【9話】街デート
眠れない、ずっと雨音と鼓動が鳴り続けていて目を閉じ続けていられなかった、何度もあの時の事がフラッシュバックし続けていた。
あれはきっと、あれに違いないゲームとかでよくある助けたお礼として的なやつだ、だってここはゲームの世界だから決して俺の事が……だなんてありえない、あっていい訳が無いに決まってるじゃないか。
色々考えているうちに、扉を三回程ノックする音が鳴り慌ててドアを開けるとノアが立っていた。
俺の様子を察したのか「すまない、起こしてしまっただろうか」と謝ってきた。
悟られないようにヘラヘラと笑いながら「いや、寝てなかったから全然平気、それよりこんな時間にどうしたんだ?」と聞き返した。
するとノアは剣を取り出し始めた、あ、忘れてたノアは魔物を憎んでいるんだった、あの時の勢いは何処へやら、体の震えが止まらなかったが自然と受け入れていた、別に後悔なんて……やめてくれこんな時に君が出てくる走馬灯なんて。
しかし剣は俺の体を貫くことはなかった、代わりに目の前の人物が自ら左肩を貫いていた、引き抜かれた剣と肩から鮮血が滴り落ちていた。
理解が出来なかった、俺の知っている事実と体験してきた事と矛盾していたからだ、反射的に俺は剣を奪い取った。
ノアは肩を抑える事もせずに「返してくれないか、手足はすまない騎士として切り落とす事は出来ないが、せめてどちらかの眼球か耳でも抉らないといけないんだ、君に償わなければ」と近寄ってきた。
心音が煩くなってきた、当然だが照れている訳では無い、剣を後ろに隠しながら「そんな事で俺が喜ぶと思ってんのか」と静かに言った。
ノアは動揺を隠せない様子で「君は俺が憎くないのか?」と理解が出来ず困惑していた。
憎い? どっちかで言ったら憎いになるのだろうけど、今だと仕方ないと思えた。
頭をかきながら「事情は知らないけどお前は魔物を憎んでいたというのに、俺は自分の正体を隠してたから仕方ないと思うがな、それにもう傷も治ってるし気にしてねぇよ」と斬られた場所を指し軽く叩いた。
ノアは土下座をしながら「......本当にすまない、償いすらも必要無いと言うのなら、いつか君に別の形で返させてほしい」と何度も床に頭を擦り合わせていた。
慌てて「いや全然いいって、本当に」と言うとノアはしばらくしてから立ち上がり、突き刺した箇所に薬を塗り包帯を巻き付けていた。
俺は警戒をし続けながら「まさかとは思うが、こんな事の為に俺を訪ねて来たのか?」と質問するとノアはすぐに首を横に振った。
手を差し出し「すまなかった、もうこんな真似は二度としない」と謝ってきたので少し不安だったが剣を返した。
ノアは剣を収め、こちらを見ながら「クオ殿、完全に体の調子が治ったのなら俺の部屋に来てくれ、君をここに連れてきた理由を話そうと思っている」と真剣な様子だった。
そういえば忘れてたな、意味も分からずこの城へと連れてこられた事を、体も治ってきたし明日にでも訪れるかと考えた。
先程とは様子が変わり、少し顔を俯かせながら「それと、今はまだ決心がついていないがいつか君に別件で話したい事がある、君に迷惑がかかるかもしれない、嫌なら全然断ってほしい」弱々しく、らしくない声色だった。
返答を待つ事もせずにノアは背を向け「改めて何度もすまなかった、いい夜を」と言い自分の部屋へと戻って行った。
小さくなっていく背中を見ながら「あ、ああ」とぎこちなく手を振った。
思わぬ出来事のおかげで、甘すぎる体験も吹き飛び何とか寝れそうだった、しかしあんなにも今までと違って態度が変わるものかとぼんやり考えていた、でもそれって信用はされているという事にしてもいいのだろうか、そしたら少なくとも、もう殺意は向けられない......よな。
カーテンから柔らかい陽の光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえ目を開ける、久しぶりに自分の部屋でエーリヤが起こしに来るよりも早くに起きれたな、布団をたたみ、仮面とマントを装着し、椅子に座りエーリヤが来る事を今は今かと待っていた。
あの時とは違う、もうエーリヤが危ない目に合う事もあんな恐ろしい事だって起きないのだから、鼓動と重なるように扉をノックされた。
扉が開き、鼻歌交じりにエーリヤが現れた、すぐに立ち上がり「おはよう、エーリヤ」と挨拶した。
