【11話】幽霊少女
誰かに体を揺らされ目が覚める「今日は起きれませんでしたね」聞き覚えのある声で視界がはっきりとしてきた。
エーリヤが誇らしげな顔をして立っていた、どうやら彼女の言う通り今日は俺が先に起きれなかったみたいだ。
挨拶をしようと思ってエーリヤの方に体を向けると、突然抱きつかれ時が止まった。
夢かこれは? いやそうだよなそうに決まっている俺があんな体験をする訳が無いし今の状況も現実な訳が無いよな、オークが女の方から好かれるなんてどんな都合のいい妄想すぎるんだって話だ。
エーリヤはまたしても耳に顔を近づけて来たので三度目の正直という事もあり、エーリヤの体に触れないように離れようとしたが流石に無理があった。
そのせいでより強く抱きしめられ、かなり体が密着した状態で結局三度目の「ねぇクオ様......また夜にお部屋にお邪魔してもいいですか?」と囁かれた。
昨日の今日で目が回ってくる、健全な朝だというのに昨日の夜のような気分になっていくこのまま抱きしめ返したい......いや何考えているんだ俺は昨日の二の舞なんてごめんだ。
何とか離れてもらう為に話題を振った「腹が空いてるから、何か持ってきてくれたら嬉しいんだが」仮面越しに頬を撫でられながら「今はオーブンでピンを焼いているので、あと数十分お待ちください」離れてくれる気は無いようだ。
心音に支配されていく、このままだと本当に昨日の二の舞になってしまう、俺だって受け入れられるならとっくに受け入れたいに決まってる、でもダメなんだ俺なんかよりも、もっと良い人がいるに決まっているというのに、段々とベッドへと沈められていく感覚に嬉しさと焦りともどかしさでいっぱいだった。
扉を叩く音が聞こえ、エーリヤの力が緩んだので這い出るように抜け出しドアを勢いよく開けるとノアが驚いた顔をしていた。
エーリヤと俺が同じ部屋にいる事を視認でもしたのか「ああ......すまない邪魔をしてしまったようだな、また後で来る」と何故か離れようとした。
慌てて肩を掴み「待て待ってくれ、騎士だろ騎士になるから、早くなりたいから今すぐにでも教えてくれよ」あまりの必死さにノアはしばらく止まっていたが、ふっと笑うと「エーリヤ、朝食を二つ分俺の部屋に持ってきてくれ」と言うと部屋から出て行った。
後ろを振り返れなかった色々と気まずいからだ、絶対に続きが始まってしまうと身構えていたが、エーリヤは何も言う事は無く、俺に一礼をしてから部屋から出て行った。
完全に一人になったのでひとまずベッドに腰掛け、心音を落ち着かせていた、あのままノアが来なかったらどうなっていたかなんて恐ろしい事は考えずに気持ちを切り替えた。
しばらくしてからノアの部屋へと行くと、既に二つ分の食事が置いてありノアはパンを食べていた、食べ終えてからノアは「そこの場所を使うといい」と長机とソファが置いてある場所を指さした。
パンを口に頬張っていると視線を常に感じたので「何だよ、言いたい事があるなら言えよ」と聞いた。
ノアは謝罪をしながら「不思議だと思ったんだ君を見ていても、もう殺意や憎悪が湧いてこない」思わずむせそうになった。
冷や汗が出てきたが反応せずに食べ進めた、しばらくしてからノアは立ち上がり「君が平気なら始めようか」と広い庭へと案内された。
見渡す限り一面の緑でとても広い庭だった、暖かく優しい日に照らされながら向かい合い玩具の剣を渡された。
ノアは手をひらげ「さあ君の思うように斬りかかってくれ」そう言うと剣も何も持たず立っているだけだった。
ドが着くほどの初心者に対して雑すぎないかと思いつつ俺は全力で走りノアに剣を振るった、しかしノアは体をひらりと軽く横に向けただけで、簡単に攻撃を避けた。
息を切らし呼吸を落ち着かせた、ろくな運動もしてこなかった為、たったこれだけで尋常じゃない疲れが押し寄せた。
ノアはそんな俺を見て「では手本を見せようか」そう言ってノアも玩具の剣を握った、玩具のはずなのに脳裏をよぎったのはノアの冷めきった目つきとおぞましい殺意だ。
体の震えが止まらないが何とかして剣を握り続けたが、ノアはそんな俺に対して容赦なく斬りかかって来た。
重い、一撃一撃が常に決着をつけそうなほどの威力だった本当に同じ玩具なんだよなと疑った。
何とか隙を見て反撃をすると「そんな使い方ではダメだ、すぐに剣が使い物にならなくなってしまう」「勢いをつける事は大事だが、片方に力を入れ過ぎてしまっている」あまりにも厳しい指摘をされ続けた。
その日の夜は朝までずっと疲労感で満たされていた、晩御飯を食べた後はすぐにベッドに倒れるように眠った程だった。
