着くかと。」

「なの!」

「了解。

報告ありがとう。

……じゃあ、また準備しませんとね。」


二人の報告を聞き、クロー君が確信したように呟きます。

どうやら、遅れていたコラペ・リプロノの代表者達が、ようやくこの「魔王領」に辿り着くみたいです。


「……またかぁ。

あの喋り方、肩が凝るんだよねぇ。」

アリアさんがげんなりした様子でボヤきました。

彼女の普段の様子を見ていると、魔王然とした様子で振る舞うのが疲れると言う愚痴に納得してしまいます。


「魔王様なんて、威厳を出してこそでしょう。

わざわざそれっぽい衣装までエマオさんから借りたんですから、せめて三国が正式に合意するまでは、魔王らしくして下さい。」


クロー君が言う通り、アリアさんがンドゥ様達と会った際の服は、エマオさんから借りて来たものなのだそうです。

「魔王教」の儀式において、魔王役の者が着る衣装なのだとか。

どおりで非常にそれっぽく見える筈です。

……それにしても、魔王役の衣装を本物の魔王様が着るなんて、よく考えると滑稽ですね。


「……ねぇ、本当にコレ必要かい?

どうせいつかは私の素もバレると思うんだけど……。」


面倒になったアリアさんは、遂にクロー君に泣き付きました。


「それはそうでしょうが、せめて三国との交渉が全て終わるまでは威厳を保って下さい。

こちらの条件を飲ませ易くなりますから。

だいだい、彼らだってそういう魔王様の姿の方が喜ぶ筈です。」

「う〜ん……、そうかなぁ?」


「そうですよ。

だって、想像してみて下さい。

彼らからすると、一ヶ月以上の時間を掛けて、命懸けで会いに来たヒトなのですよ?

そんなヒトが、フツ〜〜にラフ〜〜な服装をして「やぁ、こんにちは」と言ってくるのと、威厳ある服装・態度で「ようこそ参られた」と言ってくるのでは、どっちが嬉しいですか?」


そうやって具体的に比較されると考え易いですね。

私なら、前者の様に魔王様に迎え入れられたら、「ふざけるな」と言いたくなっちゃうかもです。

アリアさんも同じ様に思ったようです。


「あ〜〜……、そう言われると、前者だとガッカリさせちゃいそうね。

……しゃあない、もうちょっとだけ余所行きの振る舞いを続けるわよ。」

「はい、お願いしますね。」


満足気に頷くクロー君に、今度はセレナさんが語り掛けます。


「……アリアさんは分かるのですが、私とヴェロニカさんは本当に必要ですか?」

「いやいや、絶対に居た方が良いですよ。

その方が泊が出ますし、このヒトには手を出したらヤバい、と思わせられますから。」


「でも……、ヴェロニカさんは美人なので分かりますが、私の方はティアナさんの方がお似合いじゃないですか?」

「何を言いますか!

セレナさんも息を呑むくらい綺麗ですよ。

それに、ボクの個人的な意見ですが、ティアナさんの綺麗さは質が違うんですよね。」


「質、ですか?」

「言葉にするのは難しいんですが……。

今、演出したいのは神秘的で儚い印象を与える美しさ、なんですよ。

一方、ティアナさんは貴族的な綺麗さなんです。

綺麗な事は確かなのですが、そのイメージは権力とか俗世的な成功を印象付けてしまう。

それは神秘的なイメージとは対極にあるイメージなんですよね。」


「はぁ……、なんとなく分かるような、分からないような……?」

セレナさんは納得しきれないみたいで、首を捻っています。

……私はクロー君の云わんとする事が、なんとなく分かりますけどね。


「それに、コラペの代表者はティアナさん達と顔見知りですからね、三人では不向きでしょう。」

「それはそうです。

なので、わたくし達は今回は案内役に徹します。

彼女らも、少しは気が休まるでしょうから。」


クロー君の言葉を引き継ぐように、私も語ります。

……そうなんですよね、知っている方なんですよね、よりによって。


**********


「どなたかいらっしゃいますか?

コラペ、リプロノより参りました、代表団の者です。」


昼をちょっと過ぎた頃、「魔王領」のコラペ・リプロノ側の入口付近で声が上がりました。

それを聞いた我々は、待機していた建物から出て声の主の元へ歩み寄りました。


「お待ちしていました。

コラペ・リプロノ代表者様達。

そして──」


「「──っ?!」」

ティアナ様の声を聞き、代表団の一部の者が驚愕するのが分かりました。


「──久しぶりですわね、テミスさん。」

「エシャロット子爵令嬢?

