【23話】芽生え
そう俺の考えは「二人とも助けてくれ! 今縛られて身動きが取れないこのままだと連れてかれるあの女生きてやがったみたいだ、あ、上に糸があるから絶対気をつけてくれよ」当然助けを呼ぶことだ。
これにはあの魔女ですらも唖然としていた「……貴方正気? あの二人の邪魔をするなんて」蔑まれているのがよく分かる「ははっ、頼って何が悪い逃げて何が悪いんだ、俺は成長しているんだよそこがお前との違いだ」カッコ悪くてもいい、無事に帰る約束を守る為だ。
俺の警告を聞いたノアは瞬時に上に潜む糸を切り、すぐに俺の傍まで来てくれて糸を切ってくれた「助かったよノア、ごめんな邪魔して」ノアに礼と謝罪をし再び握手を促した、ノアはそれに対し力強く握り返し「こんな事で君からの礼も謝罪も必要ない、俺は何度も君に助けられているのだから、むしろ俺の方が謝らせてほしい本当に何度もすまないクオ殿、心から君に感謝を」手が強く痛むくらいの固い握手を交わし合う、ノアが長くに続く呪いから解放された瞬間と思いたいのは俺の我儘だろうか。
そんな雰囲気を壊すかのように「あーあ皆酷いわ、人形は大切にしないとでしょう?」そう言って姿を現したのは首無しの魔女の胴体とその胴体に抱き抱えられた首だった、その姿は人間と言うには程遠くまさに人の形をしている作り物でしかなかった。
魔女は何も持っていない左手を上に掲げ手を下ろす、ノアと共に警戒していたが糸が襲ってくる事はなく代わりにずっと会いたかった人物がおぼつかない足取りで姿を現す、目は虚ろで体はフラつき今にも倒れそうだったが間違いない、エーリヤだ。
やっと会えたやっと皆揃った「エーリヤ!」今までの疲れがなかったかのように叫び駆け寄ろうとする、しかし歩みは止まってしまう、またしても魔女がハサミを持ちエーリヤの首に突きつけていたからだ。
剣を取り魔女の首に向ける「エーリヤに何する気だ、ずっとお前はエーリヤに狙いを向けていたみたいだが」魔女は笑って答えになっていない答えを返す「本当はね、皆と同じように導きたかったのだけれども誰かさん達のせいで私の体は首と胴が離れ離れになってしまった、でもちょうどよかったわそろそろこの体も使い続けてボロボロだったし、だからねこの子の体を使うわ」気味の悪い笑顔だった。
吐き気が込み上げてくる何を言っているんだ、まさかエーリヤをバラすと言っているのか? 浮かぶのはあの処刑の日の事、せっかく回避したというのにもう危ない目には合わせないと誓ったのに、ダメだ早く取り返さないと、落ち着け焦るな今までもなんだかんだいってここまで来れたんだ、エーリヤだけ救えなかったなんて事は絶対ありえる訳がない。
絶望的状況に陥っていく中で魔女の首が楽しそうに笑いどこかを見ている「ねぇ、マリーこのままでいいの?」憎たらしい事にシフィによからぬ事をしているみたいだ「私?」自身に矢印を向けられシフィは困惑する「ええ貴方よ私の可愛い子、このままでいいのかしら、このままだと全部そう全部貴方が望むもの欲しいもの全てがこの子に取られてしまうわよ」ノアと共にシフィを守るように立ち塞がる「シフィにもう手を出すな」「減らず口が続くようならもう一度お前の首を斬る」魔女は俺達の発言は無視をしじっとずっとシフィを見ていた。
それに対しシフィは「だか、ら、なんだと、言うの、貴方、には、関、係、ない……そん、な、事、分かって、る、最初、か、ら」ときっぱりとした態度を見せる、よくやったと思わずシフィの頭を撫でてしまう驚いた顔をされ「クオの、バカ……」と頬がほんのりと赤くなりそっぽを向いた、え、何でと困惑しているとシフィはとっくに成人している事を思い出す「あ! ごめんシフィ、そうだよなシフィはもう大人だというのにベタベタ触ってしまってごめん」そう謝ってもシフィはこちらに顔を向けてはくれなかった、次からは徹底して気をつけないとな、と固く心で誓った。
そんな一時のわちゃわちゃも嘘のように切り替わり再び絶望的状況へと一転する、魔女は鋭利なハサミをエーリヤの首に突きつける、遠目から見るともはや刺しているようにも見えた、目から離れない網膜に焼き付く、やめろやめてくれ思わず憎んでいる相手に懇願してしまうくらいに嫌な焦りが込み上げてくる「そんなにこの子が大切なの? だったらこの子の体を手に入れて貴方を導いた後に沢山遊んであげる」そう言って刃先が喉元に当たる当たってしまった。
流れる赤が血が見たくなかった、大量出血じゃないからなんだ即死じゃないからなんだというんだ、傷つけられた傷つけてしまった事が問題だというのに避けたかった、君に傷も血も出来てしまう事が嫌だった。
壊れる、ナニかが壊れていく、目の前が赤く染まって、あぁ(ノイズ音)したい、声が聞こえてくる「あァよかったお前に殺意があってくれて」俺の声なのに俺じゃない声「憎いだろ? 悔しいだろう? だったら変われ」誰だお前は「お前はあんな綿の詰め物にエーリヤを好き勝手されていいのか?」無視かよ、良い訳ないだろ「そうだろう、だったらその体」腹に熱い痛みを覚える、どうして俺は「さっさと返しやがれ、この寄生虫が」どうして俺は俺自身に刺されているんだろう。
