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【24話】一つの器に二つの魂

 ......? 頭が痛い寝すぎた、目が覚めたはずなのに暗闇の中に何故かいる、目を開けているはずなのにと頭を押さえた。

そんな時に怒号が飛んでくる。

「はぁ? なんでお前がここにいんの意味わかんない」

いきなりなんだよ、と声のした方を見て小さく悲鳴をあげた。

 なんだよあの球体、浮いてるしなんか羽が高速で羽ばたいてて気持ち悪い......それに多分俺? にキレてきてるし意味わかんねぇよ......あれ、なんだこの既視感は、俺は何か忘れている? 大切な人達を......好きな人の事を......俺は忘れている? 気がする。

 ひとまず球体に声をかけようと思い口を開くと

「あァそうかそういう事か、オレは運がいいみたいだなァ」

ゾッとした、発したかった言葉とは全く違う事を口走る、それにその声は自分の声のはずなのに自分じゃないように聞こえた。

 誰だ? こんな一気に来ないでくれよ何も分からないっていうのに、だって俺はいつも通り寝て起きてを繰り返してたまに漫画を読んだりゲームをしたりをするだけの日々を無駄に費やしてるだけの、空っぽな()()なのに。

あれ、俺の手ってこんな緑色だっけ? なんかの病気にでもなったのか、でも病院行くのもめんどいしなぁと考える。

 ダメだ自分が分からなくなってくる

『じゃあオレが教えてやるよォ、ギヒヒ』

頭の中で知らない声が答えた、その声はこの世の悪意を全て孕んでいるような不快感を感じさせる。

 お前は誰だ

『オレはクオリクト、リクトでいいクオなんてツマンネェダサい名前で呼ぶなよ』

意味がよく分からなかったが、ひとまず首を縦に振った。

リクトは満足そうに笑い、俺の置かれている状況を説明してくれた。

『まずお前はとっくに死んでる、んで今はニューゲームの真っ最中だ、オレはまァ......お前のガイド、お前を......はァ......助ける存在みたいなもんだ』

唐突にお前は死んでいると言われてどう反応するか、答えは簡単だ、理解が出来なくてパニックになりかけるだ。

 リクトのため息が聞こえた後

『落ち着けよ、なんて言ったけな()()()()()って言うやつだっけか、ともかくお前はもうじきしたら女から近寄ってくるほどモテるんだよ、ハーレムだハーレムこれで分かるか?』

胸の高鳴りを感じ、理解が出来た気がする。

 皆が憧れる異世界転生を出来るなんて思ってなかったのでパニックになる事はなかったが、まさかこの俺がそんな夢のような体験が出来るとは思っていなかったのでリクトを無視して流れ続ける水のように色々とはしゃいで口走る「異世界転生っていうからにはもちろんチートとかあるんだろ? 俺どんなチートあるんだろうな、あーでもチートでハーレムっていうのはなんか違うしな無理やりとか好きじゃないし、いやぁ何人の女からモテるんだろうな、いやいやモテるのもいいけれど俺がどれだけイケメンになるか気になるな......」一瞬だけ舌打ちが聞こえたがリクトはそれ以降特に反応は示すことはなく、俺は異世界への期待を膨らませていった。

 しかしそんな良い雰囲気も壊され球体が目前に迫り俺に詰め寄る「おいお前さっきから誰と話してるんだ」表情も感情も見えないのに怯んでしまう「ひっ、お前はなん......」リクトの声がする『変われ』たった一言だったが不思議と頼もしく聞こえた、目を閉じ耳をすましてみた、交代の仕方なんて分かるわけなかったからだ、そして息が出来なくなる感覚になる、あぁよく分かったこうやれば交代出来るのか、どうせ俺じゃ何にも出来やしないし申し訳ないけれど頼るしかないか()()()()()に。

 意識も体も感覚がなくふわふわとした感覚に包まれる「ギヒャヒャッ! なんて愉快! なんて素晴らしいんだ! オレは戻ってきたぞ」リクトさんの楽しそうな声がする興奮でもしてるのだろうか彼の楽しそうな気持ちが伝わってくる、いや伝わるというよりもろ俺がその気持ちに浸っているという方が正しかった。

 チカチカと球体は点灯と消灯をを繰り返しながら「お前彼に何をしたんだ、よくも勝手なことをしてくれたな」球体は何かに対して怒っている様子だった、でもそんな事どうでもいい、今はこの高揚感に浸っていたい俺一人じゃ味わう事なんて一生なかったこの気持ちに。

 リクトさんはひとしきり笑い「誰がお前なんかに教えてやるかよバァカがよ! あばよ()()()()()笑」そう言って走り出した、高揚感を残したまま次は疲労感に包まれる、なんで俺も疲れているんだろう俺は走っていないのに不思議だった、段々と加速していく体にリクトさんは疲れていないのだろうかと思う。

 だが次の瞬間には高揚感も疲労感も吹き飛ぶはめになる、落ちている真っ逆さまに下へと「うわぁぁぁぁぁ!」とてつもない高所から下降するジェットコースターに乗っているような強烈な浮遊感を体に叩きつけられる、何考えているんだこの人は何で自殺行為なんかまだ可愛い女にすら会っていないのに、このまま何もせずに死ぬなんて嫌――ぐちゃ、その音は骨が折れただけの音なのか内蔵が潰れてしまったのか、それとも体がバラバラになりミンチにされてしまったのか今となっては知る由もない......知りたくもない。

