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【31話】狂愛

 ハッと目が覚めると、顔を赤くしたシフィが震えていた。

 状況が分からず、ぼんやりした顔でシフィを見つめながら声をかける。

「あぇ、シフィおはよう」

 体を震わせながら俺を引き剥がして大声を出す。

「早く、どい、て......変、態、バ、カ、バカ、バカ!」

 驚いて謝りながら慌てて部屋を飛び出す。

「え、ご、ごめん」

 何でシフィはあんなに怒っているんだ? 意識を失う寸前の温もりと柔らかさを思い出すと一つの最悪な憶測が浮かび、顔が青ざめていく。

 これが終わったらすぐ謝らないとな......何とか気持ちを切り替え、再び戻って来ると、やはりピスが待ち構えていた。

「酷い顔」

 無感情のまま呟くようにピスは言う。

 頭を軽く掻きながらそれに答える。

「そりゃ俺オークだしな」

 ピスは目を伏せながら塩らしくしていた。

「......あたしは今までクオちゃん様の顔を見ても何も思わなかった、何で今更罪の意識に駆られているのか分からない」

 先程とは打って変わって態度が一変している、俺が居ない間に一体何があったのだろうか。

 ゆっくりと歩み寄って来られ、もたれかかられる、その顔は泣きそうだった。

「お願いだから......知らないって、俺は何もやってないって、それだけでいいの」

 縋るような言い方だった、そうか、信じてくれてたんだな、拳を握りしめ、その思いを突き放す。

「皆に酷い事を言ったのも、許されない行為をしたのも全部俺だ」

 事実からは逃げられない、どれだけ信じてくれていても裏切ってしまった、俺は自分の行動を受け入れて行くしかないんだ。

 ピスは肩を震わせ、その場で勢いよく膝から崩れ落ち、我慢もせずに声を上げ泣いていた。

「何で......嘘ついてよ......あたし、信じたくないのに......クオちゃん様はそんな事しないって......あたしは......」

 顔を手で覆って泣いていた、そんなピスを横切り、静かに声をかける。

「待っててくれ、今度こそ、ただいまって胸を張って言うから」

 そして扉を開けると、腕を強く引っ張られ、部屋へと引きずり込まれる。

「やっと......来てくださった」

 真っ暗な瞳の中には俺だけを写している、さぁ、後は君を連れ戻す番だ。

 招かれた部屋の異質さに息を飲む、暗過ぎる、外はまだ明るかったのに暗かった、窓にはきっちりとカーテンが掛けられ、陽の光を一切受け付けていなかった。

 全体的に薄暗く、こんな部屋にずっと居たらおかしくなってしまうのではないかと思ってしまった。

 エーリヤは嬉しそうに近寄り、手を握ってくる。

「ずっと待ってたんですよクオ様、この体をいつでも使えるようにちゃんと仕込んでいました」

 顔は赤く、あの時と変わらない格好でうっとりとしていた、目線が下がらないようにしっかりと上で固定し、顔を見つめる。

 エーリヤは嬉しそうだったが、俺の異変に気づくと心配そうに声をかける。

「どうしたのですか、その怪我も、服装も」

 しまったな、傷はともかく服も破いたままだったことを忘れていた、でも心配してくれて嬉しいな、やっぱりエーリヤはちゃんとエーリヤじゃないか、ちょっと気が立ってしまっただけで、ちゃんと話し合えば......。

「殺さなきゃ」

「え」

 今、エーリヤの口からとんでもない事が聞こえなかったか? 思わず昔の事を思い出して吐き気を覚える。

「クオ様に酷い事をするなんて、あぁ可哀想なクオ様、誰がしたのですか? 言ってください、命じてください、私が殺しますから」

 本気だった、目は見開いて、口の端をひきつらせて、呼吸を荒くしていた。

 握られ続けている手を握り返し、必死に否定する。

「違うんだエーリヤ、ちょっとやんちゃしただけで」

 握り返されたのが嬉しかったのか、ひとまずエーリヤは静かになり、しばらく手が触れ合っているのが続いた後、エーリヤは俺の露出している胸に触れ、心臓ら辺を指先で撫でる。