意識が容赦無く途絶える、そもそも最初から俺の意思なんてなかったのかもしれない、今まで見てきた経験した事は全て嘘で妄想でただの夢で、そもそもの話馬鹿馬鹿しい話だ人間がオークになるなんて。
――本当にバカみたいな話だこんな腰抜けの蛆虫に体を取られていたなんて、全身をほぐすように腕を回し体をひねり周りを軽く確認する、意味が分からねェ腐れ騎士と仲良しごっこしてる事も、知らねェ女もいる事も訳が分からねェ事だらけだ。
唯一、詰め物だけは気づいたみたいで「貴方は誰かしら?」とオレに尋ねる「どうだっていいだろオレの事なんか、それに今から死ぬ奴に教えてもねェ?」と一蹴し嘲笑う、視界に収まるのはエーリヤただ一人、おいおいなんだよあの目は既に仕上がってますってか? やっぱいい女だな早くお前を抱きたくて仕方ねェわ。
そうとなればと舌なめずりをし剣を詰め物に向け走り出す「貴方状況が見えてないのどう考えたって私がこの子をバラバラにする方が早いわ」詰め物はそう言ってエーリヤにハサミを突きつけようとしていたのであっさりと腕を切り落とし呆れる「ヘェそれで続きはどうやるんだ?」おいおいこんな雑魚に全員苦戦してたっていうのか?笑わせないでくれよ。
エーリヤを抱き抱え詰め物を嘲笑う「久々に体を動かせると思ったらオレにこんな雑魚をあてがうのかよ」こんな奴に構う時間が無駄だ、蹴り倒し剣を上で構える「あ、終わっちゃう」その声色は悲しそうにも無機質にも聞こえたが、人形ごときに肩入れする必要も無いだろう? 何度も何度も何度も何度も何度何度何度滅多刺しにする血も臓器も出ないからつまらなさを感じたがまあいいだろう「とっとと朽ち果てて一生死ね」そうして白い綿や無駄にリアルな皮膚がぐちゃぐちゃに潰れるまで踏み続けた。
ようやく片付いたかさてと、エーリヤの心臓ら辺に触れると脈が返ってくるのを感じる、冷たくも硬くもない土まみれでもない生きている、生きてるあァ生きているんだそれがどれ程素晴らしい事かを知っているのはオレだけだろうな。
心が浮つくニヤけが止まらない「ギヒヒ、たまんねェな早くお前を抱いて抱いて抱き潰......」段々と顔と体に熱を帯びていくのを感じる、なんだこれは何故続きが言えない? 何故俺は恥じているんだ? ふざけるなよこんな感情知らねェってクソが、意識がない間に俺の体に何しやがった、あの寄生虫の蛆虫野郎やってくれたな、クソが面白くねェよ、やっと生きているエーリヤを抱けると思ったのに。
未体験の感情と熱に何も出来ずにいると手を握られ心臓が飛び跳ねそうになった、段々と心音のボリュームが上がっていく中でエーリヤと目が合った、どうやら意識が戻ったみたいだ、らしくもなかったがその目が綺麗だと思った。
熱くて痛くてでもそれが心地よくてナニかを満たしていく感覚があって、知らねェってやめろこんなの知らない知る訳が......思考をめぐらせている間に手をより強く握られる「クオ様......」その甘ったるい声と顔も今まで一度も向けられた事なんて無かった。
体にしか興味なんてなかったのにこのオレが可愛いと思ってしまうなんて、かわいい? 意識した意識してしまったそしたら後は堕ちるだけ、もう自身の心音しか聞こえない顔も体もずっと熱い、意識が遠くなりそうだ、せっかく取り返したのにこのままだとまた乗っ取られる、何とか意識を保とうとしたがそんな努力も虚しくエーリヤの顔が近づいて来ている事を認識した瞬間に心音が暴れ狂いだす。
ありえねェってコイツ正気か? オレはオークだぞ何故自ら近づく事が出来るんだ、理解が出来ないオレをほったらかしにし「またご迷惑をおかけしてしまったのですね、本当にごめんなさいクオ様......」そう言ってエーリヤは頬に手を添える「これで貴女にも迷惑をかけるのは最後にします......どうか最後に私のわがままを許してください」近い顔が、何がどうやったら女の方からこんなに来てくれるんだよオレにはそんな事してくれなかったのに、違う嫉妬なんかしていない羨ましいなんて思う訳がない、むしろチャンスだ利用してやればいい寄生虫に向けられた全部をオレが変わりに貰ってやれ。
そう心構えをしていたはずなのに「クオ様――好きですこの気持ちは変わりません、でもおしまいですこれからは貴方の幸せを願います、どうか素敵な方と幸せになってください」胸が締め付けられるオレに言っている訳じゃないのに真に受けるなんて、どうしてそんな悲しそうな顔するんだよ欲しいなら無理やり力づくで奪えばいいじゃないか「オレは......」分からない誰も教えてくれなかった、そんな言葉を言われた時になんて返すのがいいんだ? どんな顔でトーンで言葉を返せばいい? 口が触れるよりも前に意識がなくなり崩れ落ちる、惜しい事をした無理にでも立った状態を維持していたらよかった。
しばらくまたオレは眠るのか、仕方ない一時的に体をまた乗っ取らせておいてやるよ、だが次で最後だお前は二度と目覚めることもなくオレに殺される、精々最後のお前なりのツマンネェ物語でも作ってろ。




