【35話】次章への目次未満のお話
食事を終え、部屋に戻ってベットに寝転ぶ事をせずに机に向かい、ペンを取り執筆をする。
少し考えていた事を書くだけだ、思った事がある、俺という存在は邪魔であると、この城、つまりノア達の家に、従者でもなければ人間でも無いオークの俺が居続けるのは、おかしいのでは無いのかと思ってしまったんだ。
目を閉じると、走馬灯のように体験してきた事が巡ってくる、これからもこんな経験が待っていると考えると中々に楽しみなようで不安でもあった。
『今まで世話になった、迷惑もかけ続けたのに
勝手な判断でごめん、本当に皆には感謝してる
俺の事は気にせずに幸せに暮らしてほしい』
ひとまず書き終え、腕を伸ばしていると、控えめに扉を叩く音が聞こえてきたので対応すると、シフィが居た。
「シフィか、どうした? 寝れないのか」
シフィは頷き、部屋に入りたそうにそわそわとしていた。
「別に入っても構わないぜ、まぁ寝るなら自分の部屋でさえ寝てくればな」
意図をくみ取り、笑顔で歓迎しても、シフィは何も話さずに俺を見つめるだけだった。
「何か言いたい事があるならゆっくりでいいぜ、飲み物とか欲しいなら取ってく……」
急にシフィは何も言わずに抱きついてくる、数秒だけかと思っていたが、むしろ強く抱きしめられ、離れる気配は無かった。
「な、なな……俺は抱き枕じゃないって」
やっぱりおかしい、心音が尋常じゃないくらい苦しい、嫌って訳ではない、むしろこれは、これは……意識をしないように目を固く閉じ、必死に思考を分散させる事を徹底した。
しばらくしてからシフィが離れたかと思うと、次は手首を掴まれ軽く捻られて、シフィはやっと口を開く。
「ほら、この、手、の、側面、が、真っ黒、に、なるやつ、私も、よく、なって、た」
明らかに勘ぐっている内容だった、手紙を今見られては元も子もないので必死に隠す事を俺は選んでしまった。
「だ、だから何もしてねぇって」
逸らす俺に対して、シフィはまっすぐだった、変わらない姿勢で言葉を紡ぐ。
「嘘、つい、て、たら、許さ、ない」
一瞬だけシフィに目線を送り、また逸らしながら嘘をつく。
「嘘なんかつく訳ないだろ」
言い終えると同時にシフィは、ついさっき俺が書いていた置き手紙を取り出す。
「クオの、嘘つき」
怒りと悲しみが混じったような顔でシフィは詰め寄ってくる。
「いつの間に……」
やらかした、既にバレている上で嘘をついてしまった、せっかくの計画が潰れた上に傷つけてしまった。
手紙を縦に引き裂かれ、シフィは苦しそうに吐露する、普段の棘のある言い回しと態度は枯れていた。
「何で、せっ、かく、皆、居る、の、に、何処、かへ、行って、しま、うの? 私の、せい? 私には、嘘、ばっかり、ついて、私が、邪魔、なら、言ってよ、クオが、居なく、なる、方が、私は……」
違う。
肩を強く掴みながら力強く言ってしまう。
「ふざけないでくれ、俺がいつシフィが邪魔だって言ったんだよ」
驚いた顔を見て浮かぶのは、ありえない行動と言動の数々、あぁ、したんだ、酷い事を、手が震え出し、肩から手を離す。
「ごめん、なさ、い、クオ」
謝られた、シフィは何にも悪くないのに、すぐに謝り返す。
「いや俺の方がごめん、急に怒鳴ったり……あんな事をしてしまったのに」
震えが止まらない、邪魔な存在はどう考えたって俺なのに、そんな確定事項を否定するかのようにシフィは震える俺の手を優しく握り、微笑んでいた。
「分かって、る、よ、あの時、の、ク、オ、は、いつもの、クオじゃ、ないって、ちゃんと、理解してる、それ、に、嬉しい、の、大、切に、思わ、れて、こんな、に、強く、怒られ、た、事が、無かった、から」
まるで彼女を彷彿とさせるその笑顔に自然と震えは止まっていた。