エーリヤは驚いた顔になり「あれ、クオ様おはようございます」それでもおはようを返し、一礼をし、いつもの笑顔になった。
やっと言える、はやる気持ちを抑えきれずに「見てくれよ、君のおかげで起きれるようになったんだ」この時の俺は、まるで褒められ待ちの子どものようだったのかもしれない。
エーリヤの笑顔はますます明るくなり「凄いです、私が来るよりも先に起きていたなんて」改めてエーリヤの笑顔を噛みしめる、瞬きをする度に少し怖くなった、もしこれが夢で、あの時回避出来なかった出来事達が現実だったらと考えると、とても怖くなった。
エーリヤは朝食として、パンとスクランブルエッグと野菜スープを持ってきてくれた、久しぶりのエーリヤの飯は今まで以上に美味しく感じ、しっかりと味わった。
朝食を食べ終えノアの所に向かい扉を開ける、部屋からはパンとコーヒーの匂いが漂い、ノアはコーヒーを片手に書類を眺めていた。
こちらに気がついたのか、ノアはコーヒーと書類を置きこちらに向かって「おはようクオ殿、もう体の方は大丈夫なのか」と声をかけた。
挨拶を返し、話を振る「で、俺は何の為にここに連れてこられたんだ?」途端、ノアは真剣な顔になり「君には是非『騎士』になってもらいたいと思っている、だからここに連れてきた」と真っ直ぐな目で俺を見ていた、ふざけている様子も無く真剣に言っていることが分かる。
騎士、と聞いて浮かぶのは今目の前にいる人物だ、確かに初めて会った時に騎士みたいな格好をしていると思っていたが、本当に騎士だったとはな、でもオークが騎士になるなんて酷い冗談だと思えた。
それに第一ノアは魔物を憎んでいるんじゃなかったのか? 昨日、いやあの時から明らかに俺に対しての態度が変わった気がする、やっと少し分かってきたと思ったら、また新しく分からない事ばかりが増えていった。
そんな俺を置いて淡々と話は進み続ける「早速、君を鍛えていきたい所だが、その前に観光がてら楽しむ時間が必要だと思っているのだが」と意味深な事を言われた。
何とか頭に詰め込み「楽しむってどういう意味だよ」と聞き返すと、ノアは「エーリヤと共に君達二人で街にでも遊びに行って来るといい」と腕を組まれながら言われる。
とんでもない事を言われた気がする、唖然とする俺に容赦なく「エーリヤには既に伝えているから、二人で楽しんでくるといい」悪意が無い事は分かるが、あまりにも酷かった。
困惑しながら「お前勝手に......」と何か言ってやろうとしようとしたが、させまいと言わんばかりに「だが明日からは、こんな時間も取れないという事だけは覚えておいてくれ」と先手を打たれ、呆然としてしまった。
そう言い終わるとノアは下を向き、書類に手をつけ口を開く事はなかった、とても集中しているみたいだった。
頭を抱え小さくため息をつき、ノアの部屋から出て行く、自分の部屋へと戻る最中、必死に自分の中で言い聞かせる、きっとアイツの下手な冗談か何かだ、いやそもそも何勝手に俺が騎士になるって話で進んでるんだよ......頭が痛くなってきたが自分の部屋の扉が見えてきた。
扉を開けるとそこには、いつものふんわりとした黒いドレスのような服では無く、服の色は同じ黒だが、体のラインが少し分かりやすい、ワンピースのような服を着たエーリヤが恥ずかしそうに立っていた。
え、何でエーリヤが俺の部屋に、いやそれよりも凄く綺麗だ、いや......なんで? 普段と比べ露出があるため、少し大人っぽく見え胸の高鳴りを感じた。
困惑しつつも何を着ても似合うなエーリヤは、と魅入っていたが、ふと自分の服を見てみるとずっと同じ服しか着てないのであろうか全体的に伸びきっておりだらしなかった、いつか服屋にでも寄ろう、絶対に。
エーリヤが「行きましょうか」と言ってきた為、鼓動が飛び跳ねズレていくのを感じる、何とか落ち着かせ「行くって何処に」と聞き返すと、恥ずかしそうにしながら「街の案内は私がします、なので......ご一緒に私と」連られて顔が赤くなっていく、ほ、本当に今から二人きりで街に行くのか、嬉しい気持ちしか無かったが、鼓動は既に爆発寸前であった。
すれ違う住民達からエーリヤは声をかけられ、それに丁寧に対応していった、見ているだけで感心するほど手馴れていた。