朝から夜までそんな日々が続いた、少しずつほんの少しずつ自分の体が成長していくのを感じた、段々と体力がついていき訓練中に倒れる事も、全身筋肉痛でエーリヤに介護してもらう事も減っていった。
その日は珍しく眠れない夜だったので久しぶりに城を軽く散策していると、白いナニかがうつ伏せで地面に倒れていた。
びっくりしすぎて「ひっ......ゆ、幽霊」と言ってしまったが、恐る恐る近寄るといつかのリボンまみれの少女が倒れていた、かなりぐったりとしているみたいだった。
放っておけず「おい大丈夫か」声をかけたが反応は無かった、罪悪感を覚えつつ肩に触れ少し揺らしても反応は無かった。
まさか......嫌な考えがよぎった、必死に声をかけ続けると小さなうめき声が聞こえたので耳を近づけると「お腹、空いた」と言っていた。
ひとまず安心し「何か持ってくるよ」と言うと少女は「一人はもう嫌」と苦しそうに悲しそうに言った。
仕方なく少女を運ぼうと横抱きすると、軽いあまりにも軽い、抱えているにもかかわらず何も持っていないとすら錯覚した。
鍛えて筋力が上がったからって事は考えられなかった、まるで綿のような紙のような人間とは思えない程の重さだ。
調理場へと少女を運び椅子へと座らせ冷蔵庫を見て見ると多種多様な食材が出迎えてくれた、勝手に使うなんてと思いつつ、あの子の好みは何だろうと色々考えシンプルなパンケーキを作ってあげた。
量なんて分かる訳が無いので全て目分量で入れては混ぜ慎重に焼いた、何故かフライパンから生地が離れなかったり焦がしたりして上手くいかなかった。
エーリヤの凄さを改めて実感しつつ、何とか上手く焼けたやつだけを皿に盛り付け少女の元へと運んだ。
ほんのり甘い香りがする不格好なパンケーキの山をいつの間にか持っていたフォークとナイフで少女は攻略していった。
何も言わずにがっついている様子を見て嬉しい反面味の不安もあった、少女に口に合うか尋ねると「最近、物の中で、一番」口元には笑みが浮かんでいた。
すっかりと元気になった少女は俺にニコニコとした笑顔を向け礼を言い、皿を片付けてから俺の近くへと戻ってきた。
俺の方を見ながら「食後、散歩」期待を込められた眼差しだった、少し悩んだが承諾し調理場を一緒に離れた。
静かな夜にヒールのリズムが響く、少女は楽しそうにくるくる回りとてもはしゃいでいた。
少女は色々な場所を指差しをし、そこがどういう場所なのかや、自分がこの城にどうやって入ったのかを教えてくれた。
驚く事に俺が閉じ込められたあの牢屋部屋から侵入して来たみたいだ、まさか隠し通路があるなんてな、俺以上にこの城に詳しい事を不思議に思い「何でそんなにこの城に詳しいんだよ」と尋ねると俺の前に出て「忘れちゃった、私が幽霊、だから?」とよくある幽霊がやる手を曲げる仕草をした。
聞こえてたのかと思いつつ「悪かったって、びっくりして言っただけだから許してくれ」と謝った。
少女は満足そうな顔をして俺の隣に戻ると「......ずっと、この時が続いて......」とても小さく聞き取れなかったが、そんな声が聞こえた気がした。
服の裾を掴まれ「ねぇ、また私に、会ってくれる?」その言葉には不安が強く込められていた。
傷つけるつもりは無かったものの「朝は寝てるし、昼は忙しいからあんまり期待は」と正直に言うと、少女は悲しそうな顔をしているように見えた、顔は隠れているのにそう見えてしまった。
良心が痛み頭を撫でてあげながら「まぁでもお前といると楽しいし、夜限定になるけどまた明日も来るよ」決して嘘ではなかった、非日常みたいな感じで本当に楽しかったんだ。
少女の顔が明るく輝いた気がした「......うん、また明日」そう言うと少女はぎこちなく手を振って、俺に抱きついてきた。
驚いたものの拒む事はせずに受け入れていた、エーリヤには抱きつかれる度に情けない反応になるのに、今この時の心音は穏やかだった。
女全員にあのような反応をしないというのが分かり安堵した、ただ同時に最悪な事実も浮かぶ、俺は完全にエーリヤの事が......そんな資格なんて無いのにな、自分に嫌悪していった。
しばらくしてから少女はゆっくりと離れ、寂しそうに手をまた振り、月と共に去って行った。
軽く手を振り自分の部屋に戻ろうとしてふと立ち止まった、そういえば名前聞いてなかったなそう思い声をかけようと振り返ると目に映った光景は、月に照らされその月に手を伸ばす少女の姿だった。
白い肌はより白く儚く美しくて、この世の全ての賞賛が似合う程だ、顔が熱くなっていくのを感じ慌てて顔を逸らした。
月が綺麗だと思っただけだ、決してあの少女の事がだなんて事は断じて無い、第一未成年だろ俺にそんな趣味なんて無い、必死に言い訳をしていたもののしばらく見とれて動けなかった。