……いえ、ティアナさん。

噂には聞いていましたが、本当に「魔王領」に居たのですね。」


ティアナ様に応じたのは、我々が居た頃の「北部白日騎士団」副団長テミス・ビーツ子爵令嬢様でした。


「ちなみに、私達も居りますよ。」

「ますニャ。」

私とスノウノちゃんが顔を上げると、テミス様は更に驚かれます。


「フラウノさん、スノウノさんまで。

やはりティアナさんと一緒に居たのですね。」

「ええ。

あれから紆余曲折ありましてね。

一息ついたらゆっくりお話し差し上げますわ。」


「ティアナ様……。」

「ティアナ様だ……。」

「わ、スノウノちゃんも居る。」


テミス様にティアナ様が応じる、その遣り取りを見ていた後方の女性達が口々に感想を漏らします。

……見た顔が何人か居ますね。

いずれも「北部白日騎士団」の構成員であった元同僚です。

その事はティアナ様も気付いたようで、テミス様にお尋ねになりました。


「……随分、見知った顔が多いですが、「北部白日騎士団」からこんなにヒトを引き抜いて大丈夫ですの?」

「何を言うやら……。

とっくに解団してますよ、北部は。」


「「えっ?!」」

今度は私達が驚く番でした。

古巣の騎士団が解体したなんて想像もしていませんでした。


「……本当に知らなかった様ですね。

その話もおいおいしましょう。

今はまず、魔王様へのお取次ぎを優先でお願いしますわ。」

「そうですね……。

ところで、リプロノの代表者のグラメア様はどなたでしょうか?」


ティアナ様は心の動揺を抑えて、今やるべき事に意識を向けたようです。


「名前まで既に知っているのですか……?

ええと……、ああ!グラメア様、そんな奥に居らずに、こちらに来て下さいまし!」

「は、はいっ!

……こ、こんにちは。」


そう言って歩み出て来たのは、私やティアナ様、テミス様よりは年下の、猫背の青年でした。

こういった代表に選出されるのですから、おそらく貴族家の嫡子様だと思うのですが、その雰囲気は自信無さげで気弱そうな印象を受けます。


「……は、はぁ。こんにちは。」

ティアナ様は拍子抜けした様な声で応えました。


「こちらが、リプロノ代表者のグラメア・トルーチカ様ですわ。」

「よ、よろしくお願いします。」


「……。」


ティアナ様は軽く会釈をしましたが、虚を突かれたかのように呆然と目の前の青年を見ています。

ティアナ様の持つ貴族家の嫡子としてのイメージとあまりに乖離していたのでしょう。


「──では、我々案内役が魔王様のお屋敷までご案内いたします。

残る方々には、暖かなスープを用意させましたので、こちらでご休憩と、可能でしたら今夜の寝床の確保をしておいて下さい。」

私は、呆然としているティアナ様に代わって、テミス様達へ語り掛けました。


「ありがとうございます。

では、参りましょうか、グラメア様。」

「はい、はいっ!

そうですね、テミス様っ!」


「「……。」」

その遣り取りを聞いて、私達三人とも言いようのない不安を感じるのでした。


**********


「──ようこそ参られた、コラペ王国、リプロノ王国の代表者殿。

私が「翼の魔王」アリアだ。」


アリアさんが予め練習していた歓迎の台詞を語ります。

その声量、表情、姿勢に至るまで、事前に打ち合わせていた通りです。


「アリア様、お会い出来て光栄です。

わたくしはコラペ王国の代表として參りました、テミス・ビーツと申します。

そしてこちらが──」

「は、初めまして、魔王様!

