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【12話】メイドさん達の抜き打ちデート

 朝から昼は剣を振っては走って筋トレをして、そんな繰り返しで体力がつき力も増して自分の体の成長を実感した、今ならあの時のゴブリン共も一人で倒せる気がしたくらいだ。

 夜は不思議な少女と話したり城を散策したりした、何も話さずに月を見たり、他愛のない話をしたりしてそれだけでも楽しかった。

 そんなある日訓練中に一人のメイドさんが話しかけて来た、エーリヤがいなくなって探して回っている時に声をかけたメイドさんだ。

 淡々としていて真面目そうな印象を持っていたが「()()()デートしていただけませんか」まさかすぎる提案に思わず玩具の剣を落としてしまった。

 剣を拾い上げ動揺しながら「誰かと勘違いしてるんじゃ……」メイドさんは顔の形を変えずに淡々と「いいえ、私はクオ様に仰っています」どうやら勘違いをしている訳でも、嘘でも無いようだ。

 背が高く眼鏡をかけていて黒くて長い髪をくくっている、いかにも生真面目な感じだというのに驚いた、返答に困っていると「私含め三名の相手お願いしますね」と勝手に話を進められた。

 唖然としているといつの間にかメイドさんは居なくなっていた、ひとまずノアの所に行き必死に今日も訓練するんだよなと聞いたが、ノアはいつもの服を着替えていて、更に机の上の山積みの書類が置いてあるのを見て諦めた。

 街に出てしばらく人の流れを見ていると服を着替えずにエーリヤと似たような黒い服をしたメイドさんがやって来た「改めてましてお願いいたします、私ゼネと申します、本日は私の独断でご迷惑をおかけする事を謝らせてください」丁寧な物言いと仕草でメイドさん改めゼネと対面した。

 ゼネは「行きましょうか」と言い俺の隣に来て、まるで恋人のように腕を組んできた。

 突然の出来事に驚き慌てて腕を離そうとしたが、がっちりと固定されて抜けなかった、ゼネは顔色一つ変えること無くこちらを見ていた。

 確かにハーレムを望んだ、望んだけれどいざ目の当たりにすると中々受け入れるのが難しい、頭がショートしそうだ、俺にはエーリヤが……いやそもそも誰かを好きになる事も好かれる事も、とあれこれ考えている間にゼネは不思議そうな顔をして「何故、嫌がるのでしょうか、女性にこのようにされると男性は喜ぶと本で読んだのですが」と首を傾げていた。

 何とか説得して腕を繋ぐのをやめてもらい隣を歩いてもらう事になった、向かった先は図書館だった、陽の光が差し込み暖かな雰囲気を感じた、人々は椅子に座り静かに本を読んだり居眠りをしている者もいた。

 互いに適当に本を取り人がいない場所に対面で座った、場所が場所なので話す事をせずに黙々と本を読んでいた。

 俺が選んだ本は少しだけ料理について学ぼうと思って取ったレシピ本と何となく表紙が良いなと思って取った小説だ、恐る恐るレシピ本に目を通すと、『混ぜる』や『冷やす』は普通なのに、材料や完成した料理名が別言語だった。

 分かっていた、分かっていたけどいい加減に言語の理解とレシピを学んでおきたかったのにと頭を抱えた、仕方なく小説に手を伸ばしタイトルを読むと『とある怪物のお話』と書かれていた。

 その本は人間に恋をしてしまった哀れな怪物の悲恋の話だった、怪物の自分にでも優しく接してくれた人間に恋をしたそんな話だ。

 しばらく読み進めていると「正直に言って私は貴方を認めておりません」とそんな声が耳に入る、互いに顔を向ける事もなくただ静かに語るような声が聞こえ続けた。

 ゼネは懐かしむように「私は長らくノア様に使えておりますそれはエーリヤ様も同じです、だからこそずっと傍にいるあのお二方が結ばれるのに相応しいと思っていたのです」確かにそうだなと思った、ノアとエーリヤが一緒にいるのを見る度に悔しいけれどお似合いだと思ったんだ。

 独り言をこぼすかのように「俺だって同じだ、こんなオークなんかよりもノアと一緒にいる方が良いに決まっている」自分で言っていて胸が痛くなった。

 いよいよ小説もラストパート、怪物が人間の為に暴れ、それを騎士に制裁されてその騎士と人間が結ばれる、そんなハッピーエンド……そうこれは紛うことなきハッピーエンドだ。

 ゼネは再び静かに語り出す「オーク? の事は分かりませんが、私はその本嫌いです」意外な一言だった、本を置き俺の方を見ながら続けて「怪物目線で書かれている物語だからか悲しくて苦しくなりました」ゼネは本の表紙を優しく撫で「異種同士の恋愛は成立してはいけないのでしょうか?」それはまるで俺に問いかけているかのようだった。

 本を置き表紙を眺めながら「誰も望んでないさ、だからこの本みたいな展開しかこの世には存在していない」怪物が好きになった人間は幸せになっているのならそれでいいんじゃないのか、怪物が幸せにならなかったとしても、俺はそう思った。

