【10話】夜&家デート
俺は今エーリヤに押し倒されている、どうしてこうなったのか必死に考えているというのに、何も分からなかった。
街を一緒にデ......一緒に観光した時の住民達に振りまいてたあの笑顔なんて物は無く、色っぽい微笑みを俺一人だけに向けられていた、脳がぐちゃぐちゃになりそうだ。
耳に顔を近づかれ「クオ様......」と囁かれる、二度目だからといって慣れている訳でも無く、再び体が熱い衝動に駆られた。
頬を赤らめながらエーリヤは「今日の晩御飯を覚えていますか?」と聞いてきた、唐突すぎる質問だったが沸騰しそうな脳で必死に振り返った。
ニンニクたっぷりのステーキ、牡蠣フライ、鰻と今にして思うとスタミナ料理ばかりだったなとは思う、今も体の疲れを感じさせない程、元気が溢れてくるような気がする。
腹をさすられながら「体力つきましたよね?」と少し意地の悪い笑みを浮かべられる、違う、必死に一つの憶測が浮かぶのを否定した。
絶対にそんな事がある訳が無い、きっと明日の為にエーリヤが気遣ってくれただけだ、俺のくだらない妄想な訳が無いんだ。
必死に否定しようとしたが、エーリヤに指を突っ込まれ服の中から直に腹に触れられ虚しくも確信へと変わってしまった。
細く柔らかい指先で腹をなぞられ経験した事の無い刺激がじわじわと気持ちを昂らせていく。
エーリヤは俺とつまりそういう事なのか? 息が荒くなり、鼓動が煩く頭の中で響き続けた。
エーリヤはデートをした時の服のままだった、その服のボタンを下から一つずつ外していった。
服がはだけていき肌色を恥ずかしそうに見せながら「だ......だい......抱い」反射的にその発言を遮っていた、エーリヤのような子にそんな発言を許してはいけないと思ったからだ、それに対象が俺だなんて余計にダメに決まっている。
しかしエーリヤはそんな事くらいで止まる事は無かった「だって......だって、だって! クオ様は凄くかっこよくて優しくて強くて、それに一緒にいてこんなにも楽しかった方は初めてなんです、クオ様が騎士になったら色んな人から慕われて、きっと好きな人もできて......だから私は......」とてもじゃないがエーリヤの顔が見れなかった、見てしまったら抑えられなくなるような気がしたからだ。
いや違うな、いっそ抑えられなくなったっていいんじゃないのか、この状況になっても未だに意識を失う事が無いのなら、この心臓の痛みさえ我慢したらいい話だ。
こんなにも俺を望んでくれているんだそれに答えたいし、当然ヤれるならしたいそりゃ俺だって男だ、女にここまでやらせて何もしないなんて何も面白くないだろう、だから別に受け入れたっていいじゃないか少々の我慢さえしたら、やっと望んでいた事が出来るんだ。
ゆっくりと手を伸ばしエーリヤの髪に触れる、柔らかくてサラサラとしていて、とても丁寧に手入れされている事が分かった。
息を思わず飲み込んでしまった、時間がゆっくり動いているような気がした、もっと触れたいもっと深くまで堕ちてこのままずっと溺れていたい、段々と本能に呑まれ自分が自分じゃなくなっていく感覚に堕ちていく。
エーリヤは俺の手に頬ずりをし恍惚とした笑みを浮かべる、それはエーリヤ自身も興奮しているような、それか誘っているようにも見えた。
もういいよなこのまま抱いても、オークだなんて関係ない、むしろオークだからこそ壊してしまいたい、俺の手で乱れて壊れてもっと求めて欲しい。
頭に浮かんだのはあの時と同じ首を絞めている構図、違う本気じゃない本心じゃない、あれはエーリヤを助ける為......助ける為なんだって、やめろやめてくれ、どれだけ違う事を考えてもエーリヤの苦しそうな顔が焼き付いて離れてくれなかった。
思わず手を引っ込め口元を抑える、高揚した気持ちは一転し罪悪感と吐き気と諸々の暗い感情で満たされてしまった。