私はリプロノ王国代表、グラメア・トルーチカと申します!」


テミス様はこの様な場でも臆する事なく、堂々と自己紹介をされました。

しかし、バトンを渡されたグラメア様は落ち着きなく、一部声を裏返して語りました。


「ハハ、そう畏まらずとも良いぞ。

私はヒトを喰う趣味なんて無いからな。」

「は、は、はいっ!」


グラメア様の様子に対して、アリアさんはもちろん怒る事はありませんでした。

それでもグラメア様からすれば、自分の失敗一つで自分ばかりか、これまで一緒に「魔獣の森」を歩んで来た仲間の命まで危険に晒す様な相手に思えるのでしょう。

アリアさんから声を掛けられても、恐縮してしまっています。


「グラメアさん、貴方に悪意や害意が無いのなら、魔王様は決して貴方を怒ったりはしませんよ。

魔王様は寛大な御方です。

貴方の言葉尻にへそを曲げたり、貴族社会の様にマナーから一ミリでもズレたら笑い者にされるなんて事もありません。」

「……は、はぁ。」


見兼ねたのか、クロー君がゆっくりとした口調で優しく語り掛けると、グラメア様はほんの少し落ち着いた様子でした。


「今すぐに、どうこうせよとは言いません。

この先、此処での生活の中で、少しでも貴方が肩の力を抜いてヒトと接する事が出来る様になれることを願います。」

「……はい。

あの……、ところで君はいったい?」


落ち着いたグラメア様は、そこで初めて自分よりも年下の、少年とも言える人物が座っている事に気付いたようでした。


「ああ、申し遅れました。

ボクはクロー、魔王様の代理人として皆様とお話しさせていただきたます。

魔王様に些末な交渉などを致していただく訳には参りませんので。」


クロー君が名乗ると、強い反応を示したのはグラメア様よりも、むしろテミス様の方でした。


「クロー……、やはり、貴方は……?!」

「……そう言えば、貴女とボクは一度だけお会いした事があるのでしたね、テミスさん?」


テミス様が動揺しているのに気付いたクロー君は、その理由についてもすぐに思い至った様子です。

そして、それを肯定するように、あの時あの場所に居た者しか知らない情報を話しました。


「では……。」


「はい。

ボクは、クレソン領のリプロノとの国境沿いで貴女に矢を射掛けられた、あの時の少年ですよ。」

「──っ?!」


驚きを隠せないテミス様に、クロー君は追い打ちするかの様に続けます。


「ちなみに、そちらに居るのは……。」


クロー君が手で指した先にはセレナさんが居ました。

彼女はヴェールを左手で押し上げて顔を覗かせ、小さく会釈をします。


「まさか……、聖女セレナ様、ですか……?」

「はい。

一昨年の秋に式典から飛び去った聖女様。

そしてその約半年前に、貴女達「北部白日騎士団」が取り逃したクレソン伯爵の隠し子ですよ。」


クロー君がそう言うと、テミス様は彼とセレナさんの間に視線を何度も泳がせました。

そして、ついにはうわ言の様にブツブツと呟き出しました。


「……飛び去った聖女様、……西の空、……じゃあ本当に、……が天使様……?」


……テミス様の呟きが聞こえましたが、途切れ途切れにしか聞こえず、何を考えているのかは分かりません。

ですが、何やら誤解が生じているのは確かなようです。


……そういえば当時、セレナさんが逃げるのを手助けした少年は天使様なのではないか、と噂になってましたっけ。

そしてセレナさんと飛び去った天使様の噂と、飛び去ったとされる先に在るこの「魔王領」、妄想を広げるには格好の要素が詰まっていた訳ですね。


**********


結局、その後テミス様とグラメア様は、明後日にンドゥ様を含めた話し合いを行う事を決めて帰られました。


「──良かったのですか?

テミス様に真実をお伝えしておかなくて。」


私は、テミス様が何やら誤解している事について聞いてみましたが、クロー君はあっけらかんと答えました。


「良いですよ。

何やら誤解しているみたいでしたが、その方が話を進め易そうですからね。

しばらくは、少なくともあちらから何か尋ねて来ない限りは、訂正も何もしないでおきましょう。」


う〜ん……、この正直にも誠実にも寄り切らない態度が、クロー君らしいと言えばらしいですね。

そこでセレナさんが話題を変えるように語り掛けました。


「……ともあれ、これで三国の代表者が揃いましたね。」

「はい。

やっと色々な話を進めて行けますよ。

……各国へ正式な通知を届けるのには、こちらも協力する必要がありそうですけどね。

ま、帝国ならベルモンドへ、コラペ・リプロノ方面は「魔獣の森」の入口に施設を作ったみたいなので、そこへ届ければ良いでしょう。

アリアさんとステラちゃんには、まだ頼る必要がありますね。」


そう、ベルモンドで滞在していたンドゥ様の情報を知り得たのはアリアさんのお陰でした。

また、コラペ・リプロノ側から「魔獣の森」への入口に新たに作られた町へ度々足を運び、情報を入手できたのは、ステラちゃんのお陰です。


「いいよ、私は愛しのエマオちゃんに会いに行くついでだしね。」

「クローとナルとのお出掛け楽しいの!」


クロー君は二人に、なるべく負担とならないようにお願いしていたのでした。


「二人ともありがとうございます。

物流が流れて来て、美味しい食材が届く様になったら、二人の為に腕を振るいますからね。

……エマオさんについては、いっそこの「魔王領」に呼び寄せる事も考えましょうか。」


「えっ?!

そんな夢みたいな事、して良いの?!」

「エマオさんは「魔王教」の教主ですよ。

魔王様のお膝元に居ておかしい事なんてないでしょう?」

「そっかぁ……!

よおっし!俄然、やる気が出て来たよ!」


「美味しいお料理、楽しみなの!」


そして、二人が喜びそうな報酬までちゃんと用意しているのでした。


「……そしてフラウノさん。」

「は、はいっ?!」


ここで自分が呼ばれるとは思っておらず、慌てて返事をします。


「悪いですが、ンドゥさんら帝国側の調整や連絡役はお願いしても良いですか?」

「えっ?!は、はいっ!

大丈夫です。」

「では、お願いします。

何かあったら言って下さい。」


そう言うと、クロー君はニッコリと笑顔を作ります。

……これは、私への報酬も用意しているという意味でしょう。

私がンドゥ様を、ちょっと良いな、と思っているのがバレてるからこその報酬なのでしょうね。


本当に抜け目ないですね、クロー君は。

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