 ゼネはこちらをしっかりと見ながら「悲恋もいいですが少しほんの少し、たった一つだけでもめちゃくちゃでもつまらなくても滑稽だとしても、私は怪物と結ばれるハッピーエンドがあってもいいと思いました」光が二人の間に差し込んだ。

 ゼネはふっと笑うと「本日はありがとうございました、もうしばらくすると()()()がやって来ますので」立ち上がり一礼をして去って行った。

 言われた意味を考えていたが俺にはどうしても理解出来なかった、仮にそんなハッピーエンドがあったとしても俺じゃなくたっていいはずだ、別に俺は結ばれたいだなんて思っていない、思ってはいけないのだから。

 考えすぎた頭でも冷そやそうと思い外に出ると元気な声で「あの時以来ですねクオ様!」手を一生懸命大きく振るオレンジ髪の女が映る、今度の相手はエーリヤとデート……じゃなくて観光していた時に寄った、カフェの店員も兼任しているメイドさんだ。

 一礼をされ「本日はすみません、お世話になりますザルツといいます」この世界で何度か礼をする姿を見てきたがどのメイドさんも流石だ、ザルツも礼儀正しく名乗った。

 ザルツも黒い服を着ていて元気よく一回転をしフリフリなフリルを見せつけてくれた、ザルツに案内された場所は高そうなレストランだった。

 ザルツは椅子を引き「どうぞ」とエスコートをしてくれた、何だか照れくさかったが椅子に座りその後にザルツも座り代わりに注文をしてくれた。

 料理が来るまでエーリヤとの観光の話をして盛り上がった、料理が到着し早速スープを飲んだ、うっまいなこれ上手く言えないけど繊細? な味がする、ザルツは感心する程の丁寧な動作でスープを口に運んでいた。

 ナプキンで口を拭き「今日は甘さと塩味が強く出てますね、でしたら今日のセーペ(スープ)を作った方はあの人ですね」そう言うとノートを取り出し書き始めた。

 最初から真っ黒なページかと見間違える程に視界に黒が写った、試しにノートを見せてもらうと目眩がするほどびっしりと文字が連なっていた文字は潰れていて俺の目では解読出来なかった。

 天才は文字が汚いなんて言うがまさにそれなんだろうか、食事を互いに食べ進めていると「私は別にクオ様がエーリヤ様と結ばれたっていいと思うんです」そんな事を突然言われた。

 一瞬だけ心音が跳ね上がる「別に好きなんかじゃ……」と否定したが、ザルツは持っていたスプーンを一切音を立てずに置き「嘘はいけませんよ、私には分かりますから、だってエーリヤ様とお話されている時のクオ様は心底幸せそうでしたから、あの時だってまさに天国って感じでしたし」指を指され誇らしげに言われた。

 食事の手を止め「俺ってそんな変な顔していたのか……」と一人でショックを受けた。

 ザルツは手を合わせ「美味しかったです! クオ様本日はありがとうございました! 」と言うと机に黒いカードを置き椅子から立ち上がった。

 カードについて聞くと「これで支払っていてください、また今度返していただけたらそれで大丈夫です」と説明し、この場を後にした。

 俺も食べ終わり手を合わせ会計をしに行くと、対応してくれた店員さんは差し出したカードを見て震えていた。

 どうやら特別な料理人にだけ渡される希少なクレジットカードのような物らしい……ザルツって凄いんだなと感心した。

 再び孤独になったので街をフラフラと歩いていると突然肩を掴まれ耳元で「待たせちゃってごめんねクオちゃん様♡」と甘い声が聞こえる、驚いて振り返ると、紫色の髪は左右非対称で、黒い服こそは着ていたが肩と胸元を大胆に晒した服を着た女が目の前にいた。

 まさかとは思うがこいつが最後のメイドさんなのか? 目を疑いたくなったがエーリヤと瓜二つな完璧な礼をしながら「初めましてクオ様、私はピスと申します本日はこのような機会を頂きありがとうございます、これからの親睦も兼ねて是非本日は良い日といたしましょうか」こんな物言いをされてしまっては無理やり納得せざるを得なかった。

 あまりのギャップに意表を突かれ上手く言葉が出てこなかった、女はニタついた笑みを見せながら「クオちゃん様ってホントに魔物なんですかぁ? あたし信じられないな」体を揺らし手を後ろで組んだ状態で近づかれ「顔近くで見てみたいな」突然仮面を思いっきり掴まれた。

 びっくりしすぎてこちらも思いっきり手を振り払ってしまった「ご、ごめん」咄嗟に謝ったが少々不満だった。

 ピスはニヤついた笑顔で「さて、参りましょうか」と手を差し出した、取る事はしなかったがピスに着いていき、しばらく歩き向かった先はエーリヤと一緒に行った街を一望出来る高い崖だった、ベンチに座り街を眺めていた、丁度夕日が出てきたところだ。