ただしばらくして、ハッとしたような顔になりシフィは訂正をしだした。
「あ、待っ、て、兄様も、ちゃん、と、怒って、くれて、いるの、でも、優、しい、から、怒って、ても、全然、怖く、な、い、だけ、それ、に、兄、様に、迷、惑、なん、て、かけ、たく、な、い、から、怒られ、た、事が、そん、な、に、無い、の」
慌てて誤解をさせないように説明をされたが、何だか可愛く思ってしまって笑ってしまった。
態度が改まり、シフィの顔は赤くなり、さっさと手を離したので、話は終わったか思うと普段通りの薔薇になる。
「仲直り」
見慣れたシフィに戻り、安定感を覚えつつも首を傾げた。
「さっきしたじゃないか」
文句を言った態度がまずかったのか、シフィの刺々しい態度は鋭さを増した。
「い、い、から、目を、閉じ、て」
これ以上棘を突き刺される訳にもいかないので、仕方なく目を閉じる、手に感触がある訳でも無く、抱きしめられている事もなく、程なくしてから唇に一瞬だけ柔らかい感覚……と言うにもあまりにも一瞬すぎる触れが合った。
呆然としながら口を手で触れながら動揺する。
「シフィ、さっき何し」
そこには顔を真っ赤にしたシフィが指を俺に刺しながら、子どものようにからかってきた。
「バーカ! 私が、キス、なん、て、する訳、ない、じゃない、指、先を、当てた、だけ、興奮、しな、い、でよ、クオの、バ、カ」
そう説明されたのに互いに顔が赤くなり口数が減っていく、顔を合わせようとしても慌てて逸らすばかりだった。
結局沈黙に慣れてきてシフィが口を開き出す。
「とも、かく、勝手に、出て、い、く、のは、やめて、ちゃん、と、行き、先、とか、言って、くれるなら、別、に……少し、なら、我、慢、する、よ」
すぐには返答が出来なかったが渋々頷くと、シフィは心の底から安堵したような笑顔を浮かべていた。
「おや、す、み、クオ」
それだけを言って部屋から静かに出て行った。
眠りについてから朝になって飯を食うまで頭の中を働かせていた、結局言うべきか、黙って出ていくか、その二択だけの問題で頭を悩ませ続けた。
釘を刺されている以上は黙って出て行くなんてどうかと思うが、やっぱり自分の存在に価値も何も見出せない、皆に無理をさせると思ってしまう。
かと言って言いに行くのも大変だな、自分の意を言うのは苦手だ、それに、もしもの話だけれども、もし、俺が出て行くって言って喜ばれたらって思うと少し苦しくなる、おこがましい考えなんだけどな。
ため息の回数が増えていく、覚悟が決まらないままノアの部屋前まで着いてしまった、扉に手を伸ばそうとするが肝心な所で手が止まり、何度も同じ動作を繰り返すばかりだった。
やっぱり俺は変わらないな……自身に落胆し、やはり勝手に出ていくべきなのだろうかと、考えが傾きかけたその時に、背後から声が聞こえる。
「おはようクオ殿、俺に何か用だろうか」
驚いて振り返ると、ノアが嬉しそうに立っていた。
部屋に居なかったのかよ、と思いつつもこうなってしまった以上は後に戻る事も出来ないので、意を決し、自身の旨を伝える。
「いや、あの……俺さ……ここから出て行こうと思っているんだ」
ノアから笑顔が消える、何故? 嬉しくないのだろうか、困惑していると深刻そうな顔になりながらノアは言う。
「あぁ……すまないが少し待っててもらえるか」
そして、らしくもなく慌てて走って何処かへ行ってしまった。
困惑が増すばかりだった、こんなオークの俺にあのような反応をしてもらえれる価値なんて無い、罪悪感すら湧く程だ。
後々、これから起こる出来事に自身の考えを改めるきっかけを得る事になる、軽率に軽んじる発言をするとどうなるのか、そして自分自身と向き合うきっかけ、目標を見つけるきっかけとなる。