ああ何故こんなにも俺は馬鹿なんだろう、先程までの下劣な考えをしていた自分を殴りたくなった。
やっぱり俺にはそんな資格なんて無い、好きになる資格も好かれる資格も持ってはいけないんだ、何を考えていたんだろうな俺は傷つけてしまうだけだというのに、人間とオークがそんな関係になる訳無いというのに。
目を逸らしながら「ごめんエーリヤ、俺には無理だ本当にごめん」ただただ謝る事しか出来なかった。
エーリヤは俺の上から離れ、隣に座り優しく笑いながら「謝らないでください、そもそも私がクオ様の気持ちを考えずに自分勝手に動いてしまったのですから、謝るのは私の方です、ごめんなさいクオ様」体を起こしエーリヤの隣に俺も座った。
気まずい沈黙が互いに流れる、二つの後悔が俺の中で駆け巡った、いつも沈黙を破ったのはエーリヤだった「クオ様、仮面を私が取ってみてもいいですか?」と無茶なお願いをされた。
少しだけエーリヤの方を向きながら「ダメだ絶対に、分かるだろう俺は醜いオークなんだから」と言ったのに手が触れ、優しく握られながら優しい声で「いつかその仮面を取ってもいい関係になれたらその時は、私を受け入れてくれますか?」相変わらず君は俺の好きな笑顔を浮かべていた。
どうしてまだそんな顔をしてくれるんだ、どうしてまだ俺に触れていられるんだ、胸が痛くて苦しくてエーリヤに何も言えなかった。
エーリヤはベッドから降り立ち上がった、そしてボタンを付け直し服の裾を掴み丁寧に礼をされ「本日は長い時間私と沢山一緒に居ていただいてありがとうございました、クオ様さえよければまたご一緒させてください」といつもの笑顔をしてくれた、でも少しだけ寂しそうな悲しそうにも見えてしまった。
互いにおやすみを言い合い部屋に静寂が訪れる、さあ寝ようとすら思えなかった、エーリヤの匂いが部屋に布団に、そして俺自身からもほんのり残っていて体の熱が収まってくれなかった。
夜風でも浴びて頭を冷やそうと部屋を出る、夜の城は怖さもあったが月明かりがいい感じに差し込み神秘的な印象も感じとれた。
調理場まで歩き蛇口を捻って水を手ですくって飲む、色々と乾いた体にひんやりとした感触が流れ込む、もう少し飲もうと思いコップを探していると誰かに「はい」と何かを渡された。
特に違和感も覚えずに礼を言って水を注ぎ飲むと、やたら飲みにくかったどうやらコップではなくスープを入れる平たい皿だった。
呆れながらツッコミを入れる「おいおい、水を飲むのにこんな皿でどうやって」やっとここで違和感を覚える、いやいやいやおかしいだろ声的に女だけど誰なんだ、メイドさんがこんな時間に起きてるとは思えないし、エーリヤとはさっき別れたばかりだ、じゃあ一体誰なんだ。
聞き覚えのない声で「おかしいな、ここにあったはずなのに」と後ろからクスクスと笑い声が聞こえた。
覚悟を決め後ろを振り返るとそこには目隠しをしていて、プレゼントボックスのように頭にリボンを巻き付けている不思議な少女がそこに居た、よく見ると目隠しも飾りのリボンも一本のとても長い赤い紐で繋がっていた。
少女はこちらを見ながらぎこちなく「こんばんは、いい夜、ですね」喋り方までもぎこちなく不気味な印象を植え付けた。
冷静を装いたかったが「な、何の用だ」と明らかに動揺を見せてしまった。
少女はゆっくりと足音を立てずに近づかれ「私はただ、自由になりたいだけ」と意味深な事を言われる、先程までの出来事と合わせて頭が混乱してきた。
手を差し出され「私を連れ出して」この言葉だけは、ちゃんと普通に喋っているように聞こえた気がした。
俺はそれに断る事も出来なければ、手を取る事も出来なかった、それに対し少女は何も言わずに口元に笑みを浮かべていた。
少女は手を振り「またね」と言うと物音もたてずに暗闇の中へと消えて行った。
しばらく立ち尽くしていたが、皿を洗ってから自分の部屋へと戻った、匂いはまだ残っていたが重度の疲労からかすんなりと眠りについた。