 ピスは毛先をくるくると回しながら「堅物と料理バカの相手をするのは大変だったでしょ? でも大丈夫、私はあの二人なんかより退屈なんてさせないから」小馬鹿にしたような言い回しと笑みを浮かべていた。

 二人との出来事を振り返る、二人共変わっている所は合ったがそれでも不満なんて無かったし楽しく過ごせた「いくら同じメイドさん同士でも、そんな事を言うのは不快だ」と不快感を顕にした声を向けた。

 ピスは目を丸くさせ笑った後「ねぇ、クオちゃん様はエーリヤちゃん様の事どう思っているの?」と聞いてきたので「どうって言われても、良い子すぎるよ俺の傍にいるのがダメなくらいに」そんな事いちいち考えなくたって分かる話だ、エーリヤは俺の傍にいていい訳が無いのだから。

 ピスは足を組み頬杖をつきながら「ふーん、じゃあどうして命を捨ててまでエーリヤちゃん様を助けたの?」背筋を刺されたような感覚を覚えた、明らかに他の二人と聞かれている事が違うからだ「そんなの助けたかった、それ以外に理由なんて無いだろ」考えた事も無かった助ける事だけに必死になっていたからな。

 ピスの顔つきが一気に変わったかと思うと「分からない、だってあたしよりも()()()()の事全然知らないくせにそんな理由だけで助けられるものなの? いくら貴方が魔物だからってそこまでおバカちゃんでもないでしょ? 感謝されたかった? 特別になりたかった? それとも魔物らしく体でも目当てだったの?」さっきからこいつは何なんだ、言葉の一つ一つに棘を感じる俺に何を望んでいるんだ。

 目を閉じこの世界に来た時の事を振り返る、色々あったありすぎた痛い事も良い事も全部だ、そんな中で一番輝いていたのがエーリヤの笑顔だった。

 ぽつりと呟くように「好きなんだ……彼女の、エーリヤの笑顔が」色々な笑顔を見せてくれた元気な笑顔、恥ずかしそうに笑った顔、これはあまり良くないけれど俺だけに見せた色っぽいあの笑顔も、色々沢山見せてくれたんだ。

 ふとピスの方に視線を向けると何故か顔を赤くして口元を手で抑えていた、様子を見ていると「ふ、ふふ、いいわぁこういうのだぁいすき♡」恍惚とした笑みを浮かべていた。

 困惑して固まっていると「まさかあたしの友達がこうなるなんてね、ちょっとアドバイスをしただけなのに、ふふ」一人で勝手に盛りあがっていた。

 ピスの話を聞いて今までエーリヤにされてきた行為を思い出し「はぁ、なんだよかった、じゃあ今までのやつはお前の入れ知恵って訳か」と安堵した、そうだよなあんな大胆な行為達が自分の意思な訳無いよな、エーリヤの事だからそのまま言われた通りにやってしまっただけなんだ。

 しかしピスは首を傾げ「何の話? あたしは確かに軽い助言はしたけど、別に具体的に何をしろかなんては……」お互いにハッとした顔になった。

 ピスはニヤつき俺は顔が赤くなった、ピスは馴れ馴れしく肩を組んできた「今後の参考程度にエーリヤちゃん様に何をされたか、あたしに教えてくれませんか〜? あたしにだけでいいんですから」グイグイと迫ってきたので「何の参考だよ、いいから離せ」と引き剥がそうとした。

 結局何とか話さずに済んだが今日一番に疲れてしまった、ピスは笑顔で手を振り先に城へと戻って行った。

 しばらく立ち尽くし、さて帰ろうと夕日に背を向けると意外な人物がそこには立っていた。

 なんと顔を逸らしたエーリヤがそこにはいた「エ、エーリヤ?」と驚いた、城にいると思っていたからこんな所で会うとは思わなかったからだ。

 久しぶりにエーリヤとこうやって向き合って話した気がする、体は成長したはずなのに心は未熟なままだった、何か話したいエーリヤともっと話したい一緒にいたいのに、声は出なかった。

 何でだよメイドさん達との時はこんな事無かったのに声がかすれて上手く出ない、一言、たった一言だけでいいから頼むから、と必死に捻り出し「エーリヤ話したい事が」何とか声は出たようだ。

 言えた俺でも言えた、やっとエーリヤに話しかけれた、そのままの勢いで「よかったらこのまま一緒に街でもまた見に行かないか」思わずガッツポーズをしたくなった、奥手だとか関係無かったんだ、このまま慣れていけばもっとエーリヤの事知れるかな。

 しかしエーリヤは「すみません、私よりも他の方とお出かけになる方がいいと思います」いつもの笑顔、いや寂しそうな顔をして俺に言った。

 あれ、何で胸がこんなに痛いんだ肩を貫かれた時や腕を斬り落とされた時よりもずっと痛かった、胸を抑えながら声を絞り出そうしたが、そもそも息が上手く吸えなかった。

 エーリヤは深々と礼をすると、離れていこうとしたので引き留めようと手を伸ばした「エーリヤ待っ……」伸ばした手はエーリヤに触れる事は無く、宙を空ぶった。

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