そんな時に誰かが「そのような服も着られるのですね! とってもお似合いです」と言われると、エーリヤは顔を赤くしながら一礼をし、足速に歩いて行った。
今の住民の発言でそういえばとなったけど、確かに普段は絶対に露出なんてしないよな、腕も足もタイツとか長袖とかで隠しているしどうしていつもと系統が違う服を着ているのだろうか、まさか俺の為に? いやいやそんな事無い住民達の前に立つ訳だからオシャレしたいよな、それでしかないに決まっている。
街はとても賑わっておりどこからでも楽しそうな声が聞こえてくる、食べ物や本など色々と売っていた、物も豊富で見ているだけでも十分満足できる程だった。
しばらくして視界に服を着たマネキンが映る、そういえば服屋に寄りたいと思っていたんだっけな、白い半袖のTシャツと黒いズボンのシンプルな格好をしたマネキンを見つめていると見覚えのある文字が見えた。
えん? これって2000えんって書いてるよな、よし! よっしゃ! 料理の時みたいに変な言語にならないだけでも俺はそれだけではしゃいだ、これなら読める俺でも理解できると喜び、エーリヤに声をかけ店に入った。
服の値札を細かく確認し小さく悲鳴をあげる、た、高い......いやそもそも忘れていた事がある、金が無い、そもそも渡された記憶も無かった。
大体こういうのは初手から所持しておくものだろ、いやそうだとしてもこんな大金は持ってないか、値札を持ったまま立ち尽くしていた為、エーリヤが顔を覗かせ服の値段を確認した後「よろしければ、私が買いましょうか?」と聞いてきた。
流石に慌てて「いや、見てただけだから全然大丈夫」と断ったが、エーリヤはハンガーの部分を持ち俺の体に当たらないように商品を差し出され「でしたら私からのプレゼントという事で」とエーリヤは引かない様子だった、厚意に甘えるべきか、理由を付けて断るべきか必死に悩んだ。
結局根負けしエーリヤから服をプレゼントして貰った、流石に情けなさと申し訳なさがあったのでお返しに何をプレゼントをしようかと考えていた、しかし後にこの事でエーリヤにまた思い知らされるのはまた別の話。
どちらが購入品を持つかで譲らない駆け引きがあったが、流石に何とか説得し荷物は俺が持つことになった。
街に来てからある程度時間が経ち、エーリヤからある提案をされた「そろそろお昼にしませんか?」と笑顔が眩しかった。
確かにある程度時間も経っているしちょうど良かった為、エーリヤに賛同して付いて行った。
道中でエーリヤが楽しそうに「今から行くカフェは、メイド様が経営しているんです」中々衝撃的な事を告げられる「え、メイドさんって城にいる人だよな」と驚いた。
エーリヤは少し前に飛び出したり、一瞬だけ俺の隣に来たり相変わらず楽しそうにしながら「実は全員で三名います」と教えてくれた。
カフェの中は沢山の人で賑わい、オレンジ色の髪をした女が慌ただしくキッチンを往復していた、俺が会ったメイドさんとは確かに違う人だった。
エーリヤはメイドさんに声をかけ楽しそうに会話した後、個室へと入りメニュー表を渡されたので見て見ると、悲しい事にやはりメニューは読めなかった、どうしてこの世界は料理の名前になると、途端に言語が変わるのかと頭を抱えた。
しかも料理の写真が無いタイプじゃないか、唯一読めた文字は本日のおすすめだけだった。
互いに注文し、先に俺の料理が届けられた、本日のおすすめはパスタとコーンスープ、そしてサラダだったようだ、ケチャップと肉の匂いが香り、エーリヤの飯がやってくるまで我慢した。
しばらくして肉の匂いと、聞いているだけで腹が空いてくるよな音を鳴らした、ハンバーグが運ばれて来た。
二人で手を合わせ、エーリヤは「気合を入れたい時にこう、ガッツリと食べたいのです」ナイフとフォークを握ったまま、誇らしげに言った。
談笑と食事を楽しみ店を出ると、日は落ちてきて夜が近くなる、暮れゆく夕に照らされていたエーリヤはとても綺麗だった。
二人並びそのまま城へと帰っていく、城に着きエーリヤは調理場の前で止まると「では私は晩御飯の用意をして来ます、また夜に」と言い一礼をして、笑顔で立っていた。
小さく手を振り、自分の部屋へと戻って行く『また夜に』という言葉に何だか違和感があったが、今日の観光の事を振り返り、余韻に浸っていた。
後に、エーリヤから言われた言葉の意味を理解するのはあと数時間後の話であった。