 くすぐったくてゾクゾクとした感覚を覚える、こんな状況だというのに心臓がざわめき出す、俺の馬鹿野郎が、誰のせいでエーリヤが傷ついたと思っているんだ。

 うっとりした瞳で見つめ続けられる、何かを待っているような期待を込めた瞳だ、話の主導権を握る為にエーリヤに声をかける。

「そういえば髪結んでるんだな、よく似合ってるよ」

 エーリヤは嬉しそうに笑い、結んだ髪の毛先を指に絡ませながら答える。

「これはですね、クオ様に後ろから愛していただく時に使えるように結んでおきました」

 一切頭の中に無かった単語が出てきたので、思わず聞き返す。

「後ろ? 愛?」

 すると、エーリヤは背を向け、こちらに軽く尻を突き出して自身の髪を掴みながら

「これなら私の髪を引っ張りながら、愛していただけますよね?」

 嫌でもその意味が分かってしまった、俺はそんな乱暴な事も、そんな......こ、行為自体も出来る訳が無いし、何よりもう二度と傷つけたくなかった。

 そんな俺をよそにエーリヤは話し続ける。

「服はこのままの方がしやすいので着替えませんでした、頬は貴方様につけていただいた奴隷の証、絶やすことなくずっと私が残し続けていますから」

 ああ......ここまで俺は......今一度自身のやらかしが重くのしかかる、早くエーリヤを正気に戻さないと、固く意を決していると、エーリヤがニコニコとした笑顔で迫ってくる。

 迫るエーリヤの肩を優しく掴みながら

「ひ、ひとまず寝ようか、エーリヤおやすみ」

 逃げた、怖気づいてしまった、正真正銘エーリヤと話しているのに、底が見えない闇のようだった。

 そんな態度を取ってしまったというのに、エーリヤは

「おやすみなさいクオ様」

 と、表情が変わる事無く、おやすみを返してくれた。

 寝よう、寝たら一旦はリセットが入る、明日の俺が何とかしてくれるはずだ、早急に解決しないといけない事くらい分かってはいるが、適度に休まなきゃとてもじゃないが受け入れられない。

 目を閉じ、程なくして、下半身に振動と重量を感じ目を覚ます。

 今、何をされている? 上からエーリヤに見下ろされていた、エーリヤが俺に跨っている。

 聞いているだけでもおかしくなりそうな、エーリヤのよがり声が響く。

「っあ……んっ……ふふ……残念、起きちゃいました」

 心臓が、なんて話じゃない、息をしているはずなのに呼吸が止まっているのかと錯覚する程に、焦りに駆られる。

 エーリヤを支えようと手を差し出し、即刻辞めるように訴える。

「エーリヤ、おり、降りて、こ、この体勢はよくない、本当に」

 頭がパニックになる、いくら脱いでいないからっていい訳が無かった、誰がどう見たってモロな状態だからだ。

 目を細め俺の反応を楽しんでいるのか、わざとらしくねっとりと体を動かされ、楽しそうに笑っている。

 落ち着け、早く、早く、どうにかしないと堕ちる。

「エーリヤダメだって、い、今すぐ辞め……」

 快感と焦燥で顔がぐちゃぐちゃになって泣きそうになる、最低な事に気持ちいいと感じてしまった、俺がエーリヤをこんな状態にさせてしまったというのに本当に最低だ。

 エーリヤはひとしきり俺の反応を楽しんでから、ゆっくりと体が離れて行き、そして耳元で囁かれる。

「こんなに反応してしまうのなら、言ってくださればいいのに」

 鳥肌が止まらなかった、僅かな理性で平静を取り繕う事に必死だった。

 エーリヤは距離を置き、両手で頬杖をついてうっとりとした顔で俺を見つめ続けていた。

 急いで起き上がって座り、必死に目を擦る、とてもじゃないが寝れない、というより寝たら襲われる。

 こんなのって軟禁されているのと同じじゃないか、精神がすり減っていくのを感じる。

 こうして俺とエーリヤの二人きりの軟禁生活が始まった、常日頃から気を張っていなければならない生活を強いられる、そうしなければもう二度と元に戻れなくなる事を理解させられた。

 エーリヤは常に俺の様子を伺っていて、口を開いて話す言葉は

『命令は?』

 だけだった、その都度に笑って誤魔化したり、何とか命(・)令(・)じゃないという事を念頭に押してエーリヤと話す。

 常に常に常に気を張る、時間を言い方を表情を、間違っても命令をしてはいけない、このギリギリの関係を壊さないように終わらせないように、常に、常に......永遠に。

 ダメだ……眠すぎる、もう何徹してるんだ、まるでだるまさんがころんだをしているかのように、エーリヤは目を開ける度に接近して来る。

 涙が出る程に強く目を擦って少し距離をとる、失礼な事だって分かっている、でも無理だ、正解が分からないんだ。

 張り付いた笑顔でエーリヤは詰め寄って来る。

「いい加減に命令していただけませんか? 」

 壁際へと追い詰められる、逃げる気力なんて残ってない、何とか笑顔を意識しながら

「命令なんて......俺はこうやってエーリヤと一緒に居れるだけですごく嬉しいよ、やっと帰ってこれたんだって」

 この状況が嬉しい、か、本音と建前でしかない、さっきの発言って俺ちゃんと笑って言えてたよな、頭をずっと働かせているせいか、ダメな方のスッキリとした感覚になる。

 一瞬でも気を抜くと普段以上に意識が無くなってしまう状況の中で、エーリヤに一気に近付かれて手を握られる。

「あ」

 油断した、終わっ――。

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