 悲鳴を上げながら飛び起きる全身は汗で濡れていて自分が今生きているか確認するために胸に手を置き鼓動を確認する、かなり早いリズムだったがちゃんと俺は生きていた、そういえばリクトさんの反応がないな、あの人も大丈夫だろうかと不安になる。

 俺が騒いでしまったせいか扉が開き、背の高い騎士のような格好をした黒髪の男が部屋に入って来た、男は俺が起き上がった事を視認すると嬉しそうに口を綻ばせた「よかった目が覚めたようだな、早く皆に知らせないとな」どうしよう誰の事だか全く分からなかった。

 動こうと話そうとしない俺を見て男は心配そうに声をかける「まだ体調の方は優れなかっただろうか、一応皆に起きた事は知らせてくる、君の大丈夫なタイミングで皆が無事に帰ってきた事を祝おう」よく分からない覚えていなかったが、聞いてきて楽しい気分にはなれた。

 なれたはずなのにリクトさんは俺とは違うようで、何故か段々と不快感と怒りが湧いてくる「あァそうだよ気分さいてーだよお前のせいでな」え、リクトさん何言っているんだ、というよりいつ入れ替わったんだ? 困惑しているとリクトさんは信じられない事を口にする「お前の事が嫌いで嫌いで仕方ないんだよ昔からずっと、だからさァ、さっさと死んでくれよそしたらオレの気分も晴れるんだわ」困惑で挟まれ混乱する。

 今『死んでほしい』とリクトさんは言ってしまったのか? こんなに怒りが湧いてくるのだから何か事情はあるのだろうけれど、だとしてもそんなはっきりと嫌いとか死んでほしいとかってそんなのって。

 しかし男は怒りや蔑む顔をする事もなく「やはりそうだよな君にそう願われるくらいの事を何度も俺はやってしまったのだから仕方のない事だ」そう言って目の前の男は剣を取り出し信じられない事に自らの首に当てだした。

 は? え、え? いやいやありえないって何で死ねって言われてその通りにするんだよ、もしかしてチートってこの事か? だとしてもそんな事俺は......気分が悪くて仕方ないのに快感が達成感が込み上げてくる「ハハッ、信じられねェあの仮面騎士サマがオレの言う通りに死ぬとか、こんな光景が味わえるなんてなァ!」慌てて口を抑える、違う俺はこんな事望んでいない、知らない人間だから男だからなんだというんだ見ていて気分のいいものなんかじゃない。

 それなのに何故か高揚感に俺は包まれていた、それはつまりリクトさんはこの男が死ぬ事を望んでいるという事だ、リクトさんが喜んでいるからこれはきっといい事なのだろうけれど、それでも俺は耐えられる気がしなかった。

 男の首に刃がくい込んで行く「何度も迷惑をかけてすまないが適当な理由をつけて俺は死んだという事にしといてほしい、シフィの事は君に任せるよ、どうか俺の代わりに幸せにしてほしい」微笑んでいた優しい顔で、とんでもない要求をしたというのに。

 重い体を動かし男から剣を奪い取り地面に投げ捨てるその際に思いっきり刀身を掴んでしまった為、手がズタボロになり傷だらけになった「馬鹿野郎......なんで俺に言われたからってこんな事平気で出来るんだよ、お前は馬鹿だよ本当に......自分で考えてくれよおかしな事だって、そのシフィって子に迷惑がかかるって思わなかったのか」手が痛い剣の部分を掴むなんて馬鹿らしいのに他に何も思いつかなかった、体がそう動いてしまったってやつだ。

 男は驚いた顔になり、礼を言う。

「ダメだな俺は君に言われてから気づく事ばかりだ、すまなかった俺はもう一人じゃない事を忘れてはいけないな、ありがとう()()殿()

クオ? これが俺の名前? 適当につけた名前みたいで俺らしいな、なんて少し笑えた。

 男は剣を拾った後、少しだけ剣を持ったまま立ち止まり俺に頭を下げてから部屋を出て行った。

仰向けにベッドに倒れる、多いって色々と......頭が痛くなる、なんで俺が知らない事だらけなんだ、どうなってるんだよ意味わからねぇよ。

もう寝よう、寝て全部リセットしよういつもそうしてきた、異世界転生しても結局変わらないな俺って。

 眠りにつこうとすると誰かに馬乗りになられる感覚になり首を絞められる「おいなんで邪魔した」その声には激しく怒りと憎悪がこもっていた、俺は首なんて締めていない自分の手はシーツに触れていた、触れていたんだ今は抵抗しようとして俺の首を絞める見えない手を引き剥がそうと意味もなく足掻いてるだけだ。

 リクトさんなんで? どうして俺を殺そうとするんだ、じゃあ俺は誰に頼ればいいんだ、一人じゃあ何にも出来ないんだよ俺は。

それなのにずっと一人で引きこもって、空っぽで俺は生きていたって無駄に日々を刻んでいるだけで、だから別に死んだって構わない、構わないけれど何かしたかった。

別に英雄になりたいとか名誉が欲しいとかじゃない、人の役にたってみたかった、少しだけ一度でいいから感謝されたかった。

『ありがとう』

と言われたかった。

 涙が一滴の雫となり流れ落ち、全身の力が抜け、腕も肩も沈んでいく、まともな意識なんて無い。

脱力感と空虚で満ち視界が静かにフェードアウトして行く、悲しいけれど俺の二度目の人生もここで終わりのようだ。

正直リクトさんはまた何かやらかすだろうとは思っている、不安だった、誰がそれを止めるんだろう。

そう分かっているのに、今は抗うことの出来ない無気力に襲われ目を閉じる、荒波が立たぬ事を祈りながら。

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